牢獄の王族

夜瑠

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悔恨編

48. ロイside

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走り去って行ったクミネ少年の後を追う。

といっても帯刀した俺達が走ると住民に恐怖心を与えてしまう可能性が高いので早歩き程度のスピードだ。


とうの昔にクミネの姿は見えなくなったが森がなんとかと言ってたので森に向かったのだろう。


「ちょっとまて。」

不意にアルが制止の声をかけた。

一斉に足を止めた俺たちは眉を顰めアルを見た。


「定期報告の時間だ。近衛騎士団団長として一度対応しなければならない。」


そう言って取り出した手帳型の魔道具はピカピカと点滅していた。

定期報告送受信型魔道具。短い文を互いに登録した魔道具に送信することが出来る魔道具だ。

この急いでいる時に、と地団駄を踏みたくなるが確かに団長として必要な時間だ。追うのを一時中断し道の隅に固まる。

報告には見つかったやそれらしき人を見つけたなどの報告はゼロでほとんど成果ゼロという報告だった。


「……悪い完了した。森へ行くぞ」


数分後アルからの謝罪を合図にもう一度歩き始める。
案外森の近くまで来ていたらしい俺達はすぐに門まで着いた。


「なんだか人が多すぎませんか?」

「そうか?こんなもんじゃねぇの?」

「王都と一緒に考えたらダメですよ。ここは辺境なんですよ?領民の出入りは少ないはずです。」


ビルドの指摘で確かにと納得する。アルは未だに首を傾げているがこんな辺境の地から商人以外が門から出るなど滅多に無いはずだ。


「……なんか嫌な予感がするね」

「……ロイ様変な事言うのやめてくださいよ」



俺の言葉に盛大に顔を顰めたビルド。

その時一人の婦人と目が合った。婦人は顔を煌めかせて声を上げた。

「騎士様!!」

そして俺の言った言葉が的中したかのように門に殺到していた人達が一斉に振り返り俺達5人を取り囲む。

「え、え、ちょ、なに、怖いんですけど!?」
 
ビルドの叫びなど気にもしないように人の波はこちらに押し寄せる。

引き返そうにも後ろからも人が来ている。


「騎士様助けて!」

「また壁壊されちまうよ!」

「騎士様お強いんでしょ!」

「騎士様お願い!守って!」


同時に掛けられる声に聞き取ることは難しいがなんとか聞き取ることが出来たのは大抵そんな言葉だった。


「ちょ、わかったわかったから1回静かに…」

ピタ、となり止む領民の声。いっそ耳鳴りがしそうだ。
聞き分け良すぎるだろうと苦笑してしまう。


「一斉に喋られると状況を理解できないので誰か一人代表して教えてくれませんか?」


そう言うとそこかしこで推薦の声が上がる。少し経つと一人の青年が一歩前に出た。いや、前に押し出された。


ガタイの良いまだ成長期だと分かる酒屋の青年だ。

「あー、俺はリックスていうんだけど酒樽を配送し終えてクミネ、あー門の外に住んでる幼馴染みなんだけど、そいつのとこに食材を持っていこうと門の外に出たんだ。壁沿いに十歩ほど進んで遠くで何かが動いたのが見えたからクミネかと思って目を凝らしたら危険種指定された魔獣だったんだ。しかも1匹じゃねぇ俺が見えただけでも4匹はいた。だから急いで街に戻ってそれを知らせどうにか駆除しないと、でもどうやって?と考えてたときにあんた達が来てくれたんだ」


どうやら領民達にとって最高のタイミングで登場してしまったらしい。

これを断ることは流石に出来ないな、と思い了承する。

そしてあることに思い至る。

「ここらへんに何人か騎士がいませんでしたか?」

「それ!聞いてくださいよ!俺は初めその人達に頼んだ!それなのにあいつら嫌そうな顔して探してる人がいるから無理とか言って!俺達の命と人探しとかふざけてるだろ!」
 

憤りながら言う青年の言葉に周りの人達も鼻息荒く頷き愚痴っているのが聞こえてくる。

ちら、とアルを見ると自分の部下の失態にバツが悪そうにしている。俺も人探しを命じた分少しバツが悪い。


「危険種は何タイプでした?」

「遠かったから確実ではないけど……多分ボア系だと思う。」

「ボア系か…」


頭で戦い方を考える。4人でどれほど戦えるだろう。護衛の2人は使い物になるレベルなのか。俺はビルドに止められるだろうか。いろいろなパターンを想定したが結果はいつも同じだ。


「よし、じゃあ早速行ってきますね。肉は持ち帰りましょうか?骨や皮も素材になりますし」

「出来ればでいいけど…無理そうだったら帰ってきてもいいからな…?」

不安そうにしているリックスの頭をぽんと叩き目を合わせて微笑む。

「大丈夫。俺達意外と強いんだから。」

 「行くぞロイ」

「ああ」

アルの声に4人は進む。ビルドはここに残るようだ。


何度いろんなパターンを想定しても結果は同じだ。


アルがいれば危険種なんぞに負けることは無い。

信頼している相棒の背を頼もしく見つめた。








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