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悔恨編
13. 情報屋side
しおりを挟む今日はとても気分がいい。
つい普段は気をつけてしないようにしている鼻歌を歌ってしまうほどに。
「なんだ?その変な音楽。新しい王都の流行りか?」
「あぁ、気にしないで。王都のサーカス軍団の音楽が耳についたんだと思うわ」
この世界の音楽はクラシックばかりであの世界似合ったようなロックやポップな曲はないからなんだか物足りない。私が大好きだったボカロは当然あるはずもない。だから今みたいについ口ずさんだりしてしまうとこの世界の人にはおかしな音に聞こえるらしい。
この差異にどれだけ初め苦労したことか。
まぁ、今はそれはどうでもいい。
とりあえずシルヴィアとロイが面白いほど私の思い通りに拗れていっている。
ひとつ予想外だったのはエルザがあいつらの元に戻ったことだが。
ユリは予想通り妹の冷たくなった死体をみて発狂しながら自殺したというのに。エルザはあいつらの所に行ってしまった。
念の為多くの情報を流さなかったのは正解だったとあの時は自分の判断を褒めた。
エルザとユリはよく働いてくれた。
エルザは若干命令違反を起こそうとしていたけれど。それに最後まで私の命令に従わなかった。
『シルヴィアの心臓を刺せ。』
ユリでも良かったが残念なことにユリは先端恐怖症で刃物を見ると震えてしまう。
私はもちろん足をつけたくないので却下。
光の御子と言えども心臓か脳を直接刺せば死ぬと思うのだが結局試せなかった。
エルザが何度言っても頑としてシルヴィアに手を下そうとしなかったせいだ。
エルザはもともとシルヴィアを売ることすら嫌がっていた。弟の病気の特効薬をやるって言ってるのに頷かなかったのには驚いた。実弟よりも主人を取るのか、と。だが弟の主治医を失踪させ弟の常備薬すら買えなくなってようやく渋々私に従うようになった。
ああいう人情型は鬱陶しいから清々したわ。
未だにロイはシルヴィアを見つけられてないらしい。まぁ私が態と情報が伝わらないようにしたり嘘を教えたりしたして捜査を難航させていたのだけど。
シルヴィアはシルヴィアでちゃんと淫乱に育ったらしい。私が何度もすり込んたので自分が愛されるべき存在という言葉に自らの価値を求めている。
心からシルヴィアを愛するロイと愛を知らない愛に飢えたシルヴィアは互いを思いながら決してその思いは交差しない。
ここまで上手くいくものなのか?
それともここが乙女ゲームの中だからか?
日本という国のとある一都市で生まれた私は遊びなんて知らない真面目な人間だった。
勉強だけをして過ごし、けれど人と関わることも嫌いではなかったため委員長として皆から支持されていたと思うし生徒会長なんかもしていた。
そんな私が乙女ゲームを始めた理由はいじめだった。
まぁ今どきいじめなんて珍しいものでもない。私は転入生の可愛いそれこそ何かのヒロインのような子に嵌められたのがきっかけだった。
頭に自信がありながら2位しか取れなかったことにムカついたあの阿婆擦れは私が不正をしていると噂を流しさらに私の机からノートを勝手に持ち出し私の字をコピーしてカンニングペーパーを作り上げた。
すると昨日まで私に笑いかけてくれていた人達は侮蔑の眼差しを。信頼してくれていた先生達は失望の眼差しを。両親からは怒りの拳を。
私は意味がわからなかった。
何故私の言い分を聞かないままあの女の噂だけを信じるのか。なんで関係ない人達まで私にゴミを投げつけるのか。なんで私の自慢だった黒髪を乱雑に切られるのか。
だけど1人だけ私を信じてくれた子がいた。
その子はこっそり一緒にお昼ご飯を食べてくれて怪我の手当もしてくれた。
クラスで嫌われている女の子。
テンションが高すぎてキモイ、とよくわからない理由で嫌われている彼女は暖かかった。
私は彼女が好きだという乙女ゲームをやってみることにした。
そしてある一人のキャラが頭から離れなくなった。
シルヴィア=クリス=ミスタ=ベルヴァニスタ
その可哀想で惨めな出自とそれを隠す気丈なプライドの高い性格。
惜しい、と思った。もっと惨めになってよ。救われないほどの暗澹たる闇に身を堕としてよ。
私みたいに汚されてよ。
だから私はシルヴィア様に執着する。
あんなに美しい方が惨めで哀れだったらあの世界で汚されて自殺した私も救われるから。
私だけが汚いんじゃない。汚されてもこんなに美しいって思いたいから。
私の我儘に付き合わせてごめんなさいね?
でも文句なら一善良な市民だった私にこんな腐った思考を持たせたあいつらに言ってね?
ロイ様への怨みをもっと募らせて、修復不可能なくらい拗らせてよ。
ちゃんと最期まで見続けてあげるから。
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