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第一章

サイドストーリー1話・祈の邸宅

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エリカに日頃の感謝のプレゼントを渡した次の日、三連休を使って冬華はとある家へと足を運んでいた。
昨日約束したばかりで急かとも思ったが、できるだけ早いほうがいいという結論になった。それともう一つ理由はある。
会うなら合うで早めのほうがいいからだ。

今向かっているのは冬華の従妹の日向の家で、冬華の叔母がいる家だ。できれば行きたくないのが心情だが、和智へ挨拶を済ませなければという思いから行くとこを決心した。
場所は冬華の住んでいる町の駅から一駅行った隣町だ。

電車内で揺られながら今日の事を考えると憂鬱になる。本当なら電車代の節約の為認識阻害をかけて飛行魔術で飛んで行こうかとも考えたのだが、夜中ならまだしも昼間では見つかる可能性を考慮してやめた。
暫く電車に揺られて待つと、隣町に到着し駅を出て送られた地図を見る。日向の家は駅から遠いようで近いような場所にある。

歩く事数十分。家に着いた・・・・筈なのだが、肝心の家が見当たらない。
・・・おかしい。住所も場所もあっている筈なのだが、目の前にあるのは壁、というよりは鉄格子の柵だらけだ。

「・・・・まさか」

冬華はもしやと思い、簡易の身体強化の魔術を詠唱なしに使い鉄格子よりも上に飛ぶ。
飛んで目に入った光景は、広い庭と大きな西洋風の屋敷だった。思わず「わぉ・・」と口から無意識にこぼしていた。

ただこのくらいの大きさの家を見るのが久しぶりだったからだ。張り合うわけではないが、冬華の家も負けず劣らずまぁまぁ大きい家だ。しかしこの日向の家?は大きいというよりは広いと言ったほうが適当がしれない。

場所がわかった事で、柵の周りを一周して門を見つける。
インターホンは・・・無い為、右往左往していると、自動で開き何処からかスピーカーのようなノイズが聞こえる。

『兄様・・・いらっしゃいませ。どうぞ中へ』

何処かにあるであろうスピーカーから聞こえた声の主は日向だった。言われるがまま敷居を跨ぎ、玄関まで歩く。
何故こうも金持ち達は玄関までの道をこうも長く作るのか理解不能ではあるが、庭園などある家に限って言えば恐らく、手入れされた花達をお客に眺めてほしいからだろうと思う。

扉の前に着くと、今度は自動ではなく手動で開き中から日向とメイドが何人か出てきた。その中にいるメイドは全員見たことがある顔馴染みばかりだった事に気がつく。
彼女達は以前、冬華の実家にいたメイド達ばかりだ。なんだか懐かしく、無意識に笑みが溢れる。

「ようこそ兄様。待ってました」
「よう日向。お前達も久しぶりだな。・・・・仁美、義奈よな礼善れい智夏ちなつ信寧ことね忠愛たえ孝代たかよ悌歌ともか

「「「「「「「「お久しぶりです、主様」」」」」」」」
「元気だったか?」
「はい。お陰様で元気で皆やっております」

最初に前に出て答えたのは仁美だ。他のメイド達は笑って冬華にお辞儀をする。久しぶりにみんなの顔を見たが、相変わらず全員同じ顔をしている。この8人は同じ日に生まれた八つ子である。

だが、この8人はただの人間ではない。とある家系の魔術実験で生まれた同じ遺伝子を持った人間、ホムンクルスのようなものだ。しかし全く同じというわけではない。全員が全員瞳と髪の色が違う。因みに色は仁美から虹色の順に赤、橙、黄、黄緑、緑、青、藍、紫だ。
魔術回路もそれぞれ全く別物だ。
みんな違ってみんな良いだが、顔は全く一緒なので正直髪の色が別でなければ見分けるのは難しいだろう。
冬華はどんなに変装されても誰が誰だか分かるが。

彼女達は、冬華がまだ地元にいた頃、とある闇市で奴隷として飼われていた所を、師匠に冬華のあるだけの貯金を下ろしてもらい、冬華がその奴隷商から買ったのだ。奴隷商は渋っていたが、そこは師匠が脅し・・・交渉した。

