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第一章

37 中間テスト結果

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長い長い遠足も残りの半日はすぐに終わった。あの後、ホテルまで帰った後も冬華達の部屋で集まりゲームをして楽しみ残りの日程も時間の流れが早いと感じるほど早く終わり、冬華達は学校へと戻ってきた。
遠足の後は、スケジュール調整があったにせよ、中間テストだ。
しかし、その前に大型の台風が接近し、甚大な被害は出たには出たが、ありとあらゆる魔術士達が対策に対策を重ねていたので、どれも最悪の事態になる前に収束する事ができたと聞いた。
台風後の中間テストもあっという間に終わり、月を跨いで六月の最初の一週間が終わる頃、全てのテスト結果が返り、順位も張り出されていた。

「冬華~。どうだったよ?」
「まぁ普通よりちょい上くらいだな」
「・・・・」
「なんだよ。何か言いたげだな」
「お前手抜いたろ。もっと上いけんのにな。ほら、クラスでは半分よりちょい上でも全校では4分の1か2のギリギリのライン。お前を知ってる俺だから言うが、手を抜いてる風にしか見えん」

冬華は普段はダメダメのダメ人間だが、勉強などは基本疎かにはしない。成績維持はモチベにもなるし、何より家族との約束事の一つでもある。満点など取ることもできなければ取る気もないが、それでも本気でやれば七、八割以上は余裕で取れる。

まぁ、八割以上点を取っても上には上がいるのだが。全校クラスとクラス順位の一番上を見ると、やはり見慣れた名前があった。一位・紅野エリカ。やはりというかなんと言うか。もう予想できていた事なので驚きはしなかった。
冬華は手を抜いても抜かなくてもこれなのだから、一生エリカの背中を見ることはないだろう。主に精神的な意味で。
まぁそれでも美紀や春正には負けたりしないのだが。
更に、一位を取ったので約束の冬華手製の料理を振る舞う事が決定した。あまり執念深く料理はしていないが、気合を入れねばなるまい。


「・・・・手を抜いた俺にお前も美紀も負けてんだけどな」
「そっ、それはまぁちょっとサボってたんだって」
「ちゃんとしろよ。留年なんてされると困るからな」
「おっ?心配してくれんの?」
「友人が留年したら普通に恥ずいだけだ。・・・それに、お前は家のこともあんだろ?」
「・・・確かに。ちょっとは真面目にしないとな~」

春正は冬華の忠告に怠け者のようにのらりくらりとしているが、内心では滅茶苦茶炎を燃やしていることを冬華は理解している。
春正の家は父親が厳しい人で、あまり軽い感じが好きではなく、春正にはもう少しまともな人生というか、いい人と結婚してほしいと言っていたそうで、一時期は美紀と結婚させようともさせていたと聞く。それに怒った春正は家を出ることを決意し、冬華に着いてきたという事だ。

美紀との結婚は嫌ではなかったそうなのだが、政略結婚自体嫌いであった事もあり、何より理由が、『美紀が俺を好きならともかく、そうでないなら美紀の思いを尊重しないアンタとはやっていけねぇ』と、とても男らしいセリフを言ったとか言わなかったとか。そんなこんなあり、父親との折り合いは悪い。

春正はもう他人だと思っているようだが、それでも親は親、逆らえない部分もあるわけで、少なくとも学校を卒業するまでは春正も親の監視下にあるが、そこは冬華の師匠が考慮してくれており、可能な限り干渉しない事を約束させたそうだ。


「お前はなんであの部屋だったのになんでちゃんと勉強ができておまけに順位までもがいいんだろうな?」
「・・・・日頃の行いだな」
「お前それ本気で言ってるのか!あの部屋で行いが良いんなら部屋綺麗でちゃんと生活してるやつは毎日不幸が押し寄せるぞ!」
「少なくとも本気出してない奴に負けてる奴よりはマシだ。まぁ頑張れ。じゃあ俺帰るからな。今日春部活だろ?」
「おう。また明日・・・じゃなかった、連休明けな~」

連休。その言葉を聞いて今思い出した。今日からテスト週間が終わった学園長からのご褒美として土日と月曜日の合計三連休が与えられているのだ。生徒には苦のないような学園生活を送ってほしいとのことで、大きな行事ごとの後は、必ずと言っていいほど休みがある。
生徒達にとってはありがたい限りだ。

エリカを見た限りでは、もう脚はすっかりいいらしい。テスト前にあった体育も参加していてし、病み上がりにしては素晴らしい活躍をバスケで見せていた。
思わず見惚れるほどの数のスリーポイントシュートは初心者目から見ても明らかだった。まぁ冬華は初心者というわけではないが、それでも凄いと感じた。

