ラトビア転生記 ~TSしたミリオタが第2次世界大戦を生きる~

雪楽党

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第2章 新天地

45話

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 ヒトラーの案はすぐさま実行に移された。
 この時期、バルバロッサ作戦の第1、第2段階でひどく疲弊した部隊の一部が後方に下がっており、彼の提案はこの部隊を有効に利用するというものだった。
「同盟軍の一部を我が国規格の部隊へと作り替え、統合軍に組み込む」
 新兵を一から教育するよりはマシであった。
 基礎教育や戦術は行き届いているが装備面で劣るルーマニアやハンガリー、ブルガリア、イタリアの同盟軍にドイツの装備品を与えることで、10万の完全充足のドイツ軍を新たに戦線に投入することが可能になった。
 この部隊にはこれから到来するであろう冬季戦用の装備品や補充品が多く渡された。
 しかしながら代償も大きく、北方軍では装備品不足に陥りかけたようだ。
 これについてはバルトニアの工業地域でドイツの装備品を昔から生産していたおかげか、工場から前線へ武器を直接供給する形で何とか崩壊を防ぐことができた。
 すべてが整ったのは10月の始め。
 統合軍の編成は以下の通りとなった。

第1軍団 ベルント・シューマイン大将
 第2旅団 フォルマン・ルーカス大佐(装甲車装備
 第3旅団 アレッシオ・スカルキ少将(自動車化歩兵
 ドイツ軍2個装甲師団
 総兵力 12000名

第2軍団 イグナツ・オルバーン中将
 ハンガリー軍3個歩兵師団
 総兵力 30000名

第3軍団 アドリアン・ナスタセ中将
 ルーマニア軍2個師団
 イタリア軍1個師団
 総兵力 30000名

第4軍団 イリタン・ストヤノフ 大将
 ブルガリア軍2個師団
 クロアチア軍1個師団
 総兵力 30000名

司令部直轄部隊
 第1旅団 リューイ・ルーカス大佐
 総兵力 1500名

 リューイ・ルーカスの作り上げた統合軍制度はドイツ軍の手によって完成されつつあった。
 そして、この全軍の指揮を執ることになったのはあの男だった。


 時は少しさかのぼる。
 1941年8月1日。
 ある男がアフリカから帰還した。
「よく来たな」
 総統官邸、インクのにおいを体に染みつかせた男たちの中に一人だけ、砂と石油のにおいをまとわせた男がいた。
「ハッ。本日付けで帰還いたしました」
 彼の言葉にヒトラーは微笑んだ。
 その男はヒトラー子飼いの将軍と評されており、西方電撃戦でグデーリアンと共に「無謀者」としてさげすまれた。
「まぁ座りたまえ、ロンメル君」
『砂漠の狐』が欧州に舞い戻った。
 ロンメルは言われるまま、ヒトラーの対面の椅子に腰かけた。
「バルバロッサ作戦の進展は聞いているかね?」
 ヒトラーはコーヒーを一口含むとそう尋ねた。
 彼の言葉を聞いてロンメルはしばし悩んだ。
「アフリカに必死であまり知りません」
 素直にロンメルはそう答えた。
「まぁ、それもそうか。よくアフリカを安定させてくれた」
 ヒトラーはそう言ってロンメルを賞賛した。
 開戦から暫くの間、アフリカ方面のイタリア軍は敗走を重ねていた。
 しかし、ロンメルは素早く戦線を立て直すと反撃し、見事アフリカ戦線の主導権を握った。
「これから、と言う時でしたな」
 ロンメルはそう言って眉をひそめた。
 彼はこれからアフリカ方面でさらなる攻勢に転じようとしていた頃であった。
 そんな中でヒトラーに呼び出されてしまった。
「まぁまぁ。アフリカ方面はもういい」
 ヒトラーの言葉にロンメルは眉をひそめた。
「率直に、スエズを落とせるとでも思っているのか?」
 彼はそう言ってロンメルを見つめた。
 彼の態度にロンメルは言葉を詰まらせた。
 イタリア軍はスエズ運河の占領を目標に掲げているが無謀にもほどがある。
「つまり、アフリカ戦線は敵を引き付けるための餌にするのが良い、と?」
 北アフリカの一部を占領されたイギリス軍は植民地軍を動員し必死に抵抗している。
 ロンメルの問いにヒトラーは「そうだ」と答えた。
「国民はアフリカでの勝利よりもソ連の降伏を望んでいる」
 ヒトラーはそう断言した。
 現在のドイツ国内では少しずつであるが厭戦ムードがくすぶりつつある。
 いままではロンメルによるアフリカでの連勝と独ソ戦の状況でなんとか誤魔化せていたが、ソ連の抵抗が強くなった今、それも長くはもたない。
「なるほど。理解いたしました」
「そこで、貴官には新しく編成された部隊を指揮してもらいたい」
 彼の言葉にロンメルは嫌な予感がした。
「新兵などまっぴらごめんですな」
 ロンメルはそう言って断ろうとした。
「いいや、新兵などではないぞ」
 ヒトラーはそう言って笑みを浮かべる。
「貴官も名前は知っているのではないか? 番犬、リューイ・ルーカスだよ」
 その女性将校の名前を聞いてロンメルの目つきが変わった。
 彼とリューイはフランス戦線で肩を並べている。
「韋駄天グデーリアンが指揮していたあの女性将校ですか」
 ロンメルはその新たな部隊とやらに少しずつ、興味を抱いていた。
「他には?」
「装甲軍団が1つ、歩兵軍団が3つだ」
 ヒトラーはそう言って答えた。
 再編された統合軍のうち、第1軍団はそのすべてが自動車化されている。
「……お受けいたしましょう」
 ロンメルはしばし悩んだ後そう答えた。
 彼の返答にヒトラーは満面の笑みを浮かべると「では仔細を説明しよう」と答えた。


