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第五章【ガルドラゴン王国】
第24話―王都といつもの日常
しおりを挟むアホウドリ亭も、流行に乗ってランチサービスを開始していた。
メニュー協力がサイゾーの事だけあって、こちらも人気を博している。
そんなランチを鬼の敵のように平らげる、ゴスロリ少女の姿があった。今日は黒ゴスだ。
「ええいまったく! どうして妾には返事が一つもこんのじゃ!!」
黒ゴスことシャルロット姫の横でランチのあまりの美味さに驚愕の表情を浮かべていたお付きの近衛騎士、キシリッシュが我を取り戻して答えた。
「サイゾーも言っていたではありませんか。王族の名前には返信しにくいと……」
「うるさいうるさい! 妾もかっちょよいボーイフレンドが欲しいのじゃ!」
「気持ちはわかりますが……」
二人で喧々囂々していると、そこにサイゾーがやってくる。
「お前らは飯くらい静かに喰えんのか?」
「なんじゃサイゾー。また嫌みを言いに来たのかの?」
「ただの昼休憩だ。満席なんで、ここ良いか?」
「ふん。特別に許してやるのじゃ」
「そりゃどーも……おやっさん! 一番安いランチ頼む」
「一番高い飯だな?」
「耳腐ってんのか? 飲み物は水で良いからな」
「まったく……たまには高いもん喰えよ」
「ほっとけ」
サイゾーは素早く出てきたコロッケ定食を、マイ箸で器用に平らげていく。
「相変わらず不思議なもんで食べるのじゃな」
「慣れてるからな」
「それよりじゃ! 妾にはどうして誰もメールをしてこんのじゃ!」
「……まぁ姫様にメールを出す勇気のある奴は少ないよなぁ……」
「納得いかんのじゃ! 遺憾なのじゃ!」
「それより今日もここに来て大丈夫なのかよ。禁止されてんじゃないのか?」
「うむ? それなのじゃが、どういうわけかここに来るのは大丈夫になったのじゃ!」
「そうなのか?」
サイゾーはキシリッシュに視線を向けた。
「ああ、突然陛下が許可してくださってな。もっとも週2という話だったのだが……」
「毎日来てんじゃねーか」
「まあ……な」
キシリッシュが苦笑し、サイゾーに伝染した。
「あー、そんなにボーイフレンドが欲しいなら紹介するか?」
「なんじゃと!? それは名案なのじゃ! 今すぐ紹介するのじゃ!」
飛び上がるシャルロットとは相対的に眉を顰めるキシリッシュ。
「良いのか? それでは特別扱いになってしまうだろう?」
「会員を紹介したらな。個人的に会員以外を引き合わせれば、まぁなんとか」
サイゾーとしてもあまりやりたくは無いが、周りが文句を言わないギリギリのラインだろう。もっともサイゾーは勘違いしているが、王族を特別扱いして文句を言う人間などこの国にいない。
「それで! 誰じゃ! 誰を紹介してくれるのじゃ!?」
「目を血ばらせるんじゃねぇよ! 怖いっつの……おいコニー! ちょっと来い!」
「はーい! 親方ぁ!」
奥で給仕を手伝っていたコニータ・マドカンスキーがぱたぱたと歩いてくる。さすがに毎日やってくるのでシャルロットに対する緊張はあまりない。
「お前、姫様と付き合ってみないか?」
「……」
時間が止まる。
「はああああああぁぁぁぁぁ????」
状況を理解して顔面を崩壊させて奇声を上げた。
「ちょ!? 姫様って!? シャルロット様と!? え! いや! そりゃぁこんな美人とおつきあいしてみたいですがっ!」
「ふん。なんじゃいつもうろついてる小間使いでは無いか。どうして妾がこんな下賤な者と付き合わねばならんのじゃ」
「下賤……」
コニータはがっくりと四つん這いに崩れ落ち頭を項垂れた。
「下賤はねぇだろ。確かに仕事は出来ねぇが、頑張ってるんだぜ? 顔はなかなか良い方だろ?」
「親方……それはフォローになってないです……」
「ふん。それは可愛い顔と言うのじゃ。妾はかっこいいお兄さん系が好みなのじゃ」
「可愛い……」
コニータが地面にうつぶせに沈んだ。
「注文が厳しいぜ……ついでだから聞くが、最低限のラインってどんななんだ?」
「そうじゃな……どうせ妾は戦略結婚させられるのが落ちじゃからな。それでも最低限、デカい商会の会長などであればそのまま嫁げるかも知れんのじゃ」
「戦略結婚か……」
サイゾーは背もたれに体重を掛けた。
「うーん。”尖った釘”が残ってりゃなぁ……」
「誰じゃそれは」
サイゾーは雑談していたスパイクに視線を移した。聞こえていたのかスパイクは頷いた。
「あいつの事だよ」
「ふむ? 面はまぁまぁじゃな。こないだの貴族じゃな」
「ああ。だが残念な事に奴は現在アタックしている女性がいる」
「ふん。あんな量産型貴族はいらんのじゃ。妾はもっとオンリーワンで刺激的な男がいいのじゃ!」
「贅沢過ぎるだろ」
処置無しとサイゾーは立ち上がった。
「なんじゃもう食べ終わったんか!?」
「喋りながらだからこれでもゆっくり食べた方だ。ほらコニー! いつまでもサボってんじゃねーぞ!」
「ふええええい。親方ぁ」
「親方じゃねっつの!」
半べそで給仕に戻るコニータ。サイゾーはカウンターに戻る途中、キシリッシュの肩を軽く叩いた。
「そんな眉間に皺ばっかり入れてると、美人が台無しになるぞ。ちょっとは力を抜け」
「びっびじっ!?」
難しい顔で二人の会話を聞いていたキシリッシュが顔を真っ赤にして硬直する。
「サイゾー! 妾の相談は終わっておらんのじゃ!」
「今のところアドバイス出来る事がねぇんだよ。何か考えとくから、しばらくは男の書き込みにでもメールしとけ」
「無責任なのじゃ!」
「へいへい」
サイゾーは片手を上げてカウンターに戻る。途中エルフの冒険者に蹴られていた。
そんな様子を眺めていた古株の一人がぼそりと呟いた。
「どうして全ての条件を満たす野郎がいる事に誰も気がついてねぇんだよ」
面白く無さそうに安い豆を摘まんだ。
見かけない青年がきょろきょろと店の中に入って来た。ランチ時だというのに注文もせずに、おずおずと掲示板の前までやってきて、その膨大な書き込みに圧倒される。
「よお。初めてのお客さんだな、会員登録かい?」
いつものように黒髪の青年が背後から声を掛け、初見の青年が飛び上がる。
「興味があるなら会員になってみないかい? 今なら無料な上に、ポイントをサービスするぜ?」
「え? え?」
「新聞の広告を見てきたんだろ? とりあえず説明するぜ」
「え? あ、はい……」
「この出会い掲示板は――」
今日も出会い掲示板には出会いを求めて人が集まる。
その掲示板の名は――。
――第五章・完――
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