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第2章 新天地
29話
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「あのー……旅団長」
両翼へと攻撃開始の命令を出した私は突撃の時を今か今かと待っていた。
そこへ通信兵が額にしわを寄せて私に申し訳なさそうに声をかけてきた。
「どうしたのかしら。今私は敵に突撃するための準備で忙しいのよ」
私はいら立ちと共にそう答えると「実はその敵なんですけど……」と言葉を詰まらせていた。
戦闘中だというのに悠長な彼に腹を立てた私が急かすと、ようやく口を開いた。
「両翼の部隊だけで……壊滅させちゃったみたいなんです」
「は?」
思わずそう問い返した。
まさか2個中隊で1個大隊を撃破できるのだろうか?
しかも相手は防衛で、塹壕すら構築してるんだぞ。
「準備砲撃しただけで撤退したようなんです」
伝令兵の言葉に私は絶句した。
だが、よく考えればすぐ合点がいった。
この時期のソビエト軍は古参の士官や兵を粛清し大幅に練度が低下していたのであった。
「……進軍するわよ」
何はともあれ、目の目にいた防衛部隊を撃破したのだ。
だとすれば後方に浸透するほかない。
「目標レニングラード。全速力をもって突撃する」
今や部隊は完全なる自動車化に成功している。
全速で行軍したとしても部隊が遅れることもない。
「3日以内にレニングラードを包囲するわよ」
私の命令に周囲にいた兵たちは「応」と歓声で答えた。
ソビエト首都、モスクワ。親衛戦車大隊、大隊長執務室。
そこには黒髪短髪の青年と赤髪長髪の少女がいた。
「エレーナ。戦争がはじまった」
黒髪短髪の青年、トゥハチェンスキがそういった。
彼の襟元には中佐の階級章が輝いていた。
「どーする? まだ練度はひくいよ」
赤髪長髪の少女、エレーナはそう返した。
彼らの部隊は先のバルトニアとの戦争で壊滅してから遅々として再配備が進まず、漸く部隊に補充が来たと思ったら補充兵は新兵ばかりで、到底実戦可能とはいい難かった。
「訓練でつながりのある各部隊に『野良犬を見なかったか』と聞きまくろう」
エレーナの問いにトゥハチェンスキはそう答えた。
彼らはいくつかの部隊と訓練をしており、その際に知己を得た部隊も多い。
「とか言っといて、大体の見当はついてるんでしょ?」
エレーナがそう言って笑った。
それにトゥハチェンスキは笑うと「まぁな」と答えた。
「恐らく野良犬は北にいる。多分目標はレニングラードだ」
一度彼らはレニングラード攻略を失敗している。
だからこそ狡猾に狙ってくる。
一度彼らはあの土地を通っている。
あの土地で戦ったことがある。
それは大きなアドバンテージとなるだろう。
「そっかぁ。で、ミハウェルはどうするの?」
「トゥハチェンスキ中佐な。まぁ、俺たちはまだ静観を決めるべきだろう」
トゥハチェンスキの言葉が意外だったのかエレーナは驚いたような顔をした。
すると戸をノックする音が聞こえた。
「あぁ。どうぞ」
トゥハチェンスキがそういうとエレーナは不思議そうな顔をして「誰?」と尋ねてきた。
それにトゥハチェンスキは冗談気に笑うとこういった。
「野良犬被害者の会ってところかな?」
彼がそういうと、一人の中年の男が入ってきた。
筋肉逞しく、長身である彼は襟元に大佐の階級章をつけていた。
「紹介しよう、チェレンコフ・ボドルスキ大佐だ」
トゥハチェンスキが紹介したのは第3空挺旅団旅団長、チェレンコフ大佐だった。
「では、そういうことで」
トゥハチェンスキはチェレンコフにそういうと、彼もまた「承った」と返した。
対リューイ・ルーカスのための作戦。
第3空挺旅団と第1親衛戦車大隊及び複数部隊による極秘作戦。
これを知るのは当該部隊とソビエト書記長であるヨーゼフしか知らない。
どこで行うかも自由とされている。
「かならずや、奴を仕留めましょう」
