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再会(1)
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「これじゃ、どっちが本店かわからないよね。ホント、早翔には感謝だよ。これからもよろしくね」
開店を控えた内覧の日、京極はセブンジョー2号店で、満面の笑顔で早翔を迎えた。
新店舗のエントランスは、本店のような電飾に彩られた煌びやかな派手さはないが、劇場を思わせる優美な雰囲気で、客の入りやすさを重視した造りになっていた。
中に入ると一転、ゴールドの床面が眩しく視界に入る。照明に照らされ幾何学模様がキラキラと輝くシルバーの壁には、十分なスペースを空けてホスト達のパネルが掲げられ、客の気分を徐々に高揚させる。
ホールは京極が言った通り、本店よりもゴージャスな空間が広がり、蘭子がこだわった、客席ごとに吊り下げられたアンティーク調のシャンデリアが、派手さを抑えた優雅で上品な印象を与えていた。
施工中、何度か様子を見に足を運んでいたが、すべての照明が開店さながら点灯されているのを見るのは初めてだった。
その豪華な内装だけで、当初、早翔が蘭子に話した2、3千万を優に超えている。
「どうせ作るなら誰が来ても恥ずかしくないほどハイレベルな店にしたい」
そんな蘭子の鶴の一声で、ホールの広さも内装も、本店をはるかにしのぐ高級感溢れる店になっていた。
「京極さん、浮かれてるのは今日だけですよ。これだけ金をかけたら、儲けがでるまでキツいから」
早翔が半笑いで返すと、京極が顔をくしゃくしゃにする。
「蘭子さんがいれば最強でしょ。早翔には、もっと早くこういう展開にしてもらいたかったくらいだよ」
「調子いいなあ、もう」
京極は苦笑する早翔の肩に手を回し、上機嫌で笑い声をあげる。
「ババア、気安く触るな!」
ホストの顔合わせをしている奥の席から、突然、怒声が上がった。
京極の顔から笑みが消え、早翔と顔を見合わせると同時に、二人の足は声の聞こえたほうへ向かっていた。
この店で働く予定のホストが、ソファに並んで座っている中に、蘭子がいた。
「あんた、誰に向かって言ってる!」
蘭子が隣に座る男の襟首をつかむと、男はその手を乱暴に払いのけた。
「触るなっつってるだろうが。聞こえねーのか、ババア」
「直!」
その怒声の主を見て、早翔が声を上げた。
そこに高校の同級生だった草壁直也が、平然と腰掛けている。
目線を早翔に合わせると、表情も変えず「よぉ」と片手を上げた。
「よぉじゃない! こんなとこで何やってる!」
「何やってるって、スカウトされたから来てやったんだろうが」
蘭子は横目で早翔を睨みつける。
「何よ、早翔の知り合い?」
早翔は軽く息を吐いて頷いた。
「この男、すぐにつまみ出して!」
「上等じゃねえか。てめえが、いきなりでけえケツで割り込んできて、ベタベタ触ってきんだろうが。誰がこんなとこで働いてやるかよ」
草壁が立ち上がり出口に向かう。その後を早翔が追った。
「直、大学は行ってるのか? 会計士の勉強してるんじゃなかったのかよ」
「うるせーわ。てめえは母親か」
早翔がホールを出たところで、草壁の腕を掴んで歩を止めた。
振り向いた草壁は仏頂面のままだった。
早翔が顔をほころばせる。
「久しぶりだな。元気だったか」
「見ての通りだ」
口元を薄っすら緩ませると、勢いよく早翔を抱き寄せた。
「七瀬ぇ… 会いたかったよぉ… お前はつれないヤツだ… たまには連絡しろよぉ…」
それまでの不機嫌な声とは打って変わって嬉しさが溢れている。
「直こそ、音信不通で寂しかったよ」
互いに回した手で背中や肩を叩き合って笑う。
改めて顔を見合わせ、満面の笑顔で笑い合った。
「で、なんでここにいるの?」
「手っ取り早く金を儲けたいからホストになるってお前に言われて、俺も軽い気持ちでバイト始めた。ちょうど前の店を辞めようと思ってたところに、ここの話が来たから」
「ホストなんかやる必要ないだろう。バイトなら家庭教師とか他にもあるじゃないか。会計士の試験は甘くない。しっかり勉強しないと…」
「だから、お前は俺の母親か!」
草壁がふざけた口ぶりで、口をへの字に曲げて笑った。
高校の卒業式以来、会ってはいなかったが、草壁の全く変わらない表情や態度が嬉しかった。高校時代は服装に気を遣うような性格ではなかったが、今は頭の上から足の先まで、気取ったオシャレで身を固めているのが少し滑稽でもあった。
