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第2章 新天地
13話
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まずは正面に攻撃を仕掛ける。
様子見というやつだ。
次に、第1自動車化中隊と戦車中隊、海蛇大隊第3中隊を南へと進撃させる。
「頼むわね」
私は地形図を睨みながらそう呟いた。
目的は敵の予備を使わせること。
中央に攻撃をしかけ、南から半包囲しようとする行動をとる。
そうすれば敵は中央と南になけなしの戦力を投入するはずだ。
「射撃制限を全解除、全て撃ち尽くすつもりで臨みなさい!」
私は命じる。
本来なら射撃を制限し長期戦に備えるべきかもしれないが、我々の任務は埠頭の確保及び橋頭保の拡張のみだ。
その後のことは何ら求められていない。
ならば――
ここですべてを使い切ってしまおう。
「連隊長殿! 敵が攻撃を仕掛けてきました!」
「どこだ!」
指揮所に若い兵が飛び込んできた。
ついに来たか。
だが、今部隊は再編制中だ。受けきれるだろうか?
「状況は?」
「中央に敵の2個中隊が攻撃を仕掛けておりまして、不意を突かれたA大隊は混乱状態にあります」
敵の運の良さをアレックス大佐は僻んだ。
自分にも敵のような運の良さがあれば今頃は近衛連隊の連隊長でもしていたのではないだろうか。
「C大隊を急行させ中央を増強させろ」
大佐はそんな気持ちを振り払い、若い兵にそう伝える。
ともかく、今中央が崩壊すれば北と南に展開している部隊が分断されてしまう。
それだけは避けなければならない。
「砲兵隊にも援護を命じろ!」
アレックス大佐は思い出したように叫ぶと安堵の息を吐いた。
2個中隊の強襲に対して2個の大隊を差し向け、挙句の果てには砲兵の支援もあるのだ。
間違っても突破されることはないだろう。
しかし続いてもたらされた報告は彼の顔色を一変させた。
戦車を含む敵の3個中隊が南で警戒していた大隊を粉砕しこちらへ向かっている。と。
私にとってうれしい誤算が2つあった。
それは予想以上に海蛇大隊の損害が少ないということ。
1個中隊分こそ壊滅したが、士気の低下がほとんどない。
もう一つは敵の連隊が予想以上に疲弊しているということ。
それは南に向かわせた3個中隊が敵の1個大隊を数分としないうちに撃破したことが物語っていた。
とは言え、突破はしたものの、敵の増援が到着して押すに押せない状況となってしまい、現在は膠着している。
それどころか中央では敵の砲兵による攻撃を喰らい押されている。
「頃合い、かしらね」
私はそう笑う。
恐らく敵の脳裏には勝利の二文字がよぎっているだろう。
なればこそ、その浮ついた敵を叩き潰してやる。
「海蛇大隊の第1中隊と第2中隊に北進を命じる。砲兵を叩きなさい」
敵砲兵の撃滅。
それは戦局を覆すのには十分の要件を満たしている。
物理的な敵火力の低下もそうだが、敵の士気低下も大きく作用する。
「部隊長は――」
私が北進する部隊の長を任命しようとした瞬間、ある男が現れた。
「中佐、その任務ぜひとも私にお命じください」
「少佐。だめよ、貴官は療養しなさい」
現れた男はロレンス少佐であった。
見るからにやつれていて、足元もふら付いている。
彼は十分に任務を果たしたのだ。
埠頭こそ確保できなかったが、1日間大隊をよくまとめ、敵の連隊からの熾烈な攻撃を凌いだ。
それだけでは不満足なの?