トゥハチェンスキはそう笑った。
侵攻を初めてから1週間としないうちにレニングラードを包囲した。
南からはドイツ軍。
北からはフィンランド軍による包囲。
こちらは総勢10個師団。
相手は3個師団。
陥落は目前だと誰もが思っていた。
全員が総軍による総攻撃を唱えた中。
ただ一人の女性士官は異を唱えたという。
「全軍をもって早急に撃滅すべし!」
「敵は瀕死の3個師団! こちらは完全装備の10個師団! 負ける道理などあるはずない!」
口々に早期決着を唱える将校達のなかで私は静観していた。
こうして史実でも無駄な屍を積み重ねていったのか。
そう考えると無性に腹が立ってきた。
彼らは私よりもいくつも階級が高かった。
だが、叫ばずにはいられなかった。
「現実をみるのよ!」と。
机をたたき立ち上がりながら怒鳴った私を嫌悪感とともににらみつける者もいれば、なにか期待の眼差しを向ける者もいた。
「敵は確かに3個師団! でも、都市部には兵役についていない青年男性が無数にいるのよ!」
私は叫んだ。
民兵の恐ろしさは誰よりも経験している。
市街戦の恐ろしさは誰よりも経験している。
「市街地は塹壕よりも強固でもはや要塞ともいえるのよ!」
私は叫ぶ。
市街地で何度苦戦したことか。
「番犬が何を腑抜けたことを抜かすか!」
一人の将校が叫びをあげた。
見ない顔だ。
恐らくは今まで前線には出てこなかったのだろう。
「貴様は我々の隷下なのだぞ! こうやって会議に参加できるだけありがたいと思え!」
その瞬間、私の中で何かが切れるのを感じた。
意固地になったと言えばいいのだろうか。
だが、私は売り文句に買い文句で挑発してしまった。
「ならば次の総攻撃でレニングラードを攻略できるのですね! だというのなら協力してやりますよ!!」
私の言葉に将校は額に血管を浮かべて怒鳴り上げた。
「その言葉に二言はないな!」
私はそれにゆっくりと「番犬の名にかけて」と答える。
それを聞いていた北方軍集団の指揮官であるレープは拍手と共にこう答えた。
「すばらしい。では3日後の早朝より総攻撃を行う」
レニングラード攻略戦の口火が切られようとしていた。
両翼へと攻撃開始の命令を出した私は突撃の時を今か今かと待っていた。
そこへ通信兵が額にしわを寄せて私に申し訳なさそうに声をかけてきた。
「どうしたのかしら。今私は敵に突撃するための準備で忙しいのよ」
私はいら立ちと共にそう答えると「実はその敵なんですけど……」と言葉を詰まらせていた。
戦闘中だというのに悠長な彼に腹を立てた私が急かすと、ようやく口を開いた。
「両翼の部隊だけで……壊滅させちゃったみたいなんです」
「は?」
思わずそう問い返した。
まさか2個中隊で1個大隊を撃破できるのだろうか?
しかも相手は防衛で、塹壕すら構築してるんだぞ。
「準備砲撃しただけで撤退したようなんです」
伝令兵の言葉に私は絶句した。
だが、よく考えればすぐ合点がいった。
この時期のソビエト軍は古参の士官や兵を粛清し大幅に練度が低下していたのであった。
「……進軍するわよ」
何はともあれ、目の目にいた防衛部隊を撃破したのだ。
だとすれば後方に浸透するほかない。
「目標レニングラード。全速力をもって突撃する」
今や部隊は完全なる自動車化に成功している。
全速で行軍したとしても部隊が遅れることもない。
「3日以内にレニングラードを包囲するわよ」
私の命令に周囲にいた兵たちは「応」と歓声で答えた。
ソビエト首都、モスクワ。親衛戦車大隊、大隊長執務室。
そこには黒髪短髪の青年と赤髪長髪の少女がいた。
「エレーナ。戦争がはじまった」
黒髪短髪の青年、トゥハチェンスキがそういった。
彼の襟元には中佐の階級章が輝いていた。
「どーする? まだ練度はひくいよ」
赤髪長髪の少女、エレーナはそう返した。
彼らの部隊は先のバルトニアとの戦争で壊滅してから遅々として再配備が進まず、漸く部隊に補充が来たと思ったら補充兵は新兵ばかりで、到底実戦可能とはいい難かった。
