上 下
20 / 59
 眠れない就寝

 20

しおりを挟む

「優…「ヒェッ!」」
 それが俺に声を掛けるのと俺が悲鳴を上げるのとはほぼ同時だった。
 だだだだ誰?何?怖い。貞子?
「優希くん、私だよ?……ぷっ」
 聞き覚えのある声がした。
「なんだ流奈か」
 俺は即座に恐怖モードから切り替え、悲鳴なんてあげてない体で覗き込む人物に声を掛けた。
「ごめんね?驚かせちゃったね」
「いや別に」
 む、やはり聞かれていたか。
 なんか「ぷっ」って笑ってたし。
 俺は起き上がってリビングの小さな電気を点けながら彼女に訊く。
「それでどうしたんだよ?枕が変わったから寝られないのか?そうかそれは諦めてくれ。俺じゃどうしようも出来ない」
 この程度で機嫌を悪くしたくはないんだが、俺は昔からこういう自分の小さな失敗をからかわれるのに慣れていない。うまく笑って誤魔化したり出来ないのだ。だからどうしようもない少しぶっきらぼうな物言いに、多少なりとも冗談を混ぜるようにしているのだが、よく怒っていると誤解される。
 しかし流奈に限ってはその限りではない。
「いやいや寝られないのはそうだけど枕は違うよ⁉︎そんなどうしようもない事でわざわざ起こしに来たりしないし!」
 こうして誤解せずに冗談にツッコんでくれるーーというか、さっきまで泣いていたのはなんとやら、すっかりいつもの元気な彼女に戻っている。まぁそれ自体はいい事なんだが
「しー……母さんが起きるから声量下げろ」
 声が大きい。
 雨戸の音で掻き消されてる程度だとは思うが、それでも保険はかけておくに越したことはない。
「あ、ごめん……」
「んで?何かあったか?Gでも出たか?そうかそれも諦めてくれ。俺は幼少期アレに精神的外傷を受けて以来、ヤツを見るとショックで倒れてしまう病気になったんだ」
「え、そなの?」
「いや倒れんけど。ただあいつを俺の手で殺すのは御免だ。ゴキジェット噴射した瞬間にあの時みたく顔面にハイフライフローを喰らうかもしれないからな。そこに例のブツがあるから自分で退治してくれ」
「うん、分かったーーってそうじゃないよ!」「しー……」「むぅ…」
 俺がノリツッコミに誘導したのに即座に静かにしろと言われたのが不服らしく、彼女は頬を膨らませた。
しおりを挟む

処理中です...