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悔恨編
2.
しおりを挟むぱちゅん、ぱちゅんと湿った皮膚がぶつかり合う音がする。
荒い鼻息とくぐもった嬌声。
片方は目を見張るほどの美貌を持った青年。対してその青年の孔を穿つのは家畜のように肥太った獣。
もう何度もこの豚に身体を暴かれ弱いところなどとうにバレている。貴族であるが故に女には困らぬはずのこの豚は相も変わらず男の俺を定期的に買う。
そしてそれを研究と称して普通の人間には出来ぬ欲望をこの俺に吐き出すのだ。
それがこの男に買われたくない一番の理由だった。
「じゃ、今日は右腕だ。ほら我に差し出せ」
「……ん、いやだよ…痛い」
ゆっくりと後孔から異物が抜け出す。
そして片手に斧を持った豚は俺の右腕を求める。
「まだそんなことを……ほんとにお前は可愛いなぁ…そんなお前が大好きだよ、愛してる」
脂ぎった顔が近づき舌を絡ませ唾液を交換する。キスは好きだ。キスは愛の証明だから。
「……ほんと?かわいい?俺のことすき?」
「ああ、かわいいミルネスが大好きだよ。でも右腕を差し出してくれない悪い子は嫌いになるかもなぁ」
ニヤリ、と口端を吊り上げ放った言葉に肝が冷える。ありえないと分かっていても、こんな豚に、とは思ってもそれはダメなのだ。
俺は愛されるべき存在でないと。
「いや!やだ!ミーネの腕あげる!!だから愛して!!嫌わないで!!お願い!!」
半狂乱になり、涙を滲ませながら俺は必死に右腕を差し出す。愉快そうな顔をする豚を疎ましく思う気持ちより愛されない欲が勝る。
「んー?でも嫌なんだろ?痛いのは。我は痛みを快感だと捉える子が好きだからなぁ。ミーネは嫌なんだろう?」
「そんなことない!ミーネ痛いの好きだよ!!嫌いじゃない!」
「でもそれじゃあ言わせた見たいだしなぁ…」
「……っど、どうしたら愛してくれるの?ミーネの腕も脚もどれでもいい!いいから!!」
「そこまで言うなら仕方ないなぁ。じゃあ両腕な?」
「うん!うん!あげるから……」
狂っている。
そんなのは自分でもわかっている。頭がおかしいのも愚かなのも全部自分が一番分かっている。
けれどダメなんだ。愛してくれる存在がないと耐えられない。
その点で言えばここは楽園だった。あの女が言ったようにみんなが俺を愛してくれる。かわいい、すき、愛してる、多くの言葉をくれるし物を与えてくれる人もいる。みんな俺を愛してくれる。
『私は貴方が失墜して哀れに惨めに無様に愚かしくこの世の底辺で生きていく姿がみたいの!ここまでお世話してあげたんだから恩返しとして無様な姿を私に見せてね?』
ちがう。俺は哀れじゃない。惨めじゃない。ここは楽園だ。底辺なはずがないだろ。
やめろ、出てくるな。お前はもう忘れる。忘れた。
「じゃあミーネいくよー?」
掴まれた右腕に振りかぶられた斧が打ち付けられる。
「──あ゙あ゙あ゙あ゙っ!!?が、ぁ……!!」
意識が飛ぶ。すぐに痛みで覚醒する。
次の瞬間もう片方の腕にも斧が打ち付けられた。痛みよりも熱が。熱よりも痛みが。何がなんだか分からぬ間に両腕が屠られる。
「ぁ゙あ゙っはっ、ぐぁ…!!?あ゙あ゙ぁ゙……!?」
「ああ!最高だよミーネ!!……ただすぐに再生してしまうのが残念だ。」
涙やら鼻水やらでぐしゃぐしゃになった顔を撫でられる。
「かわいいよ。本当にお前は可愛いよ。愛おしいミーネ。ふふ、ここも喜んでいるじゃないか。お前もやっぱり俺が好きなんだな?」
命の危機を感じ本能で勃ちあがった陰茎を指で弾かれる。
「ゔん゙、ずきぃ…みーねもすきぃ……すきな゙の゙……」
なんとか返事をする。腕が再生されたとて痛みと熱は消えない。
そして光の御子は傷が再生されない代わりに痛みが常人の約2倍だと分かった。
人は怪我しても死なないし、病気にもならないんだから良いじゃないかと言うけれど俺は嫌だ。人が死ぬ怪我でもその倍痛みを感じながら死ねない。意識すら失えない。正に生き地獄。
「じゃあもう一戦しようか。ミーネもやる気みたいだし。いっぱい愛してあげるね」
「……うん…愛して……ねぇちゅうして……」
「ふふ、ミーネはキスが好きだね。」
そうして再び男が割開かれた脚の間にその巨体を押し込む。
キスは愛の証明なんだ。好きで当たり前だろ。
そこまで考えてはた、と思う。
あれ、これは誰の言葉なんだっけ。
その疑問はいまだ残る痛みと与えられる快感の中に消えていった。
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