野獣公爵の執愛

ゆき真白

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第一章

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「な、なに……?」

 剣呑な様子に身を縮こまらせながら問えば、ジルヴィウスは大きく息を吐き、眉を寄せた。

「お前が無知なのか、ただの考えなしなのか考えていた」
「? どういう――」
「初夜に何をやるかは知ってるか?」
「そ、それは……もちろん」

 閨については、母の古い友人が丁寧に教えてくれた。母の死後も何かと気にかけてくれた人で、シーラにとっては第二の母のような人物だった。

(少し気恥ずかしかったけど、本当にすごく丁寧に……ちょっと明け透けすぎるくらいに教えてくれたのよね)

 彼女の詳細すぎる説明を思い出し、わずかに頬染めると、ジルヴィウスに思い切り顎を掴まれた。

「念のための確認だが、お前にその知識を与えたのは、お前の元婚約者じゃないだろうな」

 それは、これまで聞いたことがないような、地を這うような声だった。
 明らかな憤怒を孕んだジルヴィウスの声に血の気が引くのを感じながら、シーラは慌てて首を横に振る。

「違うよ……! ベシエール夫人! 伯爵家の! 会ったことあるよね……!?」
「――ああ。お前の母の友人か」

 すぐに誰か思い至ったようで、顎を掴むジルヴィウスの力が弱まる。
 それに内心安堵しつつ、シーラは出立直前に兄に言われたことを思い出していた。

『ジルヴィウスがお前に何かするとは思えないが……あいつの前では極力、北部公爵家の話はしないほうがいい。……すまないな』

 そう言って、兄は申し訳なさそうに微笑んだ。
 兄の謝罪の理由はわからないが、もしかしたらジルヴィウスは北部公爵家が嫌いなのかもしれない、とそのときのシーラは考えた。そして、その予想は合っていたのだろう、とシーラは小さく喉を鳴らす。

(ジルの前では北部公爵家の話をしないよう気を付けないと……)

 シーラはそう決意しつつ、これだけは言わなくては、と顎を掴むジルの手にそっと触れた。

「わたしにその……そういうことを教えてくれたのはベシエール夫人で、他の誰ともそういう話はしたことないよ。キスも、こうして触れるのも、ジルが初めて」

 両手でジルヴィウスの手を掴み、いまだ胡乱な目を向ける彼に笑みを向ける。
 ジルヴィウスはしばしシーラを見つめたあと、小さく鼻を鳴らした。

「……まあ、いいだろう」

 大人しく手を引いたジルヴィウスに、シーラはほっと安堵の息を漏らした。しかし、彼がそのまま完全に体を起こしたのを見て、気分は少しだけ沈む。

(もうちょっとくっついていたかった――)

「――な!?」

 突然ジルヴィウスに抱き起こされ、間の抜けた声が漏れる。
 気が付けばジルヴィウスの足を跨ぎ、向かい合わせるになるように座らされていた。

「ジ、っん」

 さらりと垂れる髪を掬うように後頭部を掴んだジルヴィウスが、少々乱暴に唇を重ねる。
 ちゅ、ちゅう、と音を立てて唇を吸いながら、ジルヴィウスはもう一方の腕でしっかりとシーラの腰を掴む。だけではなく、下半身同士を擦り合わせるように、腰をゆすり始めた。
 先ほど太腿に当たっていた硬いものが足のあわいに押し込まれ、シーラは肩を跳ねさせる。

「まっ、待って、ジル……!」
「お前は待てばかりだな、シーラ」
「だっ、当たってっ……さっきの硬いのがっ……!」

(大事なところに……!)

 とはさすがに口に出せず、シーラはなんとかジルヴィウスから逃れようと体を捩る。けれどジルヴィウスの拘束はまったく緩まず、むしろ両方の腕をがっちりと腰に回された。

「そろそろお前の言った“硬いもの”の正体がわかったんじゃないか?」
「え……?」

 感じたことのない甘い痺れが広がるのを感じながら、シーラはジルヴィウスの言葉を反芻する。

(ベルト、じゃなくて……硬い……硬いもの……初夜が関係してるの? ちゃんと考えたいのに……)

「ゃ、あ……そこ、だめ……ジル……」

 ジルヴィウスが動くたび、じくじくとした疼きが湧き上がり、思考を溶かしていく。未知の感覚に恐怖にも似た思いを抱いたシーラは、縋るようにジルヴィウスのシャツを掴んだ。

「ジル、だめ……おねがい……」

 は、と熱い息をこぼしながら願えば、ジルは不服そうに眉根を寄せながらも動きを止めてくれた。それに安堵したのも束の間、なくなった刺激に自分が若干の寂しさを覚えていることに気が付き、シーラは戸惑う。

(どうして……)

 腹の奥に何かむずむずとしたものが溜まっていくのを感じていると、ジルヴィウスに軽く頬を摘ままれた。

「……止めたのはお前のくせに、そんな顔を浮かべるのか?」
「そんな顔……?」

(って、どんな顔……?)

 わからず小首を傾げれば、ジルヴィウスは頬を摘まんでいた手を滑らせ、うなじへと回した。

「男を欲しがる女の顔だ」
「っん」

 そのまま口付けたジルヴィウスは、戸惑うシーラをよそに、躊躇なく舌が侵入させた。
 歯列をなぞり、頬の内側を舐め、口蓋を舌先でくすぐって、シーラの舌を絡めとる。互いの境界をなくすように、執拗に舌同士を擦り合わせるジルヴィウスに、シーラはただなすがまま身を任せる。
 どれだけそうしていたのか、もはや舌の感覚がなくなり始めたところで、やっとジルヴィウスはシーラを解放した。
 ずっと開いていた口はすぐに閉じることができず、どちらのものかもわからない唾液がぽたぽたと落ちる。服についた染みを他人事のようにぼんやりと眺めていると、ジルヴィウスに顎を掬われる。

「じる……?」

 痺れた唇で舌足らずに名を呼べば、ジルヴィウスはわずかに目を細めた。彼は指の背でシーラの下唇を押し上げると、唇についた唾液を拭うように吸い付く。

「その顔、俺以外には決して見せるなよ」
「うん……? うん……」

 靄がかかったように頭がぼんやりとするなか頷けば、ジルヴィウスはくすぐるようにシーラの顎を撫で、そのまま指を鳴らした。瞬間、わずかな衣擦れの音とともに、二人のメイドが室内に姿を現した。
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