こうして自由の身となった8人に冬華は何処に行ってもいいと言ったのだが、メイドでも何でもするから置いて欲しいと言われ、やむなく暫くの間冬華の実家のメイドをしてもらっていたのだが、レイナを失ってすぐの頃、冬華の師匠に別の所での仕事してもらうと言って8人は別の所で元気にやっていると雪弓から聞いてはいたが・・・まさか日向の所で仕事をしているとは思ってもみなかった。

「8人はどうしてここに?」
「主様の師匠様から日向様の家が今大変だから日向様の家で働いて欲しいと言われ仕事をしております」
「主様はあの頃はまだ余裕がなく、話す機会がなく申し訳ありませんでした」
「私共はお変わりなく楽しくやっております。ご安心下さいませ」
「本日は主様に会えるのを楽しみにしておりました」
「我々はあの日主様に助けて頂いた御恩を一度も忘れた事はありません」
「寧ろどうすれば忘れられるでしょうか。我々が主様の為に間接的にでもお力になれれば幸いです」
「あの日より私たちの命は主様である冬華様と一蓮托生です。何かあればすぐにお呼びください」
「そして・・・・」

仁美達は再び一斉に頭を深く下げる。

「「「「「「「「「あの時は本当にありがとうございました、主様。お師匠様よりここでの任を解かれましたら再びあの家へと帰ります。その時までどうか、日向様のメイドである事をお許し下さい」」」」」」」」
「・・・・ああ。こっちこそしっかり日向を支えてやってくれよな」

相変わらず頭が硬いのは治っていないようだが、元気そうで安心した。彼女達は身長体重、その他が全く一緒の為、誰が何をしているのか分からないのは初心者では見間違ってしまう。何せ同じ遺伝子を持ったホムンクルスだが、個人差はあるようで無い。年齢はホムンクルスなのであまり気にする事はないが、冬華の一つ下である。

鞄を仁美に預けて玄関に靴を並べて置く。

「さぁ、兄様。まずはお父様に・・・」
「うん。ちょっと行ってくるよ、先に部屋に行っておいてくれ。・・・あっ、その前に祈さんに挨拶してくるよ。執務室だろ?」
「はい、いらっしゃいますよ。忠愛さん、案内を」
「かしこまりました。主様、こちらです」

忠愛に連れられて大きい階段を右に外れて長い廊下を歩く。壁には大きな絵が何枚か飾られており、高そうな額縁に入れられている。絵を見て思ったのは、絵のタッチが似ている事だった。

「なぁこれ、忠愛が描いたろ?」
「はい。よく分かりましたね、主様」
「いや、昔から絵が上手で見てた事あって、よく似てるなって思ってさ。相変わらず上手いな、流石だ」
「直接忠愛言ってあげてください。喜びます」
「だな。・・・つうか、祈さんに会うの嫌なんだけど」
「主様、今回来られたのは祈さんから呼ばれたからでは?」
「それが嫌なんだって。別に嫌いじゃないんだけど、雰囲気が苦手でさ」
「一見仏頂面で表情は読めにくいですが、中身はとてもお優しい方です。話し方に気品に加え、誤解させやすい冷徹なようなお声で勘違いする人は多いですが、素晴らしい人間で、素晴らしい魔術士です」
「まぁそれは分かる。・・・・廊下長いな、この家」
「そういう造りですので・・・・着きました」
「やっとか。・・・・・さて、忠愛、日向の所へ戻ってろ。後は一人で話す」
「かしこまりました、主様。ご健闘を」
「おう。・・・失礼します」
「お入り下さい」

部屋をノックすると、丁寧語(冷たい雰囲気で無愛想な)声でそう言われ冬華は部屋に入る。柄にもなく緊張したせいで、3回でいいのにノックを4回したことには気づかず、大きな扉を開ける。

