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第三章【イケメン掲示板放浪記】
第8話―ダイヤの輝きを持つ石壁
しおりを挟む「話を聞くのはオープンまでだからね」
「ええ、十分です。ありがとうございます」
女性専門酒場「麗しき女神亭」に二人の人間が向かい合って座った。
一人はこの酒場の女主人であるヘルディナ・ピョン・クロンメリン。白く長い耳が特徴のピョン種族である。
もう一人は人種のるつぼである王都でも珍しい黒髪黒目の青年。サイゾーであった。
ヘルディナは嫌そうに水の入ったカップをサイゾーの前に置いた。
「おいくらで?」
「ふん。ここは女性専用の酒場だよ。男から取る金はないよ」
口調の割に可愛らしい声なのはピョン種族だから仕方が無い。だがそれよりもサイゾーは内心で「微妙にツンデレ発言だな」などと暢気なことを考えていた。
「ありがとうございます。それではさっそく商売の話とまいりましょうか」
「商売ねぇ……何度も言うけどここは酒場で商会じゃ無いんだよ? 一体なにを買わせようってのさ」
「いえいえ、先ほども言ったように、何かを売りつけるつもりはありません。ただ……その壁の一面と、……そちらの角をお貸しいただきたいのですよ」
「壁ねぇ……聞き間違いかと思ったけどやっぱり壁なのか」
「ええ、壁です」
「……なああんた、サイゾーだっけ?」
「はい」
「サイゾー、その口調やめなよ。それって地の言葉じゃ無いだろ? なんとなくわかるんだよ」
「……えーと」
「地で話せない奴は本音で話さない。自分を偽ってるからね。その喋りを続けるなら今すぐ出て行ってもらうよ」
「……あー、そりゃ楽なんだが……失礼じゃ無いか?」
「はん! 場末の酒場で敬語も何もないよ。むしろ場にそぐわないと思わないか?」
「そうか? 美人の主人に敬語が出るのは割と普通だと思うが」
「っ! また! ええい! とにかくサイゾーは敬語禁止だ! わかったね!」
なぜか顔を真っ赤にするヘルディナを不思議そうに見つめながら、頷くサイゾー。
「じゃあ普通にいかせてもらうぜ。まあでもなんだ、基本的な話は壁を借りたいって話で終わりなんだよ」
「壁なんてどうするんだい?」
「掲示板の設置と、窓口を設置させて欲しい」
「掲示板? えーとなんだっけ、聞いたことがあるね」
「冒険者ギルドなんかにある、依頼を貼り付けるでっかい板の事だな」
「ああ! あれか! 思い出したけど……え? なんだい? ここを冒険者ギルドにしようってのか?」
「違う違う、形が似てるってだけで、やりたいことは全く別物だ。ちと長くなるが一から話すぜ。俺が作るのは出会いを提供する掲示板で……」
その後サイゾーは摩訶不思議な話を続けた。人と人が出会うための掲示板。それを利用するのに男だけが金を払うシステム。ただひたすらに女性優位な話にヘルディナは呆然と聞き入るしか無かった。
料金の細かい話は出なかったが、まだまだ男尊女卑の強いこの王国で、少しでも女性が楽しめるようにと始めたこの酒場だ。そのシステムに惹かれないわけが無い。だが……。
(これは詐欺の手口さ……)
ヘルディナはそう思った。おいしい話だけで成り立つ商売などあるわけが無い。きっとどこかに落とし穴があるはずだ。掲示板と受付を設置するだけで金貨がもらえ、掲示板を利用する為に客が集まる……絶対、どこかに罠がある。
ヘルディナは賢明にシステムの穴を見つけようと頭をフル回転させるが、結果はうさ耳がうな垂れるだけだった。
サイゾーはヘルディナの返答を黙って待っていた。だが確信がある。彼女は必ずYESと言うことを。
(これは詐欺の手口さ。ヘルディナはそれを理解している。だが彼女は断れない。なぜなら……)
サイゾーは彼女に気づかれないようにうっすらと笑った。
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