開店を控えた内覧の日、京極はセブンジョー2号店で、満面の笑顔で早翔を迎えた。
新店舗のエントランスは、本店のような電飾に彩られた煌びやかな派手さはないが、劇場を思わせる優美な雰囲気で、客の入りやすさを重視した造りになっていた。
中に入ると一転、ゴールドの床面が眩しく視界に入る。照明に照らされ幾何学模様がキラキラと輝くシルバーの壁には、十分なスペースを空けてホスト達のパネルが掲げられ、客の気分を徐々に高揚させる。
ホールは京極が言った通り、本店よりもゴージャスな空間が広がり、蘭子がこだわった、客席ごとに吊り下げられたアンティーク調のシャンデリアが、派手さを抑えた優雅で上品な印象を与えていた。
施工中、何度か様子を見に足を運んでいたが、すべての照明が開店さながら点灯されているのを見るのは初めてだった。
その豪華な内装だけで、当初、早翔が蘭子に話した2、3千万を優に超えている。
「どうせ作るなら誰が来ても恥ずかしくないほどハイレベルな店にしたい」
そんな蘭子の鶴の一声で、ホールの広さも内装も、本店をはるかにしのぐ高級感溢れる店になっていた。
「京極さん、浮かれてるのは今日だけですよ。これだけ金をかけたら、儲けがでるまでキツいから」
早翔が半笑いで返すと、京極が顔をくしゃくしゃにする。
「蘭子さんがいれば最強でしょ。早翔には、もっと早くこういう展開にしてもらいたかったくらいだよ」
「調子いいなあ、もう」
京極は苦笑する早翔の肩に手を回し、上機嫌で笑い声をあげる。
「ババア、気安く触るな!」
ホストの顔合わせをしている奥の席から、突然、怒声が上がった。
京極の顔から笑みが消え、早翔と顔を見合わせると同時に、二人の足は声の聞こえたほうへ向かっていた。
この店で働く予定のホストが、ソファに並んで座っている中に、蘭子がいた。
「あんた、誰に向かって言ってる!」
蘭子が隣に座る男の襟首をつかむと、男はその手を乱暴に払いのけた。
「触るなっつってるだろうが。聞こえねーのか、ババア」
「直!」
その怒声の主を見て、早翔が声を上げた。
そこに高校の同級生だった草壁直也が、平然と腰掛けている。
目線を早翔に合わせると、表情も変えず「よぉ」と片手を上げた。
「よぉじゃない! こんなとこで何やってる!」
「何やってるって、スカウトされたから来てやったんだろうが」
蘭子は横目で早翔を睨みつける。
「何よ、早翔の知り合い?」
早翔は軽く息を吐いて頷いた。
「この男、すぐにつまみ出して!」
「上等じゃねえか。てめえが、いきなりでけえケツで割り込んできて、ベタベタ触ってきんだろうが。誰がこんなとこで働いてやるかよ」
草壁が立ち上がり出口に向かう。その後を早翔が追った。
「直、大学は行ってるのか? 会計士の勉強してるんじゃなかったのかよ」
「うるせーわ。てめえは母親か」
早翔がホールを出たところで、草壁の腕を掴んで歩を止めた。
振り向いた草壁は仏頂面のままだった。
早翔が顔をほころばせる。
「久しぶりだな。元気だったか」
「見ての通りだ」
口元を薄っすら緩ませると、勢いよく早翔を抱き寄せた。
「七瀬ぇ… 会いたかったよぉ… お前はつれないヤツだ… たまには連絡しろよぉ…」
それまでの不機嫌な声とは打って変わって嬉しさが溢れている。
「直こそ、音信不通で寂しかったよ」
互いに回した手で背中や肩を叩き合って笑う。
改めて顔を見合わせ、満面の笑顔で笑い合った。
「で、なんでここにいるの?」
「手っ取り早く金を儲けたいからホストになるってお前に言われて、俺も軽い気持ちでバイト始めた。ちょうど前の店を辞めようと思ってたところに、ここの話が来たから」
「ホストなんかやる必要ないだろう。バイトなら家庭教師とか他にもあるじゃないか。会計士の試験は甘くない。しっかり勉強しないと…」
「だから、お前は俺の母親か!」
草壁がふざけた口ぶりで、口をへの字に曲げて笑った。
高校の卒業式以来、会ってはいなかったが、草壁の全く変わらない表情や態度が嬉しかった。高校時代は服装に気を遣うような性格ではなかったが、今は頭の上から足の先まで、気取ったオシャレで身を固めているのが少し滑稽でもあった。
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