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彼女への疑惑
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しおりを挟む「も~。そんなに不貞腐れないでよ~」
レースに敗けた俺はガックリと肩を落としていた。
まさか特攻覚悟であんな勝負手を放ってくるとは思いもよらなかった。
「ほら、切り替えて切り替えて!喫茶店行こう?」
「ああ~」
俺は失意の念を声に出し、固定電話の元へとよろよろと歩いていった。
「どうしたの?」
とててて、と、後をついて来る流奈。
「いや、一応親御さんから連絡が来てないか確認しようかと……。ゲーム中は特に鳴ってなかったと思うけどーーうん、まだ来てないな」
「……そっか」
「流石にこの時間になっても連絡が来てないのは心配だな……。まぁでもこっちからはどうしようもないからなぁ」
ふと見ると暗い雰囲気の流奈。
「大丈夫だって。その内連絡来るだろ。……でもそうか、今から外出するから折り返しの連絡先を俺のスマホに変えとかないと。ーーという訳で、外出る準備でもして待っててくれ」
「うん。あ、家の番号押すからちょっとどいてーーていうか、優希くんのスマホの番号教えてくれたら私が留守電入れるよ?」
「いやいいよ。メモするの面倒いし。俺がやるよ」
流奈が家の番号を押してその場を離れる。
「顔洗いたいからタオル借りていい?」
「ああ」
了承するとそのままリビングを出ていった。
さてと。
受話器に耳を当てる。
『ピーという発信音の後にーー』
聞き流しながらどう言うか頭の中でざっと考える。
『ピー』
『もしもし、流奈さんの友人の笹原優希と申します。先程彼女が留守番電話を入れたと思いますが、折り返しの連絡先を変えたきたく、改めて留守番電話を入れさせて頂きました。番号は090-〇〇〇〇-△△△△です。よろしくお願いします』
ガチャリ。
ふむ、我ながら上手く言えた。
俺はちょっとした達成感に浸りながら、しかし本当に上手く行ったのかと慎重になる。ちょっとした慢心からのケアレスミスが俺の失敗のケースの殆どだ。
一応履歴を見てちゃんと入れられたか確認しておこう。
「うん、12:08に留守電ーーちゃんと入って、るな……?」
あれ、おかしい。
「その前の留守電が入っていない……?」
つまり彼女の留守電が履歴に残ってない。
……彼女が留守電をうまく入れられなかった?
俺は一応、発信履歴も調べてみる。
確か彼女が電話したのは9時半前だったはず……。
「……ない」
発信履歴は最新のものを先程の俺の留守電、次に新しいものを4日前の昼の宅配ピザ屋と示していた。
母さんめ、俺の預かり知らぬところで俺の好物を御馳走しているとは……!
帰って来たら戦争だな。
ーーってそうじゃない。
問題はそこじゃない。
彼女は連絡がつかなかったから留守電を入れたと言っていた。しかし履歴には発信と留守電、どちらの記録も残っていない。
つまりーー
「流奈が……嘘をついた?」
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