「まさか、ね」
 ロンメル将軍着任す。
 その報告が私のもとに届いたのは彼の着任直前であった。
 てっきりどこぞの無能将軍でも付くものかと思っていたが、彼が来るとは……。
「アフリカ戦線を棄てたってこと?」
 横に立っていたリマイナはそう尋ねてきた。
 彼女の問いに私は「アフリカよりも東方戦線を取ったようね」と答えた。
 これは見事としか言いようがなかった。
 現在東部戦線には無数のタレントがそろっている。
 それこそ、世界最強の軍隊と最も優秀な将軍たちと言えるだろう。
 彼らの中に、ロンメルが加わるとなればもはや敵なしだ。
「それにしても、なんで私の部隊だけ旅団直轄なのよ……」
 私はそう言って頭を抱えた。
 父やアレッシオ少将の部隊はそのまま第1軍団としてドイツ軍戦車師団と纏められたのに、なぜ私の部隊だけ……。
「それほど期待されてるんだよ」
 リマイナはそう言ってうれしそうに笑った。
「そうだといいわね」と軽く答えると私は装備一覧に目を通した。
「ユリアン大尉とクラウス大尉はどう?」
 私の問いにリマイナは茶菓子を頬張りながら「うーん。いい感じ」と答えた。
「多分二人とも、大隊位なら指揮できるよ」
 リマイナの返答に私は心強さを感じた。
 彼女の人を目る目は確かだ。
「部隊の練度は?」
 私がそう尋ねるとリマイナは小さく笑みを浮かべた。
「私の中隊には敵わないかなぁ」
 自慢げなリマイナの笑み。
 私はそれに苦笑いを浮かべた。
 現状、戦車中隊同士で模擬戦を行わせたら勝利するのは第3中隊だろう。
 あの部隊は異様に士気が高い。
「ロンメル将軍を迎える準備をしましょうか」
 私はそう言って笑みを浮かべた。
 

「モスト大尉、番犬は私のことを知っていると思うか?」
 ロンメルは参謀たちが乗り込むトラックに先んじてハーフトラックでわずかな護衛と副官を連れてスモレンスク郊外へと向かっていた。
 モスト大尉と呼ばれた男はロンメルの副官であり、史実ではフランス戦線で戦死しているが、この世界ではわずかな差異によって彼は生存していた。
「どうでしょうかね。意外と嫌われているかもしれませんよ」
 モスト大尉はそう言って冗談で答えた。
「あぁ、戦果を競い合ったライバルだからなぁ」
 ロンメルはそう言って地平線を睨む。
 砂漠とは違い、このロシアの大地はいささか過ごしやすい。
「アフリカよりはましですね」
 モスト大尉の言葉に周囲の兵たちも声を上げて笑った。
 彼らはアフリカ戦線からロンメルが引き抜いた精鋭である。

「ソ連を屈服させるとしようか」
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