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悔恨編
43. ロイside
しおりを挟むフーレ子爵領に来て四日目。
ようやく今日街に向かう。全てのこの領地でも仕事はこの3日のうちに終わらせておいたので今日を入れた残り四日間は自由に過ごせる。
子爵邸は貴族の屋敷としては珍しく街から離れたところにある。なんでも屋敷を立てた当初は街との間は無かったが昔起きた魔獣の被害で子爵邸と街との間で争いが起こりその時崩れてしまった店などを当時貧乏だった子爵領では直すことも出来ずそのままになっているらしい。削って形を整えた分綺麗だがこれが戦禍の跡だと聞くと少し複雑だ。
「じゃあもう一度確認しておく。」
俺は騎士や文官、つまり今回連れてきた全ての人の前で話す。
隣にいるアルは暇そうにしているのでいまいち締まらないが皆近衛騎士団長とは違って真面目に聞いてくれて助かる。
「名前はシルヴィアかミルネス。歳は俺と同じ20歳か21歳だが見た目に騙されないように。身長は低めだと思われる。」
皆が事前に通達しておいた情報との齟齬がないか手帳を見ながら確認する。
「そして最も確実な判断方法は雪のような真白い髪と濡鴉のような黒目に浮かぶ紅の魔法陣だ。」
手帳を見ながら皆がうんうんと、頷く。全員不足なく情報を書き留められたのだろう。
「……改めて俺の人探しという愚かな旅についてきてくれてありがとう。今回で見つけられるようお互い尽力しよう。」
今回で、と言った時にアルがすごい勢いでこちらを向いた。見なくてもわかる。次もあんのかよ、っていう顔だ。
「それじゃあ皆、捜索を始めてくれ」
「「はっ!」」
一斉に四方に人が去り俺の前には4人しか残らなかった。アル、ビルド、護衛2人。
護衛以外は二人とも面倒くさそうな顔をしている。
「俺達もいこう」
まずはやはり目撃情報のあった甘味処だろう。
そこを目指して街を歩く。
街は一介の子爵領というには富みすぎていた。シルヴィアの加護がこの街にもかかっているのではないかと思う。
貧しいものがとても少ない。孤児が見当たらない。ここはとてもいい街だ。
そんなことを考えながら歩いていると甘味処と書かれたとても大きな建物に着いた。
扉を開けると一斉に砂糖やら蜂蜜やらの甘い香りが俺たちを襲う。
俺たちはつい顔を見合わせた。
「ここめっちゃ繁盛してますよ」
「だろうな」
「俺甘いの嫌いなんだけど」
経費で払うとか痛いなぁ、と続けるビルドに嫌そうに顔を顰めるアル。確かにアルには地獄の空間かもしれない。苦いものが嫌いだけど別に甘いものも好きじゃないという面倒くさそうな好みの持ち主だ。
「いらっしゃませ!五名様ですね、お好きな席へどうぞ!」
元気の良い気持ちの良い笑顔に迎えられ俺たちはとりあえず人の多そうな席に座った。
席に座り注文を取ると早速聞き込みだ。
隣りに座っている常連のような女性に声を掛けた。
「すいません、少しいいですか?」
「……なんだい?」
「ここに妖精が出るって聞いたんですけど本当ですか?」
俺がそう聞くと女性はパチリ、と目を多く瞬かせたあと可笑しそうに笑った。
「あはは!妖精だなんて兄ちゃん信じてんのかい?面白いねぇ」
「あ、ははは」
常連なら知っていると思ったが意外と知られていないのか?それともこの女性は常連じゃないのか?
「すまないねぇ、あたしも初めてこの店に来たんだよ。確かにこの街の出身なんだけど商人として旅に出てたからね」
「そうなんですか。突然変なことを聞いてしまってすいません」
それであんなに堂々としてたのかと合点がいくと同時に少し恥ずかしい。そりゃ知らない人に聞けば笑わられるだろうなと。
「なぁ、服屋の奥さん!」
「んー?どうしたんだい大きな声出して」
女性は身を乗り出して奥の席に座っていた女性に声をかけた。どうやら知り合いらしい。
「この兄ちゃんがこの店に妖精がいるのかだってさ!」
「あー、あんた妖精さんの話を聞いて来ちゃった人かい。」
「え、ええ。やはりいるのですか?」
女性はとても残念そうな顔をした。
「それが冬に入る頃からパタリと来なくなっちまったんだよ。」
「え……」
「でも幸運は続いてるみたいだからきっとあの時期だけしか来れなかったんだろうっていう私たちの判断なんだけど」
「そうなんですか……」
折角掴んだ情報はひと足遅かった。
つい隣のビルドを睨む。だから早く行かせてくれと頼んだのに、と。
ビルドは肩を竦めてコーヒーを飲むだけだった。
また、一から情報探し。
四日で本当に見つかるのか?
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