「未だ、部下が戦っております。自分ひとり療養するわけにもいきますまい」
彼の言葉に私は口角が少し上がるのを感じた。
やはりこの人は私の尊敬に値する人間だ。
彼を認めるほかない。
「解ったわ。貴男に任せるわ。任務は敵砲兵の撃滅、いいわね?」
「ハッ! 了解致しました!!」
彼は威勢よくそう返事をし、去っていった。
アレックス大佐率いる224連隊の状況は悲惨なものであった。
南と中央から迫ってきた敵を抑えている間に北の丘に展開していた砲兵を蹴散らされてしまった。
先日は敵を跳ね返すことに成功した警官隊も疲労により瞬殺されたという。
これが、敵の策だとしたらなんと恐ろしいことか。
だが、そんなことを考えている暇は彼にはなかった。
「連隊長、一度トアポイントまで下がりましょう」
トアポイント。それは現在彼らが展開するメアリーフィールドから2kmほど先にある埠頭を有する地点だ。
多くの住宅と倉庫が連なるそこは防衛には適している。
しかしそこまで下がってしまえば三方を川と海に囲われ、もう一方からは敵が迫るという状況になってしまう。
「我々は時間を稼ぐべきです。いずれ味方の増援が到着いたしましょう」
副官はそう言った。
アレックス大佐は覚悟を決めた。
「全部隊に命じろ。残存兵力をトアポイントに結集し最後の抵抗を行うと」
「ハッ!」
「国王陛下に命をささげるぞ」
彼はそう言って口角を吊り上げた。
「敵が撤退していきます」
ヴェゼモアから私のもとへ報告が上がってきた。
一見敵の撤退は喜ぶべきことかもしれないが、私にとっては最悪の展開であった。
兵力に劣る我々が敵を打倒するには機動力を活かせる野戦以外に方法がなかった。
しかし、市街地にこもっての市街戦となると我々の機動力は活かせない。
それどころか車両を市街地に持ち込めば装甲の薄い上部装甲を攻撃される恐れもある。
どうしたものか。
「うーん……」
私がそううねって思案していると、北から戻ってきたロレンス少佐が近づいてきた。
「いかがなさいましたか?」
ロレンス少佐にそう問われ、私は自らの考えを打ち明けた。
彼は私の言葉を聞くと「火力、ですね」といった。
「火力?」
「市街地とは要塞です。要塞に最も効く攻撃は砲撃でしょう」
なるほど、一里ある。
だがしかしその火力はどこにあるのだろうか?
火力支援車は破壊され、自走砲の上陸は未だ完了していない。
そう尋ねるとロレンス少佐は不気味に口角を吊り上げ、海の方を指さした。
「あるではないですか、移動する要塞が」
つくづく恐ろしい人間だ。
「諸君! 陸にいるリューイ嬢からの救援要請があった!」
戦艦ビスマルクの船橋でレーダー提督が叫んだ。
「我々は彼女を救うことも、殺すこともできる! 貴様らはどうしたい!」
彼の問いに船橋にいた者たち、そして無線で彼の言葉を聞いていたものたちはこう口々に叫んだ。
「女性を扶けてやれずになにが男だ!」
「我々は尖兵たるリューイ中佐殿を見捨てはしない!」
「ドイツ海軍の誇りを見せてやれ!」
等々……。
レーダーはその言葉を聞いているうちに自らも楽しくなってしまった。
「ならば諸君、彼女を救おうではないか!」
「応!」
「艦隊、前進せよ!」
輸送船団の後方にて姿を隠していたレーダー率いる艦隊がいま、動き始めた。
様子見というやつだ。
次に、第1自動車化中隊と戦車中隊、海蛇大隊第3中隊を南へと進撃させる。
「頼むわね」
私は地形図を睨みながらそう呟いた。
目的は敵の予備を使わせること。
中央に攻撃をしかけ、南から半包囲しようとする行動をとる。
そうすれば敵は中央と南になけなしの戦力を投入するはずだ。
「射撃制限を全解除、全て撃ち尽くすつもりで臨みなさい!」
私は命じる。
本来なら射撃を制限し長期戦に備えるべきかもしれないが、我々の任務は埠頭の確保及び橋頭保の拡張のみだ。
その後のことは何ら求められていない。
ならば――
ここですべてを使い切ってしまおう。
「連隊長殿! 敵が攻撃を仕掛けてきました!」
「どこだ!」
指揮所に若い兵が飛び込んできた。
ついに来たか。
だが、今部隊は再編制中だ。受けきれるだろうか?
