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第二章【入会されますか?】
第1話―「読みません」
しおりを挟む最近王都で話題になっている商売がある。
王都のどこかに、堂々と詐欺行為に及ぶ、怪しい商売があるという、とんでもない噂だ。
もしそれが事実だとしたら、警備兵たちは何をやっているのだ。という話になる。
闇ギルドのように用心深く狡猾な組織なのだろうか?
それにしては噂が四方八方から入ってくるのだ。
キシリッシュ・ソードは帰宅途中、城のメイドたちがさえずる声を耳にして、眉をしかめる。
彼女の実家であるソード家は代々騎士の家系だ。
女性の騎士はまだ少ないが、キシリッシュはその数少ない女騎士であった。
現在王国でも最もボリュームゾーンの広いと言われる24歳。結婚適齢期だが浮いた話は一つも無い。
これには色々と理由があった。
まず、女性の身で正規の騎士まで這い上がるのに必死で、恋愛などにかまっている暇が無かった事。
騎士輩出の名家、ソード家の人間に手を出そうという男がいなかった。いや、実際にはいたのだが、彼らはキシリッシュに直接アタックするのではなく、家長を通して家同士のやりとりを望んだ。
その上でソード家の家長が、せめて一番年下になる娘には自由な恋愛をしてもらいたかったという親心があったのだ。
ソード家の家督問題は兄3人で十分に解決していたからだ。
王城に勤める人間にキシリッシュの印象を聞けば、大半の人間がこう答えるだろう。
堅物姫騎士。
もちろんキシリッシュに王位継承権など欠片もない。この場合の姫は二種類の意味が込められている。
一つは王宮騎士であり、女性でもあることから、ガルドラゴン王国の王女の一人と、大変に仲が良く、実質的に近衛兵に近い形になっていた。そのことから、姫さまの騎士、略して姫騎士と呼ばれていた。
もう一つは彼女自身がまったく気づいていないのだが、男性ばかりの騎士団において、それはもうお姫様のごとく扱われていたのだ。
同僚らはこっそりと彼女の事を『姫騎士リッシュ』と親しみを込めて呼んでいたのだ。
もちろんそれは、キシリッシュが堅物であるがゆえのギャップを楽しむ行為だった。
だが……。
「むう……また増えてしまったな」
キシリッシュは自室で腕を組んで立ち尽くしていた。
堅牢な石造りで建設された、砦のような屋敷の一室は、色とりどりのタペストリーやカーテン。所狭しと並べられたぬいぐるみやアクセサリーで飾り尽くされていた。
キシリッシュ・ソード24歳。
実は夢見る乙女である。
■
キシリッシュが噂を耳にするようになってから数日、食事の席のことであった。その日は昼からの登城なので久しぶりに実家で朝食をゆっくりと食べていた。
すっかり髪も白くなってしまった、ソード家の家長グレイビット・ソードは、厳格な騎士ではあるが、最近少しだけ行儀が悪い。
「父上、また食事をしながら新聞ですか……」
「ああ、すまん。つい面白くてな」
「しかも、寄りにもよって「ななよん新聞」とは……」
ななよん新聞とは近頃になって販売数を急上昇させている、ゴシップ満載の低俗新聞だ。そんなものを父が喜んで読んでいると思うと、泣きたくなるキシリッシュであった。
「う……うむ。だが捨てたものではないぞ? この貴族のスキャンダル記事など、我々にとっても……」
「父上」
「すまん……さて、私は先に登城するよ。良かったらキシリッシュも読んでみるといい」
「読みません。お気をつけて」
「ははは、年は取っても剣の腕は落ちてはおらんよ!」
笑いながら家を出るグレイビット。その妻であるピューレルも送り出しについて行った。
3人の兄たちは、現在兵士宿舎に寝泊まりをしているので実家にはいない。3人とももうすぐ結婚なのだから、そろそろ準備をするべきだろうとキシリッシュは考えるのだが、そこはソード家の血筋だ。仕事を優先してしまうのである。
姉はとっくに嫁に出ているので、兄同様に実家では暮らしていない。だが同じ王都なのでこまめに母親やキシリッシュに会いに戻っている。
「私も結婚したい……」
とかく出会いがないと思い込んでいるキシリッシュはため息を吐いた。
広い食堂に一人残されたキシリッシュ。今はメイドたちも家長の送り出しだ。
食事を食べ終わったキシリッシュはナプキンで口元をぬぐうと、立ち上がった。
ふと……見下ろす位置に、父が読んでいたゴシップ新聞が目に入る。開きっぱなしのそれに、でかでかと書かれた飾り文字が目に飛び込んできた。
出会い掲示板【ファインド・ラブ】
噂の商売に違いないと、キシリッシュは直感した。
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