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第三章【イケメン掲示板放浪記】
第11話―女たちの異変
しおりを挟む「ふええええ! お願いですぅ~! 並んでくださぁぁああい!」
新人ちゃんは今日も鬼の形相をしたOL(?)たちに囲まれて、逆恨みの視線で刺殺されかかっていた。倒れそうな新人ちゃんの所に女将のヘルディナが駆け寄ってきた。力強い援軍にぱっと笑みを見せたが、次の瞬間その表情は凍り付いた。
「ランチあと10食で終わりだから、よろしくね」
新人ちゃんが何かを言い返す間もなくヘルディナは厨房に駆け戻った。今のところランチメニューを作れるのは彼女だけなのだ。
「ふええええ……」
新人ちゃんはこの餓鬼の群れに宣言しなければならない。自らの死刑宣告を……。
「あううう……そのぉ……みなさぁん……今お並びのお客様はぁ……」
汗を流して調理するヘルディナは、ランチを初めて一週間でサイゾーの言葉を理解した。ランチはハッキリ言って赤字である。人件費が想像以上にかかってしまったのだ。
だが、限定ランチメニューが終了すると、殺気だった客たちも、落ち着きを取り戻し、一般的な(通常メニューより十分お得な)ランチを平らげて仕事に帰って行くのだが、不思議な事にその中の何人かが、ぽつりぽつりと店に残り、ランチタイム終了と同時に飲み物やデザートを頼み始めるのだ。
当然酒場にとって一番利益の高いのが酒である。夜ほど大量にははけないが、十二分に利益になる量が売れるのだ。
理由は簡単だった。みんな掲示板が目当てなのであった。
そりゃああれだけ派手な掲示板だ、目に付かない方がおかしいのだ。ランチ目当てにやって来た働く女性たち……。
それはつまり出会いの無い女性たちの集団だったのだ。
「サイゾー……恐ろしい子よね……」
ヘルディナは最後の限定ランチを作り上げると、うさ耳を揺らしながら、ぽつりと呟いたのだった。
■
麗しき女神亭に出会い掲示板が設置されてから数ヶ月、今までに無い険悪な空気が漂っていた。
本来であれば戦場のようなランチタイムが終わり、夕方までの比較的まったりした時間帯だ。
いつもは和気藹々と成功談、失敗談を語り合う彼女たちが、最近様子が変なのだ。
女性専門酒場、麗しき女神亭の女将ヘルディナ・ピョン・クロンメリンは今日も忙しく繁盛する店の異変に気づいていた。だが、彼女は料理や給仕に忙しく掲示板の内情には詳しくない。仮にこの酒場の担当であるレイナ・ミャウ・セガワに聞いたところで、当たり障りの無い話しか返ってこない。異常なほど情報統制が行き届いているのがファインド・ラブという出会い掲示板を運営する商会なのだ。
数日うさ耳を立てて得た情報を総合すると、どうやら一人の男性が原因のようだ。
なんでもイケメンで、優しくて、金持ちで、気前が良く、地位と名誉があるのに鼻にかけず、女性に紳士でいつも微笑み、悩みや愚痴を聞いてくれる。そんな男性がいるらしい。
いったいどこの世界にそんなパーフェクト生物がいるというのか、おそらく流行の小説に出てくる異世界まで探しに行ったってそんな生物は存在しない。
ヘルディナは馬鹿らしいとため息を吐いた。そんなデタラメ生物を求めているのであれば、数日もすれば現実をしって収まるだろう。
そうヘルディナは考えていた。だが、それはまったくの見当違いだった。
数日経って騒ぎが収まるどころか、釘様の噂は高まる一方だった。実際に会った人間も一人や二人じゃない。どうやら本当に物語にも出てこないようなデタラメパーフェクト生物が生息しているらしい。
だがそれを羨ましいとは欠片も思わなかった。むしろ、せっかく思い描いていた理想の酒場になっていた雰囲気を壊した張本人として、怨みすら抱くようになっていた。
釘様と会えた人間と会えなかった人間に、深い深い溝が生まれていた。
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