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第二章【入会されますか?】
第9話―「着飾り過ぎただろうか?」
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「き……着飾り過ぎただろうか?」
ガルドラゴン王国の数少ない女騎士であるキシリッシュは、その普段の凜々しい姿と一線を画していた。
ピンクがベースのワンピースドレスで、大量のレースが飾り付けられた少女趣味とも言えるその服装は、8頭身の彼女ではやや浮いた印象であった。
買ったは良いが、今まで一度も袖を通していないカジュアルドレス。可愛いと思わず購入したものの、貴族や騎士家のパーティーに着ていくには場をわきまえない。
相手はペガサスの君なのだ。自分もそれに相応しい格好をと、王城から飛び降りるつもりで着る決意をしたのだ。
そしてキシリッシュは現在、箱形の馬車にて待ち合わせ場所までやって来ていた。普段馬車など使わない彼女であったが、今日は別だ。可能な限り知り合いに会ってしまうリスクを避けたのだ。
待ち合わせ場所の「踊る雄牛亭」は11時開店の店のようだ。現在の時刻は10時半。どうやら来るのが少し早かったようだ。
はたからは、キシリッシュが肉料理の専門店前で、開店前から並んでいるように見えていた。食いしん坊な貴族の娘に、道行く人たちが微笑ましい笑顔を向けていた。
キシリッシュは身体をガチガチにしながら、不思議な笑顔を見せてくる住人たちに、ぎこちない笑顔を返して待った。
彼女にとって30分は長すぎた。全体の筋肉に力が入りっぱなしで、肉体精神共に疲労が蓄積していく。今更だけれど待ち合わせ場所を間違っていなかっただろうか、本当に来てくれるのだろうか、私の姿を見て帰ってしまうかも知れない、という思考が頭の中をグルグルと回っている。特に最後の思考の度に、道行く人たちで、自分を見て逃げていく人間がいないか凝視してしまう。そしてその眼圧に気づいた無関係の通行人がそそくさと逃げ出す様を見て、もしかしたら今のがペガサスの君だったのかもと、戦慄に震えるのだ。
そして11時から10分が過ぎる。キシリッシュの精神は摩耗し切っていた。そしてもう帰ろうかとも考え始めたとき、正面から妙に落ち着きの無い男が真っ直ぐに彼女に向かってきた。
キシリッシュはその男性を見て、背後の肉料理専門店に振り返る。自分が入り口の真ん中に立っている事実にそこで気づいた。
きっと彼は客に違いないと、二歩横にずれて道を空けた。だが……。
「や……やあこんにちはキシリッシュさん……わた……私が、大空を翔る荒ぶるペガサス……です」
男がニチャリと嫌らしい笑みを浮かべた。
男はデブで、顔もブサイ……キシリッシュの好みからはかけ離れた造形だった。
彼女は悲鳴を上げたくなった。
■
踊る雄牛亭は肉料理の専門店ではあったが、以外とお洒落な店であった。ペガサスが予約をしていたらしく、そのまま個室に通された。
「それで……は、私たちの、出会いに……乾杯!」
「ああ……かん、ぱい」
この時彼女の脳裏では「完敗」に変換されていたのだが、男は気づかない。
「あー……すまないが、もう一度確認させてもらってよいか? その、貴殿が大空を翔る荒ぶるペガサス殿で間違いは無いのか?」
希望の欠片に縋って再度確認するキシリッシュ。
「ええ……その……本名はバイエル・ハーパネンと……いうので、バイエルと呼んで……ください」
「あ、ああ……」
これが……ペガサスの君……。
キシリッシュは激しい頭痛に襲われたように、頭を抱えた。
「どうし……た?」
「い、いや何でも無い……。あー、バイエル殿は商会の跡取りだとか」
誤魔化すために適当に話を振ってみた。そしてこれが大失敗だった。
「そ、そうだ! 私はあのハーパネン商会の、一人息子で、跡取りなのだよ!」
バイエルの口調がおどおどとしたものから、次第にハッキリと、それでいて横柄なものへと変化していった。
「だからこんな高級な肉料理屋にも来れるし、か、家格も釣り合いが取れているだろう!」
「家格?」
突拍子の無い単語にキシリッシュが眉をしかめる。嫌な予感がする。
「キシリッシュ・ソード。名門ソード家の末女で王宮騎士の君と、話題沸騰中のハーパネン商会の長男なのだ。結婚するのには最適な関係だろう!」
自分に酔っているのか、あの落ち着きの無い態度はどこにいったのか、大仰な態度で語り始めた。
「き……キシリッシュ……式は必ず大聖堂を押さえてみせると約束……するぞ!」
