牢獄の王族

夜瑠

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悔恨編

37. ロイside

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が生まれてから半年と少しが過ぎた。産まれた時よりすくすく大きくなって今では短時間ならお座りが出来るようになっていた。


しかしそんな小さな生命はとても身体が弱いようだった。今の時点では将来どうなるか、これから身体が強くなるのかどうか、などは判断出来ないそうだがこの年頃の平均よりも身体を崩すことが多いらしい。


それでも愛らしい笑顔を向けてくれる稚児をまるで我が子のように思う。
 
アルは当初の約束通りユルハが産まれて半年経ったあと少しゴネていたが流石にこれ以上休めないことも理解していたのだろう、元の職務に戻り励んでいる。


「この書類で最後です。」

「了解。」


執務室の窓から檄を飛ばすアルの姿を眺めていた俺は意識を書類へ戻した。

目の前には未だ不機嫌そうなビルドがいた。

数日前から不機嫌な様子を隠そうともしないこの文官に苦笑する。一応君の主で一国の王なんだが…


「……よし、書類完成」

「……お疲れ様でした。」

「そろそろ機嫌直しなよ」

「ロイ様が黙って手続きなんかしなければ私はこんなに機嫌を損ねていませんよ」

「だってお前いつまで経っても捜索に行かせてくれないだろ?」

「………………」

「少しは否定しろよ」


アルが騎士団に戻った頃、もう一度こいつにフーレ子爵領の視察に行きたいと願いでたが考えることもなく即答で却下された。

そしてまた王妃を決めてからにしろ、と言ってうら若い荒事なんて知らない蝶よ花よと育てられた乙女ばかりを紹介してきた。


このままじゃ堂々巡りだと気づいた俺はビルドが仕事で外に出ている時を狙い下級文官を買収してフーレ子爵に勝手に視察に行くことを伝えたのだ。

いくら国王と子爵という間柄とはいえこちらから一方的に決めた約束を違うのは大変な無礼にあたる。ただでさえ仲が良くないフーレ子爵とこれ以上仲を拗らせるとそれこそ反乱の餌にされかねないので一度言ってしまった以上取り消せなくなってしまったのだ。

帰ってきてその事に気づいたビルドは下級文官を徹底的にしばき倒した説教したあと憎々しげに俺のことを睨みあからさまに多い量の仕事を回してきた。

どれだけ多くの仕事があろうがシルヴィアを探しに行けるなら苦ではない。


「…………ついに明日…探しにいける」

「……見つからないかもしれませんよ」

「……そうかもなぁ…まぁそれならまた2回目探しに行けば良いさ」

「……はぁ、今度は見合いとか言わないので部下の買収とかやめてくださいね」

「分かってるよ」

俺たちは互いに苦笑を漏らした。
王が部下を買収した、なんて前代未聞なスキャンダルが問題にならないはずがない。

すでにメイドたちの噂の餌食になっている。

メイドたちの噂といえばビルドと俺が恋仲だというあられもない噂がたっていた。いくら見目がいいとはいえど俺は男色ではないし口うるさい恋人は嫌だ。

ビルドもその噂を聞いたらしく数日前にとてつもなく不機嫌な日があった。俺も被害者のはずなのに八つ当たりされたのは未だに納得いかない。



「……見つけて…その後どうするおつもりで?」

「この城で一緒に住む」

「正気ですか?自ら対立因子を誘い込むなんて。」


考えられない、と言いたげに眉を顰めたビルドを少し睨む。


「シルヴィアは誘拐されて何もわからないまま男たちの慰めモノにされてたんだぞ?手厚く保護してやるべきだ」

ビルドは呆れたように息を吐いた。その仕草にこめかみが引きつったのを感じた。

「人間はそこまで弱くありませんよ。まして光の御子は頭が良いと書にあります。人と関わる中で状況把握はできてるはずです」

「あの子はまだ何も分からない幼子だったんだ。今までの光の御子が頭が良かったとしてもそれは勉強したからだろ?」

「光の御子は女神からの寵愛のひとつとして賢い頭脳を賜るのです。地頭が良いんですよ。」

「だから光の御子である前にあの子はシルヴィアという子供だ。」

「逆です。シルヴィアという個人である前に光の御子なのです。」


互いに引く気のないなんの意味も成さない口論が続けられる。

シルヴィアのことを知らないはずなのに全てを知っているとでも言いたげな態度に腹が立つ。

お前に何がわかる。あの子の優しさも愛らしさも悲惨な人生も知らないくせに。

声を荒らげて怒鳴りこそしないが今すぐにでも机を叩いてビルドを部屋から追い出したい。


「……まぁここでいくら言い合っても仕方ないですね。本人を見つければわかる話ですし」

「ああ、そうだな…早く見つけるとするよ」


来た時よりも更に不機嫌になってビルドは部屋から出ていった。

それを望んだはずなのに静かになった部屋は酷く寂しく感じた。

シルヴィア、はやく会いたい。
早く抱きしめさせてくれ。その存在を確かめさせてくれ。


そう願い俺はまた城下の様子を窓から覗いた。







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