執務室に入ると、こりゃまた広い部屋だった。壁には本棚や高そうなショウケースの中に盾やらメダル、魔術的な所縁のある物ばかりだ。
部屋の奥の壁は大きなガラス張りでその前には仕事用の机があり、椅子に座り仕事をしている人物がいた。

黒髪ショートに鋭い目つきの黄色い瞳、綺麗に整った顔をしている。星川祈。冬華の父親の妹にして年齢はまさかの27歳。冬華の叔母にしてはおかしい年齢である。因みに冬華の父親と祈は双子の為、年齢が同じである。冷静に考えてみれば父親も母親も叔母も年齢が30代以下というのは世界広しといえども居ないだろう。

祈も卓越した魔術士であり、付いた二つ名は【使役王】。
召喚魔術に長けた祈は、ありとあらゆる幻想種や魔物や使い魔を召喚する事が出来る。その気になれば悪魔や天使を擬似的にも召喚可能だが、ご先祖が天使や悪魔を嫌っていることを知った祈は悪魔も天使だけは召喚することをやめた。
しかし、その他の使い魔や幻想種ははっきり言って強い。
使い魔レベルに収まりきらず、あれはもはやかつて存在した者達のそれだ。

「お久しぶり、です。祈さん」
「あら、叔母さんと言うことは流石に辞めたようね」
「ええ、まぁ」
(アンタが凄い顔してもの凄く睨んできたからな)
「何か?」
「いえ何も」

思考と顔色を読まれたようで、即答して何も考えてなかった風を装う。昔から祈の相手は苦手だ。隙を突かれれば寝首を駆られる・・・そんな雰囲気がある。
冬華の父親は、優しい笑顔でいつも「いつも祈はあんな感じで可愛いよ」と、妹惚気を聞かされているので正直参考にはならない。

「ですが、前のような呼び方で構いませんよ?」
「分かりました。・・・祈姐さん」
「宜しい。・・では改めまして、お久しぶりですね、冬華」
「はい。本日はお誘い頂き嬉しかったです。懐かしく、日向の顔も見る事ができて嬉しかったです」
「元気にはしていたわよ。あの子も一応成長はしているから、大丈夫ですよ。・・・彼氏もできた事ですし」
「知っておられたんですか」
「当然です。あの子が言ってくるまでは黙っていましたが、普通に気付きますよ。あの子は嘘をつくのは上手ではありませんからね」
「確かに」

世間話をしてよく分かったが、祈は昔からあまり変わっていないようだ。世間話をしやすい相手として冬華は数人浮かび上がる。師匠、父親、そして祈。この3人は比較的気心というか、そういうものが冬華に取っては分かるらしく、何の気兼ねなく話す事が出来る。

「・・・・それで、本題は何です?」
「本題、とは?」
「誤魔化さないでください。アンタの本題は今日、俺と会う事じゃない。・・・・・俺の力が目的でここへ招いたんでしょ?」
「・・・・」
「祈の姐さん、貴方は・・・和智兄さんが死んだ事を、この数年、受け入れられてないんでしょ」
「!・・・・どうして、そう思うの?」
「子供の頃から、貴方が年のかなり離れた和智兄さんの事を何よりも誰よりも思っている事を知っているからだ」
「それは・・・」
「だから俺を呼んだんでしょ?和智兄さんの声を聞く為に」
「・・・・聞けるんですか?あの人の声を、・・・・最後の言葉を」
「最後の言葉ってのはあまり好きじゃない。話せる間だけ話すといいですよ」
「・・・・・」

祈は無言で席を立ち、本棚へと歩き出す。冬華も事を察したのか、祈へ着いて行き、本棚で止まる。
祈は一つの本を取り出し、空いているスペースにその本を入れる。すると、本棚自体が横にずれ隠し通路が現れた。

カラクリ屋敷かとツッコみたくなったがそこは堪えた。
「行きますよ」と、祈に先導され後ろをついていく。隠し通路というよりは、家の廊下のような作りをしていて、てっきり地下にでもいくのかと想像していたがどうやら違うようだ。