「訓練でつながりのある各部隊に『野良犬を見なかったか』と聞きまくろう」
エレーナの問いにトゥハチェンスキはそう答えた。
彼らはいくつかの部隊と訓練をしており、その際に知己を得た部隊も多い。
「とか言っといて、大体の見当はついてるんでしょ?」
エレーナがそう言って笑った。
それにトゥハチェンスキは笑うと「まぁな」と答えた。
「恐らく野良犬は北にいる。多分目標はレニングラードだ」
一度彼らはレニングラード攻略を失敗している。
だからこそ狡猾に狙ってくる。
一度彼らはあの土地を通っている。
あの土地で戦ったことがある。
それは大きなアドバンテージとなるだろう。
「そっかぁ。で、ミハウェルはどうするの?」
「トゥハチェンスキ中佐な。まぁ、俺たちはまだ静観を決めるべきだろう」
トゥハチェンスキの言葉が意外だったのかエレーナは驚いたような顔をした。
すると戸をノックする音が聞こえた。
「あぁ。どうぞ」
トゥハチェンスキがそういうとエレーナは不思議そうな顔をして「誰?」と尋ねてきた。
それにトゥハチェンスキは冗談気に笑うとこういった。
「野良犬被害者の会ってところかな?」
彼がそういうと、一人の中年の男が入ってきた。
筋肉逞しく、長身である彼は襟元に大佐の階級章をつけていた。
「紹介しよう、チェレンコフ・ボドルスキ大佐だ」
トゥハチェンスキが紹介したのは第3空挺旅団旅団長、チェレンコフ大佐だった。
「では、そういうことで」
トゥハチェンスキはチェレンコフにそういうと、彼もまた「承った」と返した。
対リューイ・ルーカスのための作戦。
第3空挺旅団と第1親衛戦車大隊及び複数部隊による極秘作戦。
これを知るのは当該部隊とソビエト書記長であるヨーゼフしか知らない。
どこで行うかも自由とされている。
「かならずや、奴を仕留めましょう」
トゥハチェンスキはそう笑った。
侵攻を初めてから1週間としないうちにレニングラードを包囲した。
南からはドイツ軍。
北からはフィンランド軍による包囲。
こちらは総勢10個師団。
相手は3個師団。
陥落は目前だと誰もが思っていた。
全員が総軍による総攻撃を唱えた中。
ただ一人の女性士官は異を唱えたという。
「全軍をもって早急に撃滅すべし!」
「敵は瀕死の3個師団! こちらは完全装備の10個師団! 負ける道理などあるはずない!」
口々に早期決着を唱える将校達のなかで私は静観していた。
こうして史実でも無駄な屍を積み重ねていったのか。
そう考えると無性に腹が立ってきた。
彼らは私よりもいくつも階級が高かった。
だが、叫ばずにはいられなかった。
「現実をみるのよ!」と。
机をたたき立ち上がりながら怒鳴った私を嫌悪感とともににらみつける者もいれば、なにか期待の眼差しを向ける者もいた。
「敵は確かに3個師団! でも、都市部には兵役についていない青年男性が無数にいるのよ!」
私は叫んだ。
民兵の恐ろしさは誰よりも経験している。
市街戦の恐ろしさは誰よりも経験している。
「市街地は塹壕よりも強固でもはや要塞ともいえるのよ!」
私は叫ぶ。
市街地で何度苦戦したことか。
「番犬が何を腑抜けたことを抜かすか!」
一人の将校が叫びをあげた。
見ない顔だ。
恐らくは今まで前線には出てこなかったのだろう。
「貴様は我々の隷下なのだぞ! こうやって会議に参加できるだけありがたいと思え!」
その瞬間、私の中で何かが切れるのを感じた。
意固地になったと言えばいいのだろうか。
だが、私は売り文句に買い文句で挑発してしまった。
「ならば次の総攻撃でレニングラードを攻略できるのですね! だというのなら協力してやりますよ!!」
私の言葉に将校は額に血管を浮かべて怒鳴り上げた。
「その言葉に二言はないな!」
私はそれにゆっくりと「番犬の名にかけて」と答える。
それを聞いていた北方軍集団の指揮官であるレープは拍手と共にこう答えた。
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