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第一章

47 花の魔女と妖精様・2

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冬華がエリカといると気まずくなって買い物を勝手出て、外へと出ている間、二人留守番しているエリカとローズは二人でソファに並んで紅茶を飲んでいた。
因みに冬華の家には紅茶はないのでエリカの家から態々持ってきたものだ。
それもこれもローズが、「私はコーヒーよりも紅茶派だ」なんて事を言ったからだ。
エリカは一瞬戸惑ったものの、家から紅茶を取ってきて、ローズに振舞っている。

流石のエリカも、有名人であるローズと二人きりは気まずいのか、心なしか緊張しているようだった。
対してローズはエリカの入れた紅茶をちょくちょく啜りながら「美味い美味い」と口にしながら飲んでいる。

(・・・紅茶の味がしない)

元来、紅茶は味というよりも匂いの方が強いので、今のエリカには匂いも味も感じない程度には緊張している。
相手はかの有名なローズだ。雑誌はおろか、テレビでだって見た事のある謎多き女性だ。
更に、エリカと冬華の通う学校の学園長とも知り合いと聞く。
そんな人と、何故冬華は知り合いなのかはたまた疑問だ。

視線に気づいたのか紅茶を飲んでいたローズと目が合う。

「どうかしたかい?」
「いえ・・・」
「ふむ・・・・エリカちゃん、冬華が帰ってくるまで多分かなりの時間がある。お互いに話さないかい?冬華の事を」
「え?」
「この間まで私は世界をふらふら旅をしていてね。正直冬華の事は雪弓からしか聞いてなかったし、直接見てなかったから、どうなのかなって思ってな」
「成程・・・・・私でよければ教えますよ。と言っても一ヶ月と少しの付き合いなので知りたい事はあまりないかと思いますが」
「いやいいんだ。私はあいつの話を聞けるだけで十分さ」
「分かりました。じゃあまずは、私と冬華くんが初めて会話をした日ですね」


・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・。


「・・・私が話せるのはこんな所ですね。どうですか?大したお話ではなかったかと思うのですが」


エリカは30分以上かけて、冬華の出会いから今までの事を話した。その間ローズは黙ってエリカの話を聞いていた。
なんて珍しい事もあるものだ。
一ヶ月と少しの冬華とエリカの二人の生活は濃いものではないが薄いとも言えないが、それなりに楽しかったとエリカは思っている。
しかし、自分の性格をよく分かっているので、冬華からは良く可愛げがないと言われているのは慣れている。
自分でも自覚はしているし、よくも知りもしない男の人を近づけたくはないというのが本心だ。
けど、冬華はよく知らないわけでもないし、こんな可愛げがない自分にも優しくしてくれている。
しかも少なからず冬華にも迷惑をかけている。(本人は迷惑とは思っていない)


「いやいや十分さ。君と冬華が実に焦った・・いや、面白い生活をしているってのは分かった。あいつがこうも特定の相手を大事にするなんて珍しい・・・久しぶりだな」
「え?」
「んやんや。改めてありがとなエリカちゃん。多分君と出会ってなかったら今頃の垂れ死んでただろうな」
「そんな事は・・・・ありますね」
「はははっ!なんとも正直に胸の内を出す子だな!冬華と上手くやっているだけはあるな」
「合っているんですか?多分冬華くんも似たような事を思ってますよ。凹凸が合わないって」
「そうかもしれんが、最近では違ってきてるんじゃないかな?・・・エリカちゃんもそうじゃないかい?」
「私は・・・」
「それとも君は別の感情かもね?」
「?別の感情?」
「おや、とっくに気づいているもんだと思っていたが、意外と遅いようだ」
「えっと・・・」

エリカはローズの言っている事が理解できず、戸惑う。
その様子がおかしいのか、ローズは声には出さず笑いを堪えている。

「まぁ今はいいさ。それにしてももう君がやってる事は世間からしてみれば【通い妻】だよ」
「かっ、通い妻・・・」
「おや?意識していなかったのか?」
「・・・・・してません」

全く意識していなかった事を言われて、思わず照れてしまうエリカを見てローズは思う。「よくこれで気づかないものだ。冬華のやつも」とぼやく。
エリカは気づかず、赤い顔をおさえて悶絶している。
相当堪えているようだ。

「まぁ私の解釈だ。あまり気にしないでおきなさい。でも君のお陰であいつは少しまともな生活をするようになったんだろ?」
「はいまぁ、偶にサボっている時はありますけど、私が一言言うとしますし、料理や掃除、洗濯や買い物は分担してますけど、冬華くんが殆どやる日がありますね。買い物に至っては冬華くんが多く出してくれてます。本人はバレてないと思ってるんでしょうけどね」
「・・・・・」
「?・・・ローズさん?」
「ん?いやいやいやなんでもないよ、うん」
「?」
(これもう熟年夫婦のレベルだろ。もはや運命レベルで何かを感じるわ。・・・・そういえば【アイツ】も、こんな感じだったな)

ローズの頭をよぎるアイツ・・・それは何年も前、人間が考えるには途方もないほど昔の事、かつて冬華の先祖が生きていた頃の事だ。
ローズは不老不死ではあるが、何かしら特殊な死がある時がある。この死は自分ではどうする事もできずに訪れるので回避方法はない。
そして死んだ魂は月日を経てまた別の体に生まれ変わる。
その時までの記憶は全て継承されており、忘れる事はない。

過去の事を全て覚えている彼女はまさしく生きる歴史博物館とも言える。

だからローズは思い返せるのだ。過去に自分ではない誰かがアイツの・・・側にいたことを。
そして王の人生の全てを。
(・・・・これも因果か)


「あの・・ローズさん?」
「・・・いや~それにしても、冬華の奴もこんな美人を捕まえるとは、エリカちゃんもいい買い物したな」
「え!?いきなりなんですか!」
「冬華はな、父親に似てかなりのイケメンだ。今は前髪とか下ろしてだらしないが、整えればそれなりにカッコ良くなる。そうは思わないか?」
「・・・・・思い、ますけど」
「だろ?だから少しくらいは洒落しろって言ってるんだが一向にする気配がない。私が口悪さく言ってもアイツは何も変わらん」
「あっ・・」
「どうかしたかい?」
「いえ、今口悪さくって言いましたよね?それ冬華くんも言ってたんです。一ヶ月ぶりに話した時に。その時言ってました。師匠の口癖が憑ったって」
「はは・・・参ったな。これは一本取られた」
「ふふっ。冬華くんとローズさんは本当に似てますね。師匠さんと弟子なら当然でしょうけど」
「・・・師匠としては嬉しい言葉だよ。私は冬華が帰ってきたら帰るよ。こっちに戻ってきたから、色々と手続きがあるんだ」
「そう、なんですね。冬華くんとはゆっくり話して行かないんですか?」
「・・・・いや、気が変わった。話してから帰るよ。アイツの部屋でな」
「・・・はい。是非そうしてください」

エリカは冬華と話すと言ったローズに優しく笑って答える。
ローズはその笑顔が、どうしても昔自分ではない誰かが会ったことのある人物と重なる。
遠い記憶にある彼女と、今のエリカの笑顔は全く一緒でずっと見ていたいと思えるほど美しく、そして可愛げのある素敵な笑顔だった。

と、ローズがいつか書いた日記にはそう記されていた。












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