馬鹿がいる。本物の馬鹿がいる。
キシリッシュは今度こそ頭を抱えてテーブルに突っ伏した。
ガルドラゴン王国の数少ない女騎士であるキシリッシュは、その普段の凜々しい姿と一線を画していた。
ピンクがベースのワンピースドレスで、大量のレースが飾り付けられた少女趣味とも言えるその服装は、8頭身の彼女ではやや浮いた印象であった。
買ったは良いが、今まで一度も袖を通していないカジュアルドレス。可愛いと思わず購入したものの、貴族や騎士家のパーティーに着ていくには場をわきまえない。
相手はペガサスの君なのだ。自分もそれに相応しい格好をと、王城から飛び降りるつもりで着る決意をしたのだ。
そしてキシリッシュは現在、箱形の馬車にて待ち合わせ場所までやって来ていた。普段馬車など使わない彼女であったが、今日は別だ。可能な限り知り合いに会ってしまうリスクを避けたのだ。
待ち合わせ場所の「踊る雄牛亭」は11時開店の店のようだ。現在の時刻は10時半。どうやら来るのが少し早かったようだ。
はたからは、キシリッシュが肉料理の専門店前で、開店前から並んでいるように見えていた。食いしん坊な貴族の娘に、道行く人たちが微笑ましい笑顔を向けていた。
キシリッシュは身体をガチガチにしながら、不思議な笑顔を見せてくる住人たちに、ぎこちない笑顔を返して待った。
彼女にとって30分は長すぎた。全体の筋肉に力が入りっぱなしで、肉体精神共に疲労が蓄積していく。今更だけれど待ち合わせ場所を間違っていなかっただろうか、本当に来てくれるのだろうか、私の姿を見て帰ってしまうかも知れない、という思考が頭の中をグルグルと回っている。特に最後の思考の度に、道行く人たちで、自分を見て逃げていく人間がいないか凝視してしまう。そしてその眼圧に気づいた無関係の通行人がそそくさと逃げ出す様を見て、もしかしたら今のがペガサスの君だったのかもと、戦慄に震えるのだ。
そして11時から10分が過ぎる。キシリッシュの精神は摩耗し切っていた。そしてもう帰ろうかとも考え始めたとき、正面から妙に落ち着きの無い男が真っ直ぐに彼女に向かってきた。
キシリッシュはその男性を見て、背後の肉料理専門店に振り返る。自分が入り口の真ん中に立っている事実にそこで気づいた。
きっと彼は客に違いないと、二歩横にずれて道を空けた。だが……。
「や……やあこんにちはキシリッシュさん……わた……私が、大空を翔る荒ぶるペガサス……です」
男がニチャリと嫌らしい笑みを浮かべた。
男はデブで、顔もブサイ……キシリッシュの好みからはかけ離れた造形だった。
彼女は悲鳴を上げたくなった。
■
踊る雄牛亭は肉料理の専門店ではあったが、以外とお洒落な店であった。ペガサスが予約をしていたらしく、そのまま個室に通された。
「それで……は、私たちの、出会いに……乾杯!」
「ああ……かん、ぱい」
この時彼女の脳裏では「完敗」に変換されていたのだが、男は気づかない。
「あー……すまないが、もう一度確認させてもらってよいか? その、貴殿が大空を翔る荒ぶるペガサス殿で間違いは無いのか?」
希望の欠片に縋って再度確認するキシリッシュ。
「ええ……その……本名はバイエル・ハーパネンと……いうので、バイエルと呼んで……ください」
「あ、ああ……」
これが……ペガサスの君……。
キシリッシュは激しい頭痛に襲われたように、頭を抱えた。
「どうし……た?」
「い、いや何でも無い……。あー、バイエル殿は商会の跡取りだとか」
誤魔化すために適当に話を振ってみた。そしてこれが大失敗だった。
「そ、そうだ! 私はあのハーパネン商会の、一人息子で、跡取りなのだよ!」
バイエルの口調がおどおどとしたものから、次第にハッキリと、それでいて横柄なものへと変化していった。
「だからこんな高級な肉料理屋にも来れるし、か、家格も釣り合いが取れているだろう!」
「家格?」
突拍子の無い単語にキシリッシュが眉をしかめる。嫌な予感がする。
「キシリッシュ・ソード。名門ソード家の末女で王宮騎士の君と、話題沸騰中のハーパネン商会の長男なのだ。結婚するのには最適な関係だろう!」
自分に酔っているのか、あの落ち着きの無い態度はどこにいったのか、大仰な態度で語り始めた。
「き……キシリッシュ……式は必ず大聖堂を押さえてみせると約束……するぞ!」
馬鹿がいる。本物の馬鹿がいる。
キシリッシュは今度こそ頭を抱えてテーブルに突っ伏した。
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