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第一章

35 妖精様の嫉妬

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学校行事の一つ、遠足。場所は県を跨いで跨いでの静岡県。
遠足にしては些か遠すぎな気もするが正直楽しんではいる。
二日目、冬華達は遊園地にて遠足を楽しんでいた。

時刻はお昼前。遊園地内にはフードコートも沢山あるので、それぞれ食べたい物を決めて合流していた。

「よっ、冬華。荷物番ご苦労様」
「帰ってきたか。じゃあ俺も行ってくる」
「ネムリン。私たちも行こう。待って冬華~」
「ん~。置いていかないでほしいの~」
「おい、2人ともくっ付くな」

荷物番をしていた冬華、夢魔、ネムリの3人は、春正達が帰ってきた入れ替わりで、昼飯を買いに行く。

「・・・・」
「どうかしたエリカちゃん?」
「いえ、何でもないですよ、桃巳さん」
「美紀、どうしたさっきから冬華睨んで」
「とー君、私たち以外に友達作るなんて意外だなって思っただけ」
「だな。意外だったよ、昨日いきなり紅野さん達と部屋へ帰ってくるんだもんな。お陰で楽しかったけどな」
「すみませんでした。昨日は突然押しかけるようになってしまって」
「気にしないでいいよ。3人で遊ぶのはそろそろ飽きてた頃だったから。でもネムちゃんと夢魔ちゃんがとー君気に入ってるのはびっくりしたよ」
「そうかもね。あの2人が特定の誰か、しかも男の人に懐いてるなんて少し驚いたよ。あの2人ちょっと動物的な感情で動いてるような感じあるから」
「あっ、それ分かります。常思ってました」
「「・・・・・」」
「?どうかしたんですか?山吹さん、影月さん」
「「えっ?いやなんでも」」
「息ぴったりですね」
「まぁ付き合い長いんでね」
「そうそう!もう10年くらいかな?」
「へぇ~」

(・・・・危なかったね)
(おう。あの2人が魔術士系統なのは秘密だったな)
(でも動物的って言い得て妙だよね)
(確かに。ネムリちゃんはハーピー、夢魔ちゃんはサキュバス。サキュバスは精神に刻まれた淫魔としての衝動に沿って動いてるし)
(ハーピーはもろ動物だもんね)

春正と美紀は内心焦っていた。やはり、長年一緒にいる人間、その人に対しては勘がいいところがあるのだろう。
ネムリと夢魔の事は、昨日直接本人達から言われ、言わないように口止めされている。

「食べないんですか?お二人とも」
「えっ?いや食べますよ」
「とー君達くる前に食べちゃお!いっただきます!」
「ただいま~」
「あっ、おかえりとー君・・・・・どったのその状態」
「あー。中々離れてくれなくて」

帰ってきた冬華を一同が目にすると、ネムリと夢魔が冬華の両腕にひっついて離れないようにしている。
両手で昼食を持っている冬華は心底嫌そうな顔をしている。
両手が昼食とネムリと夢魔で塞がっている為、非常に危ない状態だ。

「・・・・お腹すいた~」
「ねっ!早く席座ろ」
「いやほんとに早く座ってくれ。動きにくいし、危ねぇ」
「「はーーい」」

席は大きな横机で、冬華が真ん中、両隣にネムリと夢魔、ネムリの隣は曲、冬華の前は美紀、美紀から見た右隣に桃巳、エリカ、左隣に春正だ。

かれこれ30分程皆で団欒を楽しんだところで、ネムリが不意にこう言った。

「とうか。連絡先ちょうだい」
「え?どうした急に」
「折角友達になったから欲しい。勿論ミキとはるーのも」
「それいいね!あげるあげる!春正もいいよね?」
「もち。いいぜ」
「はい、とうか」
「・・・まぁいいけど・・・ほれ、登録頼むぞ」
「はいなの」
「うちもうちも!ほい、冬華」
「分かった分かった。ゆっくりやるから少し待て」
「エリカちゃんも3人と連絡先交換してはどうです?」
「・・・私は・・・」

エリカは口籠もってチラリと気づかれない程度に冬華を見てきた。恐らく連絡先を交換するということに戸惑いを隠せないのだろう。もう冬華とエリカは電話番号も何もかも交換している。そんな中、交換していることがバレたらえらい事だ。

「よろしく、紅野さん」
「はい、これ俺の連絡先です。よければどうぞ」
「はい、よろしくお願いしますね。・・・・・星川さんも・・よければ・・・」
「・・・お、おお。じゃあ・・・・・ほい、出来た。改めて宜しく」
「・・・はい。よろしくお願いします」

スマホをいじって登録するふりをする。そして初めてではない挨拶を交わす。

「じゃあ午後からも楽しく回ろわー!」
「「「「おおーー!!」」」」
「お~なの~」
「はい。お~ですね」
「・・・元気だな」
「まぁまぁ。星川さんも言っておきますか?」
「遠慮する」
「ふふ。行きましょう」
「へいへい」


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午後からも冬華は散々美紀や春正、ネムリと夢魔に振り回された。殆ど冬華が乗れる物などないが、それとは別に冬華にはやるべき事がある。それは写真を撮る事だ。
遊園地ではあまり乗り物に乗れないので、冬華は写真係を申し出た。皆が楽しんでいる風景をカメラで撮影するのは思いの外楽しいもので、とても微笑ましいものだった。

