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第二章【入会されますか?】
第15話―「残念姫騎士リッシュ」
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「どうも私はこの掲示板に向いていない様な気がするのだ」
王宮女騎士のキシリッシュは難しい顔で言った。
「どうしてだ?」
「うむ、そもそも論ではあるのだが……私は女として魅力が無い」
「……へ?」
信じられない発言にサイゾーは目を点にした。
「容姿に関しては論外だが、性格も可愛いとは言いがたい」
「いやちょっと……」
「つまり何をしても無駄だと言うことだな。はははははー!」
妙に乾いた笑いで悟りを開いてしまったキシリッシュ。
「いやいやいや! そんな事ねぇって!」
「貴様がいったい何の根拠も無い話をしているのはわかっているぞ! サイゾーは口が上手いからな! ははははは!」
「違うっての! そもそもだな、お前さんに魅力が無いなんてのはありえねぇっつの」
「ほう? なら私とけっこ——」
「いいか、黙って聞け。お前は本名を隠してないだろう? しかも女神亭じゃなくてここアホウドリ亭で登録した。しかも登録時に一騒ぎ起こしたからな、その時いた人間はみんなお前さんの容姿を知っている」
「……む?」
そう言われればそうだなと、キシリッシュは腕を組んで頷いた。
「俺が当初考えていたより、全員が赤裸々っつーか、横の繋がりが強くてな、みんな自分の体験談なんかを普通に酒のツマミに話すんだよ。だから常連の大半はお前さんの事を知っている」
「そう……なのか?」
「当たり前だろう? 若くて綺麗でしかも騎士だ。注目されない方がおかしい」
「いや待て、私が綺麗だと?」
「お前、自分の顔を鏡で見たことが無いのか? ……ああいや、鏡は割と貴重品だったな……騎士の家には置いてないのか?」
「そんな事はないが……貴族のように全身が映るような姿見は流石に無いが、自分の顔を見るに十分な鏡なら置いてある」
「ならわかるだろ? お前ほどの別嬪はそうはいない。街中を歩けば、男たちが全員振り向くレベルだ」
改めて言われてみると、たしかに街を歩くと皆が振り向く。だがそれは王宮騎士が珍しいからだと思い込んでいた。
そう言えば、ずっと見るのは男性ばかりだった気がする……。
キシリッシュは急にあたふたと顔を赤くして、落ち着き無く腰を浮かしかけたり、座ったり、テーブルの下を覗き込んだりした。
「貴様……私をおだてたところで何も出んぞ?!」
「いやいや、その整った鼻筋、全てを射貫くような大きな瞳、流れる銀髪、凜とした背筋、鎧の上からでもわかる胸のサイズ、どこを取っても完璧だろう? これで容姿が優れないとかむしろ嫌味だろう」
「くっ……殺せ」
キシリッシュは恥ずかしさの余り、逃げ出したくなったが、相談を持ちかけておいて走り出すわけにもいかない。
「ん? ……とにかく、その辺の事情を知ってる奴らが大半なのに、掲示板の返事は凄かっただろ? 間違ってもあんたに魅力が無いなんて事はねーよ」
「それは……本当か?」
「ああ。個人名なんかは言えないが、女でも悪い奴や酷い奴はすぐに噂になって、メールが激減するからな。自信を持ってくれていいぜ?」
「確かに……言われてみるとどのメールも私を見たような文言が添えてあったような……てっきり適当な事を書いているのかと思っていたが」
「安心しろ。元々有名だったみたいだぜ? 綺麗な王宮女騎士がいるってな」
「綺麗……」
キシリッシュの頭の中に「綺麗」という言葉が何度もリフレインする。
「見た目もそうだが、見識だって広がったろ?」
「ああ……想像もつかないような人間と出会えたからな」
「それは人間的成長ってやつなんじゃねーか?」
「人間的成長……」
それは騎士にとって綺麗などと言われるよりもよっぽど心に響く言葉だった。
「そうか、私は成長しているのだな?」
「ああ、経験値は上がってると思うぜ?」
「そうか……ふふ……ふははは! そうかそうか! 私は綺麗で人間的成長もしていたのか!」
「お……おう」
急にテンションが上がっていくキシリッシュに、サイゾーはやや引き気味に頷いた。
「ならば! 私が結婚できる日も遠くないという事だな?!」
「え?! ああ、いや、そうだな……そうなるといいな……」
「それならば退会は無しだ! 今度こそ魅力溢れる私で理想の結婚相手を探してくれるわ! あははははは!」
「……問題はあんたな選別眼なんだけどな」
「ん? 何か言ったか? サイゾー」
「いや! 何でも無い! それじゃあ掲示板に何か載せていくか?」
「ふむ……今日は読むだけにしよう。それでは掲示板を見てくる!」
そう言って意気揚々と掲示板の前に仁王立ちするキシリッシュ。その背中を見てため息を吐くサイゾー。
「……やれやれ」
その後……。
たまに酒場に現れる度、なんらかのトラブルを巻き起こす王宮女騎士が生まれることになった。
王城勤めの男騎士がこの掲示板をこっそり使うようになり、キシリッシュの事も知られるようになる。彼らの呼び方と合わさって、今では酒場でこう言われていた。
「残念姫騎士リッシュ」
そして今日も残念姫騎士の悲鳴が上がる。