「・・・あなたが産まれた頃には、私はどう映ってた?」
「・・・確かまだ俺が3歳にもならない頃には物心はあったと思います。すっごくべったりで正直母さん達よりもべったりで驚いてましたよ。子供ながらには」
「・・・・・そう、ですか」
「姐さんは2回りくらい歳が違う和智兄さんを良く射止めましたね?確か会ったのは父さんと母さんが会ったのと同じくらいですよね?」
「そうですね。私が9歳の頃にはあの人に会っていました。・・・まぁその、一目惚れというやつです」
「・・・ですか」

暗くて顔は見えないが、耳が赤いということは分かった。
惚気というか恥ずかしさで堪らないのだろう。冬華は後ろで小さく笑う。それと同時に何故和智はこんなにも大好きで仕方がない彼女を置いて行ってしまったのか、人生というものは酷いものだと思い、恨みたくなった。
しかし、今の可愛らしい顔を見せてやりたいとは心底思った。


「日向を産んだのは、確か13の時でしたっけ?」
「ええ。兄と義姉様が貴方を産んだ2年後でした。確かその時と同じくして・・・・」
「はい。おっしゃる通りで。こう思うと、成長ってあっという間ですね」
「ええ。そして・・・失うのも一瞬です」
「すみません。浅はかでした」
「別に攻めたわけではありません」

失言したと思いすぐに謝るが、祈は気にしていないと言わんばかりだった。
今のは冬華でも嘘だと分かる。やはり祈は和智が死んだ事を受け入れられてはいないのだ。

隠し通路を進んで10分程して、ようやく出口に着いた。
てっきり部屋に出るかと思ったのだが、着いた場所は地下のような場所で、真ん中の方には魔法陣が描いてある。

「・・・あそこに行けば良いんですか?」
「・・・・・はい」
「言っておきますけど、上手くいかなくても文句言わないでくださいね」
「貴方に限って失敗はないでしょう?この手の事に関しては、貴方ほど得意な人は居ませんよ」
「過大評価どうもです」


冬華は言われた通りに魔法陣の真ん中まで行き、その場に立つ。目を閉じ集中して魔力を高めていき、呪文を詠唱していく。

「《我・せいと死の狭間にある橋・尊く長き人生・刹那の足跡そくせきは時の星・魂に応えるは我が声・魂呼ぶは我のこえーー」

冬華は詠唱の途中で折り畳みナイフで自分の手首を切りつけ血を垂らしていく。言わば触媒だ。こういう大掛かりな魔術を発動するには必ず触媒が必要になる。
中には触媒なしでも大魔術を起動できる者も居るには居るが、一握りだ。

「・然るべき誓いを此処に・血潮は流れ汝の記を写す地は整った・・時刻み許すまで・族のために声聞かせたまえ》!」

長い詠唱を終えると、魔法陣が光り出す。目を開けれていられなかったので咄嗟に目を閉じる。
数秒経ち光が消えたと感じで目を開ける。そして驚愕した。なんの変化もなかったのだ。
本来ならば、冬華の目の前には居るはずなのだ。亡くなった人の魂が。

冬華が使った魔術、厳密に言えば魔術ではなく冬華の特異体質を魔術の詠唱に置き換えて発動させるものだ。その体質による魔術は端的に言えば降霊術に近しい。
死んだ人の魂だけに限らず思いや記憶を呼び起こす、言わば奇跡に等しい力だ。
聖女などが人に与える加護とも呼べるものですら冬華の力があれば具現化し会話を可能とする。

しかし、今この場においてはなんの変化も現れていない。
冬華は困惑し、祈を見る。

祈でさえ、顔に驚きを露わにしている。そのままゆっくりと近づいてくるので冬華は身動きを取らずただ祈りを見る。

「・・・説明を」
「はい。と言っても、上手くいかなかった。失敗したとしか」
「しかし、あなたのこの力で失敗した事はない筈、どうしてなんですか?」
「落ち着いてください。・・・・・考えられるのは幾つかありますが・・・」

そう、考えられる事はいくつかある。
まず一つ目、単純に失敗したかだ。この場合は死者の魂が呼びかけに答えなかったという点が挙げられる。

そして二つ目、死者の魂の心残り、この世への未練がなく魂が天に昇り新たな命としての準備をしている事だ。
この場合はもう冬華達に出来る事はない。しかし和智の魂が祈に何も言葉を残さずに天へ召されるとは到底考えられない。なのでこの点はあり得ない。

ならば最後の可能性、魂が存在しない。つまりは、和智は死んではいないという可能性だ。
まさかとは思うが、でなければ冬華のこの力が失敗するはずがないのだ。

「・・・姐さん。多分ですけど、和智の兄さんは死んではいないのではないでしょうか」
「えっ?・・・それは、どういう事ですか?」
「俺の力が及んでいないんですよ。少なからず俺の力が発動すれば、触媒として流した血が反応して魔法陣は光るはずなんですが・・・変化がない。これは失敗でもなく、単純に・・・起動しなかったんですよ」
「!」
(そうだ。魂が応えてくれるのなら多かれ少なかれ反応がある。なのに和智兄さんの声すら聞こえない。ならやっぱり・・・)
「冬華?」
「・・・姐さん、葬儀の日は兄さんの顔を見ましたか?」
「え?あの日は私もショックでよく覚えていませんが、棺を見ましたよ、ちゃんと。顔は・・・見て、いません」
「やっぱり・・・・・《汝からが主・冬の華が命ずる・虹司りし八人の姫よ・我が前に来たれ》!」

聞くべきものを聞き確信した冬華は魔術の詠唱を行う。契約している者を呼び出す召喚魔術だ。
そしてその声に応じたのはーーーーーー


「「「「「「「お呼びでしょうか、主様」」」」」」」
「よく来た。すぐ上にいるのは分かっていたが、これの方が早かったからな。呼んだのは他でもない、和智兄さんの事だ。今すぐ母さんと父さんと連携して事故の日の事を詳しく調べろ。確証付いた物しか信用せず、デマだと思う物は報告しなくていい。確信持って言える事だけ俺に報告しろ。・・・・分かったな?」
「「「「「「「かしこまりました」」」」」」」
「よし・・・仁美、お前が指揮をとれ。けど此処の仕事を開けるわけにもいかないから、少しずつでいい。母さん達には今すぐ報告して手伝ってもらえ」
「承知しました。必ず真実を暴いてご覧にいれましょう」
「頼む。祈の姐さんの為にもな。じゃあ行け」
「はい、失礼します」

仁美含むホムンクルスの7人はその場で消える。恐らく上の階に転移したのだろう。情報はあの七人と冬華の両親に任せておけば大丈夫だろう。

「・・・姐さん。まだ確証があるわけではないので別に知りたくなければ・・・」
「何を言っているんですか」
「え?」
「貴方はあの人の弟子で兄様と義姉様の息子です。信じない理由はありません。私も手伝います。兄様には私から伝えますので心配しないでください」
「分かりました、頼みます。・・・でも、日向にこの件は伝えますか?」
「・・・いいえ、伝えない方がいいでしょう。あの子には出来るだけ抱えて欲しくないから」
「だからって貴方が全て抱える事はないでしょう。父さんも母さんもいるし、仁美達もいる。・・・・俺もいますから」
「はい、ありがとうございます」

祈の瞳には涙はあれど、その涙が頬に落ちる事はなかった。星川家の人間たる者、泣いてたまるかという意思表示だとも思った。
手首の傷を治療し、そのまま帰ろうかとも思ったのだが祈の計らいで今日は家に泊まっていけと言われたのでお言葉に甘えて、祈、日向、そして仁美達八人とも食事を共にしてその日は空いている部屋に泊まらせてもらった。
しかし、その日は中々寝付けなかった。もしも、和智兄さんの事が本当だとするならば、今何処で誰が何を和智にしているのかと想像してしまうと寝るに寝れなかった。

次の日、帰る前に雪弓から連絡があり、和智の事件の件は了承し、魔術士協会にも掛け合ってくれるそうだと言ってくれた。
一先ずは安堵して祈の邸宅を後にし自分の家へと帰りその日1日はのんびりと寝て過ごした。








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