ラトビア転生記 ~TSしたミリオタが第2次世界大戦を生きる~

雪楽党

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第2章 新天地

11話

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 ロレンス少佐とアレックス大佐が戦闘を初めて、30分。
 二人は自らの知力を尽くしていた。
「第4中隊で迂回してきた中隊の迎撃!」
 アレックス大佐の差し向けてきた中隊を弾き返す。
「第1と第2中隊は現在地を維持!」
 戦線を膠着させ、自らのペースに持ち込む。
 機動力では海蛇大隊が勝っている。
 大丈夫だ。勝てる。
「第3中隊は北へ前進し砲兵隊を奇襲せよ!」
 ロレンス少佐はこの一手にすべてをかけた。


「大佐! 敵の1個中隊が北進を開始しました!」
 副官がそう叫ぶ。
 やられた、そう悔いた。
 予備をすべて投入した直後での出来事。
 しかもどの方面でも押され気味。
 やはり、生身の歩兵では機甲化された歩兵には勝てないのかと天を仰ぐ。
 恐らく敵の目的は砲兵隊だ。
 砲兵隊にたどり着くには北に流れるリナー川を渡河しなければならないが、奴らに限ってそれは大した障害とはならない。
 どうする?! どうすればいい!
 彼がひとり苦悶していると副官がある提案をしてきた。
「私が行きましょう」
「貴様一人で何になる!」
 副官の提案を聞いた大佐はそう激高した。
 しかしそれに副官はニヤリと笑って答えるとこういった。
「現地警察に協力を要請しました。現在は砲兵隊と共にあるようです」
 プリマスに展開する警察は500人程度。
 およそ1個大隊。
「……抑えきれるか?」
 すると副官は「お任せください」と笑った。


 北に向かわせた第3中隊は思わぬ障害に当たった。
 警官隊の登場であった。
 本来なら軽火器すら所持しておらず拳銃程度で武装した貧弱な火力なはずのそれは、旧式の小銃を大量に持ち出し、海蛇大隊に対抗しようとした。
 また、砲兵隊の援護もあり、なんと旧式の火器にて海蛇大隊の第3中隊を押し返したのであった。
 この報告を聞いたロレンス少佐は敗北を確信した。
 敵の連隊との交戦で大隊は壊滅状態。
 第1中隊は半壊し、第2中隊は戦力の3割を喪失。
 第4中隊のみほとんど無傷で第3中隊に至っては車両の8割が走行不能という事態に陥った。
「……。中佐に、撤退許可を求めろ」
 損害報告を聞いた瞬間、ロレンス少佐はそう呟いた。


「海蛇大隊、敵精鋭連隊と交戦! 苦戦中! 撤退許可を求めています!」
 上陸開始から数時間後、海上にある我々に届けられたのは勝利の報告ではなかった。
 アフリカの地では1個大隊を共に率いて敵の師団を粉砕したあのロレンス少佐が苦戦しているという報告を聞いたときは驚いた。
 しかし、すぐに我を取り戻し明日までは現在地を維持するように命じる。
「できるかしら?」
 私がそう問うとロレンス少佐は数舜したのちに「できます」と自信をもって返してきた。
「解ったわ」と私は答え、通信機を通信員に渡すと、足早にフリースナー少将のもとへと向かった。
 そこへ向かうと彼は地図を睨みながら一人で何やら考えていた。
「中佐、か」
「はい」
 私が入るとすぐに少将は私に声をかけてきた。
 流石の洞察力だ。
 ドイツの将軍たちはみな第1次世界大戦を経験していてどこか普通ではない雰囲気があるが、この人も例外ではない。
「どうする?」
 どうやら、私の要件を把握しているようだ。
「……撤退ですかね」
 私はしばし悩んだ後にそう告げた。
 すると少将は「弱気だねぇ」と笑った。
 私はそれを聞いて憤るどころか感心した。
 この人の第1印象は奥手だったのだが、案外そんなことはないのだろうか。
「少将ならいかがなさいますか?」
 私の問いに少将は口角を吊り上げると自らの計画を語った。

