66 / 102
第四章【転移者サイゾー】
第11話―変貌
しおりを挟む二ヶ月間の減俸。それがサイゾーに課せられた罰だった。
サイゾーは首と罰金。最悪は犯罪者として捕まることまで覚悟していたが、ギルド長から伝えられたのはただの減俸という想像以上に軽いものであった。
その罪状も規則を破って他人を部屋に泊めたという事実に対してだけだった。理由を聞けば、ベランデッドに関して闇ギルドの人間だと見破れなかったギルド全体の罪であるというものであった。
サイゾーはそこで日本人らしく自分が悪いとは言わなかった。かわりにその日以降ストイックなまでに自分の仕事を精力的にこなすことで答えた。
一切の遊びを辞め、ひたすらに貯蓄する毎日。端から見ていて仕事する魔物の様に見られるようになっていた。
サイゾーは奥底で一つの考えに行き当たっていた。
「油断した自分が悪い。ここは発展途上国と変わらないんだ。他人を信用した自分が悪い。この世界で信じられるのは自分だけだ!」
ベランデッドとの決別の日から半年も過ぎると、サイゾーの目つきは鋭く、目の下の隈が迫力を醸し出すようになっていた。
「サイゾー」
カウンターの隅に座っていたサイゾーに、金髪ロングの女エルフが声を掛けた。ディーナ・ファンネル128歳である。
「ん? ああ、なんだディーナか」
サイゾーが黒い瞳をディーナに向けると、彼女は肩をすくめて首を左右に振った。
「なんだはないでしょう? 依頼が終わったから精算して欲しいんだけど?」
「もう終わらせたのか? キュクロプスの退治だったよな?」
キュクロプスというのは一つ目の巨人で、恐ろしい魔物だとサイゾーは聞いていた。その分依頼期間も長く、ギルド側も倒すのには一ヶ月は必要だろうと試算していたのだが、わずか二週間で戻ってきたのだ。驚かない方がおかしいというものだ。
「そうよ。上手いこと罠に掛かってくれてね。後は袋だたきで終わり」
「さすが、全員B級メンバーの「短剣を咥えた鷹」だな。鮮やかだ……よし、書類は全てOKだ。報酬はどうする?」
雑談しながらも、凄まじい速筆と暗算で、あっという間に複雑な書類を仕上げてしまう。すでにギルド内では人外と言われるほどの処理スピードであった。
「パーティーメンバー全員で割って各メンバーの口座に入れておいてちょうだい」
「端数は?」
「リーダーに」
「了解だ」
ざざっと書類を作成すると、人数分の控えをディーナに渡す。
「ねえサイゾー。暇だったら一緒に飲みに行かない? これからメンバーで打ち上げがあるんだけど」
珍しく間抜け面になったサイゾーが顔を上げてディーナをぽかんと見つめた。
「な、なによ」
「いや、何となくディーナに嫌われてると思ってたからな」
「別に嫌ってなんかないわよ。それで? 来るわよね?」
腕を組んでいつものようにサイゾーを緑の瞳で見下ろすディーナ。
「……いや、お誘いは嬉しいがやめておこう」
「奢るわよ?」
サイゾーはゆっくりと顔を左右に振った。
「ありがたいがまだ仕事が残ってるんだ。楽しんできてくれ」
「そう」
しばらくそのままの姿勢でサイゾーを見下ろしていたが、サイゾーの答えが変わらないと判断すると背を向けてギルドの出入り口に向かった。
「あんまり根を詰めすぎると壊れちゃうわよ?」
彼女は振り返らすにそう呟くと、サイゾーの反応を確認せずにそのまま出て行った。
「……俺、なんかしたっけ?」
サイゾーは首をかしげた。
■
「鈍感よね……あいつ」
ディーナ・ファンネルは働く男が好みだったのだ。
0
あなたにおすすめの小説
俺、何しに異世界に来たんだっけ?
右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」
主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。
気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。
「あなたに、お願いがあります。どうか…」
そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。
「やべ…失敗した。」
女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!
英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~
ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。
彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。
敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。
この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。
「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」
無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。
正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。
悪役令嬢の騎士
コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。
異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。
少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。
そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。
少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない
成瀬一
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3)
「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー)
ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。
神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。
そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。
ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。
早く穏やかに暮らしたい。
俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。
【毎日18:00更新】
※表紙画像はAIを使用しています
異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。
【あらすじ】
異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。
それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。
家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。
十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。
だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。
最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。
この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。
そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。
そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。
旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。
☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。
☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる