牢獄の王族

夜瑠

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悔恨編

46.

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意外にも家に篭って生活するのも悪くは無い。

もともと一時期偶に街に甘味を食べに行っていた以外用事は無かったので別段変わりはない。

まぁ洗濯物が干しにくい、くらいが問題か。まぁ3人分の洗濯物なんてたかがしれた量だ。おまけに子爵が家の真裏に井戸を掘ってくれていたので洗濯物のために外に出ることも無い。


見つかると危ないので、と家事も全て主にヒルハ、無理やり手伝わさせられてるアレクシスがやってくれてるのでただ小さな窓から景色を眺めている。


「ユルハ様ーお部屋の掃除してもよろしいですか?」

「んー?……暇だし自分でやるよ」

「だめです!主が掃除などしていてはなりません!どっしり構えてないと!」

「いや、構えるって言っても……」


家から出ないし見栄を張る相手なんていないんだが。

それでも頑固なヒルハがこういう主従関係に関することで折れる訳が無いことを短くない付き合いの中で知っているので大人しく口を噤む。


「仕方ないアレクシスとお話でもしてるか」

「あ、アレクシスはさっき肉を狩りに行っていないんです」

「あぁそう肉を……え?肉を狩りに?え、は?」


掃除道具の準備をするヒルハの背に独り言ちれば理解できない返事が返ってきた。

肉を狩りに行っていない。


狩りとは。肉を求めて狩りに行く。


あいつはなんで俺達がこの家に隠れているか分かってないのだろうか。何故自ら外に向かったのか。


「いや何言ってんの!?俺たち隠れてんだよ!?バレちゃいけないの!なのになんで肉を狩りに行った!?」

「アレクシスが連日肉を所望するせいで肉料理ばかりになり始めの計算より大分早く肉の備蓄が無くなってしまったので自給自足に切り替えようと…」

「肉もう無くなったの!?あれ一ヶ月ちょっとの分で計算されてたよ!?まだ1週間すら経ってないんだよ!?早すぎない!?」

「胃袋が思ったより化け物でした。…不覚にも私もあいつの胃袋にどれほど入るのか挑戦したくなり……!!」

「いや何に悔しがってんの!?君が悔いるべきはその誘惑に負けたところじゃないからね!?肉料理ばかり作っちゃったところからだから!」


計算は完璧に習熟してるし見世では計帳を書いてるところも見かけた所があるほど学はある。ヒルハはとても頭が良い。そのはずだ。

だがそれと同時に俺は知っている。

こいつが時折とんでもなく阿呆であるとも。

好奇心に少しでも引っかかればうずうずし始め我慢出来ない性質の単細胞になる瞬間が偶にある。その引き金がなんであるか全く予想できないが運の悪いことに今回はその好奇心に引っかかってしまったらしい。


「大丈夫です。もし見つかっても奴も馬鹿ではないので此処に人を近づけることはしないでしょうし話すこともないでしょう。それにアレクシスは一応囚人なので何かあってもフーレ子爵の元へ丁重に送られます」

「そうだけど…そうなんだけどさ……!!」

アレクシスが探されているわけでも見つかってもあいつが俺たちの事を売るとも思ってない。それに貴族の家に囚われた囚人達は丁寧に扱わなければならない法があることも知っている。

たとえ人を何万人殺した殺人鬼だとしてもそいつが貴族の名の下で囚われている以上傷一つ付けることは許されない。


この法があればこそヒルハはアレクシスを外に出したのだろう。

そう分かっていても恐怖してしまう。もし引き連れて帰ってきたら。この小屋が見つかってしまった時は。そんなたらればばかりの法を真面目に守る奴は貴族の屋敷で十分な教育をされたものだけだ。

そこらの一般兵はそんな話しあったな、くらいの認識だろう。


「……まぁ行ってしまったもんは仕方ないか今更…何の肉を狩りに行ったの?」

「ボア系の肉を狙うと言ってました。」

「……危険種じゃねえか…」


つい遠い目をしてしまう。肉、で済ませられる相手じゃ無かろうに。民衆は会わないように避ける動物を自分から狩りに行くって……


そんな話をしていた時、家の裏側の方でドサッという音がした。

「帰ってきましたね。どうやら大物も仕留めたようです」

「……そうだな」


ヒルハがるんるんと玄関にアレクシスを出迎えに行く。

ギィィ…という音をたて扉が開く。

「…………は?」

「ただいま」


そう言った奴の背には少年がおぶられていた。

それもいつの日か見たことのある少年。

目が合うと少年は背で暴れだした。


「悪魔の家じゃんか!!やっぱり!!俺を食べる気だな!!」


なんで連れてきたんだアレクシス……!!

今俺たちは隠れているんだぞ…!!

そんな叫びは虚しくついに言葉には出来なかった。










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