「いつになったら結婚報告掲示板に私の名前を書くことが出来るんだーーーー!!!!」
——第二章・完——
王宮女騎士のキシリッシュは難しい顔で言った。
「どうしてだ?」
「うむ、そもそも論ではあるのだが……私は女として魅力が無い」
「……へ?」
信じられない発言にサイゾーは目を点にした。
「容姿に関しては論外だが、性格も可愛いとは言いがたい」
「いやちょっと……」
「つまり何をしても無駄だと言うことだな。はははははー!」
妙に乾いた笑いで悟りを開いてしまったキシリッシュ。
「いやいやいや! そんな事ねぇって!」
「貴様がいったい何の根拠も無い話をしているのはわかっているぞ! サイゾーは口が上手いからな! ははははは!」
「違うっての! そもそもだな、お前さんに魅力が無いなんてのはありえねぇっつの」
「ほう? なら私とけっこ——」
「いいか、黙って聞け。お前は本名を隠してないだろう? しかも女神亭じゃなくてここアホウドリ亭で登録した。しかも登録時に一騒ぎ起こしたからな、その時いた人間はみんなお前さんの容姿を知っている」
「……む?」
そう言われればそうだなと、キシリッシュは腕を組んで頷いた。
「俺が当初考えていたより、全員が赤裸々っつーか、横の繋がりが強くてな、みんな自分の体験談なんかを普通に酒のツマミに話すんだよ。だから常連の大半はお前さんの事を知っている」
「そう……なのか?」
「当たり前だろう? 若くて綺麗でしかも騎士だ。注目されない方がおかしい」
「いや待て、私が綺麗だと?」
「お前、自分の顔を鏡で見たことが無いのか? ……ああいや、鏡は割と貴重品だったな……騎士の家には置いてないのか?」
「そんな事はないが……貴族のように全身が映るような姿見は流石に無いが、自分の顔を見るに十分な鏡なら置いてある」
「ならわかるだろ? お前ほどの別嬪はそうはいない。街中を歩けば、男たちが全員振り向くレベルだ」
改めて言われてみると、たしかに街を歩くと皆が振り向く。だがそれは王宮騎士が珍しいからだと思い込んでいた。
そう言えば、ずっと見るのは男性ばかりだった気がする……。
キシリッシュは急にあたふたと顔を赤くして、落ち着き無く腰を浮かしかけたり、座ったり、テーブルの下を覗き込んだりした。
「貴様……私をおだてたところで何も出んぞ?!」
「いやいや、その整った鼻筋、全てを射貫くような大きな瞳、流れる銀髪、凜とした背筋、鎧の上からでもわかる胸のサイズ、どこを取っても完璧だろう? これで容姿が優れないとかむしろ嫌味だろう」
「くっ……殺せ」
キシリッシュは恥ずかしさの余り、逃げ出したくなったが、相談を持ちかけておいて走り出すわけにもいかない。
「ん? ……とにかく、その辺の事情を知ってる奴らが大半なのに、掲示板の返事は凄かっただろ? 間違ってもあんたに魅力が無いなんて事はねーよ」
「それは……本当か?」
「ああ。個人名なんかは言えないが、女でも悪い奴や酷い奴はすぐに噂になって、メールが激減するからな。自信を持ってくれていいぜ?」
「確かに……言われてみるとどのメールも私を見たような文言が添えてあったような……てっきり適当な事を書いているのかと思っていたが」
「安心しろ。元々有名だったみたいだぜ? 綺麗な王宮女騎士がいるってな」
「綺麗……」
キシリッシュの頭の中に「綺麗」という言葉が何度もリフレインする。
「見た目もそうだが、見識だって広がったろ?」
「ああ……想像もつかないような人間と出会えたからな」
「それは人間的成長ってやつなんじゃねーか?」
「人間的成長……」
それは騎士にとって綺麗などと言われるよりもよっぽど心に響く言葉だった。
「そうか、私は成長しているのだな?」
「ああ、経験値は上がってると思うぜ?」
「そうか……ふふ……ふははは! そうかそうか! 私は綺麗で人間的成長もしていたのか!」
「お……おう」
急にテンションが上がっていくキシリッシュに、サイゾーはやや引き気味に頷いた。
「ならば! 私が結婚できる日も遠くないという事だな?!」
「え?! ああ、いや、そうだな……そうなるといいな……」
「それならば退会は無しだ! 今度こそ魅力溢れる私で理想の結婚相手を探してくれるわ! あははははは!」
「……問題はあんたな選別眼なんだけどな」
「ん? 何か言ったか? サイゾー」
「いや! 何でも無い! それじゃあ掲示板に何か載せていくか?」
「ふむ……今日は読むだけにしよう。それでは掲示板を見てくる!」
そう言って意気揚々と掲示板の前に仁王立ちするキシリッシュ。その背中を見てため息を吐くサイゾー。
「……やれやれ」
その後……。
たまに酒場に現れる度、なんらかのトラブルを巻き起こす王宮女騎士が生まれることになった。
王城勤めの男騎士がこの掲示板をこっそり使うようになり、キシリッシュの事も知られるようになる。彼らの呼び方と合わさって、今では酒場でこう言われていた。
「残念姫騎士リッシュ」
そして今日も残念姫騎士の悲鳴が上がる。
「いつになったら結婚報告掲示板に私の名前を書くことが出来るんだーーーー!!!!」
——第二章・完——
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