「それは……ッ!」
 私はあまりの内容に驚愕するとともに少将に対して畏怖の念を抱いた。
「だが、不可能ではないだろう?」
 彼はそう笑って答える。 
 不可能ではないが、それでは――。
「もしもの時、帰還する船が足りなくなりますよ」
 彼の計画を実行に移せば恐らく成功するであろう。
 だが、それを行ってしまえば輸送力が不足し、撤退の際にいくつかの部隊を置き去りにしなければならなくなる。
「勝てばいいだけじゃないか」
 そう、少将は自身ありげに答えた。


 日没とともに海蛇大隊の攻勢は終わりを告げ、224連隊の反撃が始まった。
「敵襲ゥ!!」
 海蛇大隊の野営するアントニーの村では常時そんな叫び声が各方面から響いていた。
 結果、海蛇大隊の構成員は眠ることを未だ許されていない。
「くそっ! 規模は?!」
 悪態を吐きながらもロレンス少佐はそう怒鳴った。
 しかし、返事はない。
 情報が不足しているのは彼だけではないのだ。
 もはや前線にいる部隊ですら自分がいまどれほどの規模の部隊と対峙しているのかわからなくなっているだろう。
 それほどまでに、224連隊の攻撃は熾烈を極めていた。


 逆に、対峙するアレックス大佐の表情には余裕が生まれ始めていた。
 昼は常に主導権を敵に握られていたが、夜戦に移行するとともに主導権を奪い返したのが大きな要因だろう。
「B中隊、帰還しました」
「よし、C中隊を送れ。B中隊には休息を命じ、A中隊には準備を命じる」
 B中隊からの伝令兵にそう伝える。
 アレックス大佐の出している命令は極めて簡単なものだ。
 9個ある中隊に順番で夜襲を命じる。
 残りの8個の中隊は休憩をはさむ。
 夜襲の方法はランダムで好きな方角から行わせる。
 これで、こちらは休息をとりながらも、相手を疲弊させることができる。
 加えて砲兵隊にサイコロを渡した。
 これを砲ごとに10分に1回1度振る。
 そして6が出た時だけ射撃を行う。
 1が出ればその砲は1時間休憩を取らせる。
 他の目が出た場合はまた10分後にもう一度サイコロを振る。
 といった具合だ。
 これなら完全にランダムである。
 敵はいつ来るかわからない砲撃と夜襲に震えながら眠れぬ夜を過ごす。
 しかも相手は埠頭を確保できていない。
 援軍は来ない。
「勝った」
 思わずそう呟いた。
 後続で到着した警官隊に砲と砲兵士官を渡し沿岸に配置した。
 敵の水陸両用車程度なら撃破可能だ。
 それこそ、貨物船なんかが来ない限り、敵の増援はありえない。
 勝利、完膚なきまでの勝利だ。
 彼は周りに兵がいるのもわすれて高笑いした。
 ひとしきり笑った彼はしばしの眠りについた。

「……長!! …隊長! 連隊長!!」
 誰かが呼んでいる。
 アレックス大佐は未だ覚め切らない脳でそれを認識し、体を起き上がらせた。
「どうした?」
 彼はそう問い返しながら欠伸と共に目を開いた。
 そこにいたのは彼の副官で表情は焦りに満ちている。
「敵の戦車中隊と2個自動車化中隊です!」
「は?」
 思わず素で問い返した。
 どういうことだ。
 夜のうちに埠頭を確保されたのか?
「敵は砂浜に輸送船を座礁させ! 船首を爆破した後に上陸を開始しました!」
 

 少将から伝えられた作戦はいたって単純だった。
『埠頭がなくて下ろせないなら、無理やり船を陸に着けてしまえばいいじゃないか』と。
 2隻の輸送船を犠牲にするが、確かに効果はありそうだ。
 私が船長に伝えると、涙を流しながら「わが祖国の為なら」と言っていた。
 彼らの家を奪う申し訳なさを勝利のためと割り切り、私は非情な命令を下した。

「目標! ウィットサンド湾トレガントルビーチ!!」
 敵中で疲弊する海蛇大隊を救出すべく、第1旅団の主力が行動を開始したのだ。
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