「・・・・で?なんでエリカは俺のそばにいるんだ?」
「私も騒ぐのは嫌いではないですけど、疲れたのです」
「他のみんなは?」
「向こうの行列に並んでます。何でも人気のジェラートがあるとか」
「まぁ、最近暑いしな。丁度いいかもしれん」
「・・・・・」
「・・・・なぁエリカ。お前やっぱ怒ってるよな?」
「別に。怒ってません」

怒っている。完全に怒っている。いや、正確に言えば怒っていると言うよりは拗ねているのだろうか。
何故かは分からないが、知らない間に機嫌を損ねさせてしまっていたのだろう。
今までの冬華ならどうでもいいと思っていたが、エリカと関わる内に少しは心情に変化が出てきた。

何が何でも話をしなければいけないようだ。暫くは拒絶されるだろうが、春正達が行列に並んでる内が有効時間だろう。

「エリカ。俺が何かしたんだろ?教えてくれたら今度から少しは気をつけれると思う。だから・・・」
「・・・・・・ネムリちゃんと、夢魔ちゃんと腕を組んで楽しそうに歩いてました」
「え?いやあれは別に楽しそうってわけじゃ」
「鼻の下伸ばしてました」
「いやいや伸ばしてねぇ伸ばしてねぇ」
「私の方が・・・仲良いのに」
「うーんまぁ付き合いの長さで言えばそうだろうけど」
「昨日もゲーム中ずっと2人とベタベタして、ネムリちゃんの世話ばっかり」
「あれはネムリが眠ってばっかりだったから。隣に居るの結構大変だったんだぜ?」
「ネムリちゃんと夢魔ちゃんの事、私より早く名前呼びしてますし」
「あれは昨日名前で呼んでくれって言われたから」
「・・・そうでしょうけど。というかまだ気づかないんですか?」
「・・・・何を?」
「だから・・・」

エリカが何を言いたいのか冬華にはよく分からなかった。でも少なくとも怒りの沸点が限界まで行っているという事はなさそうだが、このままにしておくのもどうかと思う。

だが理由を聞こうにもエリカは俯いたまま答える気があるのか分からない。けど意外と早く答えてくれた。
「私にも、・・・もう少し・・・・構ってください」
「あ・・・・なる、程な。そうだよな。悪い、一緒に回ろうって昨日言ったのにな」

そう。それは昨日ネムリ達にエリカとの関係がバレ、その後冬華達の部屋でゲームをした後の事だった。
ゲーム中、春正と美紀は寝落ちし、残りの4人も、殆どレム状態だった。そんな中、冬華とエリカはとある約束をした。


・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・。


「冬華くん。明日皆んなで回る際、私に構ってくださいね?」
「は?何でだ?」
「昨日、雷の件でご迷惑をかけましたし、何かお礼でもと思って」
「いいよ別に。明日も多分大変な1日になるだろうからそんな暇は無さそうだ」
「でもほんの少しでもいいので構ってください」
「・・・善処はする」


そういう約束をしたのにも関わらず、冬華はすっかりと忘れていた。いや、むしろネムリや夢魔の相手で忙しいのに覚えていられる訳がない。

「・・・いや悪かった。こればっかりは俺が悪い」
「分かってくれるなら良いです」
「今度礼でも・・・そうだ。今度テストあるだろ?それでまた例のごとく一位だったら言うことを聞いてやる。それでどうだ?」
「・・・・二言はないですか?」
「おう。流石に今回は約束しよう。またテストで一位なら何でも聞いてやる。俺のできる範囲でだけどな」
「分かりました。楽しみにしてます」
「一位取る気満々かよ」

あまりこういう約束はしない冬華だが、今回ばかりはしないわけには行かない。来週にはテストがある。冬華も勿論成績維持の為に頑張るが、エリカはこういう報酬には何となく弱い所がある。恐らく鬼気迫る感じでテストに取り組むだろう。
今からエリカが頼んでくる内容に対してできる事の対策をしなければと空を仰ぐと向こうから声が聞こえる。
どうやら美紀達がジェラートを買って戻ってきたようだ。

「じゃあ皆さんのところに行きましょうか」
「暑いからあんまし動きたくないんだが」
「だらしないですよ。今から少しでも体力づくりをしましょう」
「へいへい」

涼しかった影から出て美紀達と合流する為歩く。冬華は合流するまで考えた。今日のエリカはとても怒っていてそして拗ねていた。
理由は明白になったが、これが俗世間で言うところのアレなのかは微妙であったが、そうなのであろう。
今日のエリカはネムリ達が冬華と仲良くしているのを見て機嫌を損ねていた。
ならばエリカが抱いていた感情で導き出される答えは・・・・・【嫉妬】だ。誰に対してかは考えないようにした。

何せ冬華とエリカ。住む世界も見える世界も全く違う。それに彼女は人気者だ。自分とどうこうなる事など考える事もおこがましい。
だから、これはきっと勘違いなのだと自分にしっかりと強く言い聞かせて、冬華は美紀達と合流した。

























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