異世界で「出会い掲示板」はじめました。

佐々木さざめき

文字の大きさ
16 / 102
第一章【異世界出会い掲示板始めました】

第15話―はじめての麗しき女神亭

しおりを挟む
 女性専門酒場「麗しき女神亭」は大変混雑していた。

 エリーゼは中に入ったのは初めてだったのだが、女性専用でこんなにもお客が集まるものなのだろうかと疑問に思った。

 酒場に来て何も頼まなければ追い出されるのが普通だというのに、ふらりと座ってしばらく経っても、注文を取りにも来なければ、追い出されもしなかった。

 理由はすぐにわかった。客の大部分はなぜか壁の前に集まっていて、その一角から矢継ぎ早に注文が殺到しているからだ。

 それ以外の場所の人間は走り回る店員を無理矢理捕まえて注文するような有様だったのだ。

 無一文のエリーゼにはありがたく、ぼんやりと騒ぎの中心を眺めた、ふと人の波に隙間が出来て、その向こう側が見えた。

 壁一面に、随分と豪華な掲示板が飾ってあるようだった。豪華すぎて、たまに貴族が庶民に見せびらかす名画の額縁かと思ったほどだ。

 その掲示板の近くには、なぜか小さなカウンターが設置されていた。酒場のカウンターとは違う物らしい。

 そのカウンターに入れ違いに女性たちが殺到している。人気スイーツ店でもここまで盛況ではない気がする。

「あんた、掲示板に興味があるのかい?」

「え?!」

 突然声をかけられ、エリーゼは飛び上がりそうになった。

「す! すみません! お金は無いんです! すぐ出て行きますから……!」

 慌てて立ち上がろうとするエリーゼを、優しく押し戻す女。20代後半か30代前半といった所か。

「ああ、いいんだよ。今この酒場は儲かりに儲かってるからね、一人くらい飲んでないやつがいたって誰も気にしないさ……気になるなら奢ってやるよ。おい! エール二つ! 速攻で!」

「ふえええええ!」

 店員が転けた。

「相変わらずドジだね。すぐだよ! すぐ!」

「わかりましたぁあぁ~」

 抜けた声で答えると給仕の女の子はぱたぱたと厨房に引っ込むと、中から激しく物が散乱する音が響いた。

 すぐに別の給仕がエールを二つを持って来て、テーブルに叩きつけるように置くと、女性とは思えない機敏さで厨房に戻っていった。「いい加減に仕事を覚えろー!」女性の声が響き渡った。

「あの……」

「気にしないで飲みな。そして落ち着いたら事情を話してみな、力になれるかもしれないよ」

 エリーゼはアルコールの力も借りて、ポツポツと事情を話し始めた。

「なるほどね……あんた、身体を売る覚悟は出来てるのかい?」

 エリーゼはぐっと顎をひいたあと、絞り出すように答えた。

「はい」

「処女かい?」

「い、いいえ」

 この質問の意図はわからなかったが、あの黒服の男たちの反応を見るに、きっと処女だと困ることがあるのだろう。だからエリーゼはここでも嘘を吐いた。

「そうか……わかった。じゃあおいで」

「え?」

「あんたの新しい職場に向かうんだよ」

 彼女に引きずられて向かったのは74区画の逆側にある宿屋だった。たしかここも1階が酒場になっているタイプだったはずだとエリーゼは身を固めた。

 聞いたことがある。1階の酒場で客を取って、そのまま2階に連れ込むのだ。たしかそのような宿を連れ込み宿と言うらしい。

 だが、女が向かったのは裏口で馬と馬の間をくぐり抜けていくのだ。

「あの……?」

「いいからいいから」

 馬屋を抜けた扉に無造作にノックすると、黒髪黒目の異国人が姿を現した。

「ん? 新人?」

「ああ、上玉だろ?」

「うん。いいね。処女?」

 まただ!

 エリーゼはいい加減うんざりしたが、エリーゼが答えるより先に女が答えてくれた。

「んにゃ、経験済みだって」

「それならまぁ問題ないか。そんじゃ登録しちまおう」

 男に案内されて中に入ると、そこは紙で溢れかえっていた。そしてまるで戦争の様に慌ただしく、従業員と思われる少年少女たちが室内を駆け巡っていた。

「おい! コニー! お前は何度言ったら棚の場所を覚えるんだ! 赤のファイルは向こう! 色の区別はついてんだろうが!」

「ひぇえ! すいません親方ぁ!」

「誰が親方だ! まったく……、おっとすまんすまん、そこに座ってくれ」

 小型のテーブルと椅子のセットが隅に設置されていた。エリーゼと女が座って待つと、黒髪の青年がお茶を入れて持ってきた。

「安物ですまんが」

「なに、泥水じゃ無きゃ上等だよ」

「汲んでくるのが面倒じゃねーか」

「そりゃそうだ!」

 女と男が声を揃えて笑う。なにが楽しいのやら。

「あの……私……」

「ああ、悪い悪い。それで希望は?」

「え?」

「うちの専属になってくれるなら上がりの2割でいいぜ、斡旋だけなら3割だ」

「え、え?」

「なんだいあんた、相場も知らないのかい? ウリ・・は元締めに上納金を納めるのさ。この辺りで幅をきかせている闇ギルドの連中だと、半分持ってかれるよ」

「闇ギルド……それって黒い服の……」

「はあーん、なるほどね、あんたスカウトされたのか。奴らは弱い奴を見つける天才だからねぇ」

「闇ギルドか、そりゃあちょうど良いな、冒険者ギルドが潰したがってる、情報があるなら買うぜ?」

「今のところないねぇ……奴らは用心深いから」

「ま、そうだろうな、むしろウチの護衛でたまに末端が引っかかるから、ギルドのクソ親父が喜んでたくらいだ」

「犬猿の仲だからねぇ」

「ああ……っと、またまた放置しちまった、悪い悪い。んでどうする? 専属なら色々融通するぜ?」

「……せ、専属でお願いします」

「了解だ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。 彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。 敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。 この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。 「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」 無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。 正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。

俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」 主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。 気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。 「あなたに、お願いがあります。どうか…」 そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。 「やべ…失敗した。」 女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない

成瀬一
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3) 「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー) ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。 神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。 そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。 ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。 早く穏やかに暮らしたい。 俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。 【毎日18:00更新】 ※表紙画像はAIを使用しています

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...