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第一章

41 親友が彼氏

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「・・・・・春正」
「冬華・・・・なんでここにいんだ?」
「え?はーくんと兄様知り合いなの?」
「いや、知り合いという、親友だ」
「そうそう。・・・で?なんで冬華が俺の彼女と一緒にいんだ?」
「それは・・・」
「私がパスケースを落としたのを偶然兄様が拾ってくれたの。それで兄様の頼みを聞いてたから一緒に居たんだよ、はーくん」
「頼み?」
「・・・知り合いにプレゼントをあげようと思ってたんだが、俺一人じゃ何選んで良いのか分からなかったから日向に選ぶのを手伝ってもらったんだよ」
「ほぇ~・・・てかお前意中の女の子居たのか」
「俺がそんな事する奴に見えるか?」
「見えん」
「だろ?・・・日向にはそのプレゼント選びの相談をしたんだよ」
「で?何か買えたか?」
「・・・・・」
「だと思った。でもなんで日向は冬華の事を兄様って呼ぶんだ?」
「お前、何も聞いてないのか?」
「ほえ?」
「日向は俺の従妹だ。苗字星川だろ?俺の父さんの妹の子なんだよ、日向は」
「あー成程な。確かに魔術士の家系だってのは聞いてたけど、お前の親戚だったとはな」

何処か軽いノリで聞いている春正だが、いつもより声がワントーン低く、ノリが悪い。恐らく、自分の彼女が親友といた事を訝しんでいるのだろう。春正にしては珍しい態度で驚いている。

「日向は俺が子供の頃に一緒に遊んだ事があるってだけだ。良く一緒に居たから日向は次第に兄様って呼んできたし、俺も俺で、妹みたいに接してたからな」
「俺それ初耳」
「俺もさっき思い出したんだ。日向は俺の事覚えてたみたいだけど」
「兄様との思い出は私の宝物だから、忘れたりしません」
「サンキュー・・・でも春、お前が日向と知り合いっていうか彼氏だったとは知らなかったぞ。ていうかなんで黙ってたんだ?」
「ここ最近、日向は大変だったからな。機会を見て言おうとは思ったんだが、先に知り合うなんて思わなかったんだよ」
「二人が知り合ったのは・・・」
「丁度父が亡くなってすぐの頃です。あの頃は大変だったんですけど、偶然葬儀や色々な事がてんやわんやの頃、はーくんがうちに来てて知り合ったんです」
「それ何年前だ?」
「お前が10歳の頃に引きこもってそれから中1になってすぐだから3年も前だな。あの時の冬華は引きずってたのもあるし、別のこともあったろ?俺は代わりとして師匠さんに呼ばれてたんだ。和さんが亡くなったから俺が葬儀に出席しろってな」
「俺それ初耳。つかあいつなんで俺には・・・」
「私が会った時に直接兄様に言うって兄様のローズ様に頼んだんです。連絡が遅くなってしまったのですが・・・すいません」
「謝るな。寧ろあの頃は俺も色々あったから、行けたかもどうか分からんし」
「そうだったな」

春正は冬華の暗い顔を見て何かを察したのか何も言ってこなかった。こういう所は我が親友ながら流石だと思う。
あの頃、中学に入ったばかり、それ以前も冬華はレイナの死を受け入れられずに死人のような人生を送っていたから、世の中、家族の事さえ分かっていなかった。
自分が引きずっている間にそんなことがあったなんてのは考えもしなかった。

「良くもまぁこんな美人を彼女にできたな」
「まぁな。でも結構大変だったんだぜ?最初に会った時はすげぇ警戒されたし」
「それは日頃の行いだな。どうせ遠慮せずにチャラく行ったんだろ」
「あはは!まぁな!」
「褒めてねぇ」
「・・・兄様とはーくん、仲が良いんですね。流石大親友です。ちょっと羨ましいです」
「大親友じゃねぇ、親友だ」
「ええ~。そこは大親友にしとこうぜ~」
「るっせ。じゃあ後はお二人さんでごゆっくり。邪魔者は退散しますよ」
「あれ?なんも言わねぇの?」
「ん?日向が決めた事に俺はなんも言うことなんてないよ。和智の兄さんも喜んでるさ。でもな春。・・・もし日向を泣かせたら例えお前でも殴るぞ」
「・・・分かった。肝に銘じとくよ。お前を怒らせたくないしな」
「じゃあな、日向。また時間があったら和智のおっさんに会いに行くよ」
「うん。待ってます、兄様」

冬華は二人に背を向けて片手だけで返事をする。我ながらカッコつけすぎた気もするが、余り多くは語らないようにしたのだ。

「まさか日向に彼氏・・・しかも春・・・複雑だ」

考えても仕方がない。そう自分に言い聞かせる。それともう一つ問題ができた。和智に手を合わせに行くということは必然的に冬華の叔母、祈に会うという事だ。
別の意味で苦手な要因の一つだ。冬華の父親は、穏やかな人である。その妹である祈は、穏やかな人ではあるのだが、どうにも取っ付きにくいのだ。何考えてるか分かりにくい為である。
因みに祈は冬華の父親とは双子にあたり、日向を産んだのも父親と同い年だ。
しかし、祈の旦那である和智は普通の人間で、年齢は確か結婚した時は25歳だった筈で、かなりの年の差結婚になる。
魔術士の人間も、それを好きになる普通の人間も底が知れないというより、考え方がおかしいような気がする。
深いため息を吐いて帰路に着くが、ここで大事な事を思い出した。

「あっ・・・・プレゼント買ってない」

色々あったせいで、肝心の目的を忘れて家へと帰るところだった為、慌ててデパートに戻り春正達に見つからないよう迅速に目について気になったとある物を買って家へと安堵しながら帰った。

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