今日はエリカと一位を取ったら料理を振る舞うと約束した日だ。夕飯は何にしようかと考えながら歩いていると、ポケット内のスマホが着信音を発する。
誰だと思い名前を見ると泱ちゃんだった。

「もしもし泱ちゃん?」
『冬華くん。こんにちわ』
「ああ、どうした?」
『実は、今日、もしかしたらお店に出せるピザを作ったから試食してほしいんだけど大丈夫?』
「・・・・オッケー。じゃあいつもみたいに店の人に宅配させてくれ」
『分かった。何枚いる?』
「う~ん、2枚頼む」
『了解であります!じゃあまた後で夕食ごろに持ってくね』
「おお。頼むわ・・・・じゃあまたな」
『じゃあね~』

久しぶりに話す泱との会話はなんだか少し暗く感じた。
恐らく、父親にピザの練習に付き合ってもらい、ことごとく不合格にされていたのだろう。ピザ作りはそう甘いものではないとは自覚はあるが、想像を絶するのだろう。

そんなピザを食べられるなんてありがたいと思いながらスーパーに寄る。何が食べたいかは具体的に聞いていないが、一ヶ月弱と言う短い間でエリカの好物は把握することはできないこそすれ、なんとなくは分かる。

大量に買い込み重いレジ袋を持って家へと帰宅する。
レジ袋内の大量の食材やら調味料やらをしまい込み、準備をする。
しようとしたその時インタホーンが鳴ったので本日の主役を丁重にお出迎えする。

「よう。こんちわ、エリカ」
「こんにちわ、冬華くん」

家にやってきたエリカは薄手の白い長袖に紺色のスカートを履いている。今日の髪型はストレートでいつもの髪でなんだか落ち着く。
いつものように挨拶を交わして家に招く。ソファに座りエリカは何やらカバンの中をゴソゴソしている。取り出したのはテスト用紙と筆記用具とノートだ。

「・・何すんだ?」
「採点です」
「さいですか」
「・・・今の上手く言ったつもりですか?」
「すんません」

意図的ではないにしろ、言ってから気づいたのだが、ダジャレっぽくなってしまい、エリカから出会った時の目をされ少し怖かったのですぐに謝る。

「聞くまでもないが結果は?」
「ミスが無ければ満点です」
「流石」

もう万点が当然の事なような気がしたので驚きはしなかった。

「そもそも、大学進学できるまでの学力はあるつもりです。ですので復習だけで私は十分です」
「それはそれで流石というか怖いな」
「冬華くんも成績は良いでしょう?」
「前にも思ったけどお前、なんで俺の順位知ってんだ?」
「一応ざらっと見て名前はぼんやり覚えてますよ」
「ふーん」
(・・・成程、だから名前知ってたのか)

何故あの日公園で話した時名前を知っていたのかの謎が解けた。それにしても全員の名前を覚えているなんてのは流石の優等生っぷりだと感服した。
てっきり上位十位か二十位くらいではないと覚えないなんてと思ったのは黙っておこう。

「・・・あっ、そうだ。忘れるとこだった」
「はい?」
「中間考査一位おめでとう。今日はこの間の遠足の約束通り好きなもん作ってやるから」
「!・・・は、はい。ありがとうございます」

一瞬物凄く嬉しそうな顔になったのは見なかったことにした。だが、そこまで楽しみにしててくれたのは正直嬉しかった。

「何が食べたいかは決めたか?因みに今日は偶然にもこの間頼んだピザの店の新作の試食を頼まれたからそれもある」
「え?ほんとですか?」
「ああ。で、何が食いたいかの話なんだけど、何が良いんだ?」
「はい、オムライスとカレーが食べたいです」
「結構食うな」
「今日を楽しみにしてたので」
「いや、それにしても女の子よりは食べてるぞ?」
「・・・まぁ、自分は確かに普通の人よりは食べている自覚はあります」
「だろうよ。お前ピザの時もめっちゃ頼んでたしな・・・・分かった。じゃあ俺の家居ていいから、テストの採点やっててくれ」
「え?何処かへ行くんですか?」
「ああ。ちと用事ができた。じゃあ行ってくる」
「はい、いってらっしゃい。お気をつけて」

冬華は私服に着替えて急ぐように家を出る。今日は学校が昼までだったので時間が取れる。今日はエリカとの約束でご飯を振る舞うが、それだけでない。
何も言われていないが、日頃世話になっているので何かプレゼントを買う事にした。

何故当日なのかと言うと、ここのところ試験前で時間が取れなかったのと、何をあげれば喜んでくれるのかが分からずに
悩んでいると当日になってしまったからである。

兎に角デパートなどに赴いて、夕食はの時間までに帰れるようにするつもりだ。
だが、果たして良いものが見つかるかどうか。冬華は深いため息を吐いてデパートに足を運ぶのだった。










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