「状況は?」
「中央に敵の2個中隊が攻撃を仕掛けておりまして、不意を突かれたA大隊は混乱状態にあります」
敵の運の良さをアレックス大佐は僻んだ。
自分にも敵のような運の良さがあれば今頃は近衛連隊の連隊長でもしていたのではないだろうか。
「C大隊を急行させ中央を増強させろ」
大佐はそんな気持ちを振り払い、若い兵にそう伝える。
ともかく、今中央が崩壊すれば北と南に展開している部隊が分断されてしまう。
それだけは避けなければならない。
「砲兵隊にも援護を命じろ!」
アレックス大佐は思い出したように叫ぶと安堵の息を吐いた。
2個中隊の強襲に対して2個の大隊を差し向け、挙句の果てには砲兵の支援もあるのだ。
間違っても突破されることはないだろう。
しかし続いてもたらされた報告は彼の顔色を一変させた。
戦車を含む敵の3個中隊が南で警戒していた大隊を粉砕しこちらへ向かっている。と。
私にとってうれしい誤算が2つあった。
それは予想以上に海蛇大隊の損害が少ないということ。
1個中隊分こそ壊滅したが、士気の低下がほとんどない。
もう一つは敵の連隊が予想以上に疲弊しているということ。
それは南に向かわせた3個中隊が敵の1個大隊を数分としないうちに撃破したことが物語っていた。
とは言え、突破はしたものの、敵の増援が到着して押すに押せない状況となってしまい、現在は膠着している。
それどころか中央では敵の砲兵による攻撃を喰らい押されている。
「頃合い、かしらね」
私はそう笑う。
恐らく敵の脳裏には勝利の二文字がよぎっているだろう。
なればこそ、その浮ついた敵を叩き潰してやる。
「海蛇大隊の第1中隊と第2中隊に北進を命じる。砲兵を叩きなさい」
敵砲兵の撃滅。
それは戦局を覆すのには十分の要件を満たしている。
物理的な敵火力の低下もそうだが、敵の士気低下も大きく作用する。
「部隊長は――」
私が北進する部隊の長を任命しようとした瞬間、ある男が現れた。
「中佐、その任務ぜひとも私にお命じください」
「少佐。だめよ、貴官は療養しなさい」
現れた男はロレンス少佐であった。
見るからにやつれていて、足元もふら付いている。
彼は十分に任務を果たしたのだ。
埠頭こそ確保できなかったが、1日間大隊をよくまとめ、敵の連隊からの熾烈な攻撃を凌いだ。
それだけでは不満足なの?
「未だ、部下が戦っております。自分ひとり療養するわけにもいきますまい」
彼の言葉に私は口角が少し上がるのを感じた。
やはりこの人は私の尊敬に値する人間だ。
彼を認めるほかない。
「解ったわ。貴男に任せるわ。任務は敵砲兵の撃滅、いいわね?」
「ハッ! 了解致しました!!」
彼は威勢よくそう返事をし、去っていった。
アレックス大佐率いる224連隊の状況は悲惨なものであった。
南と中央から迫ってきた敵を抑えている間に北の丘に展開していた砲兵を蹴散らされてしまった。
先日は敵を跳ね返すことに成功した警官隊も疲労により瞬殺されたという。
これが、敵の策だとしたらなんと恐ろしいことか。
だが、そんなことを考えている暇は彼にはなかった。
「連隊長、一度トアポイントまで下がりましょう」
トアポイント。それは現在彼らが展開するメアリーフィールドから2kmほど先にある埠頭を有する地点だ。
多くの住宅と倉庫が連なるそこは防衛には適している。
しかしそこまで下がってしまえば三方を川と海に囲われ、もう一方からは敵が迫るという状況になってしまう。
「我々は時間を稼ぐべきです。いずれ味方の増援が到着いたしましょう」
副官はそう言った。
アレックス大佐は覚悟を決めた。
「全部隊に命じろ。残存兵力をトアポイントに結集し最後の抵抗を行うと」
「ハッ!」
「国王陛下に命をささげるぞ」
彼はそう言って口角を吊り上げた。
「敵が撤退していきます」
ヴェゼモアから私のもとへ報告が上がってきた。
一見敵の撤退は喜ぶべきことかもしれないが、私にとっては最悪の展開であった。
兵力に劣る我々が敵を打倒するには機動力を活かせる野戦以外に方法がなかった。
しかし、市街地にこもっての市街戦となると我々の機動力は活かせない。
それどころか車両を市街地に持ち込めば装甲の薄い上部装甲を攻撃される恐れもある。
どうしたものか。
「うーん……」
私がそううねって思案していると、北から戻ってきたロレンス少佐が近づいてきた。
「いかがなさいましたか?」
ロレンス少佐にそう問われ、私は自らの考えを打ち明けた。
彼は私の言葉を聞くと「火力、ですね」といった。
「火力?」
「市街地とは要塞です。要塞に最も効く攻撃は砲撃でしょう」
なるほど、一里ある。
だがしかしその火力はどこにあるのだろうか?
火力支援車は破壊され、自走砲の上陸は未だ完了していない。
そう尋ねるとロレンス少佐は不気味に口角を吊り上げ、海の方を指さした。
「あるではないですか、移動する要塞が」
つくづく恐ろしい人間だ。
「諸君! 陸にいるリューイ嬢からの救援要請があった!」
戦艦ビスマルクの船橋でレーダー提督が叫んだ。
「我々は彼女を救うことも、殺すこともできる! 貴様らはどうしたい!」
彼の問いに船橋にいた者たち、そして無線で彼の言葉を聞いていたものたちはこう口々に叫んだ。
「女性を扶けてやれずになにが男だ!」
「我々は尖兵たるリューイ中佐殿を見捨てはしない!」
「ドイツ海軍の誇りを見せてやれ!」
等々……。
レーダーはその言葉を聞いているうちに自らも楽しくなってしまった。
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