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会遇編
4.
しおりを挟む約一週間の旅は漸く終わりを迎えた。
二日目で早くも限界を訴えていた尻は何度も治療魔法をかけてもらってなんとかなった。
それよりも子爵とセックスしたときの腰が辛かったが。
当初はなんとか我慢する予定だったが一週間も経たないうちにストレスもあったのだろうがイライラしてミルネスだった頃のように癇癪を起こし始めたので急遽子爵と閨に入った。
クミネはそんな俺の様子を心配そうに見ていたがヒルハから事情を聞いたのか俺には何も聞いてこなかった。
「……うおぉ…!!でけぇ!門がうちの領地の何倍もある!!」
「あんまり身を乗り出すと危ないですよ」
「わかった!!…すげぇ…ユルハ見えるか!?すげぇぞ!!」
「見えた見えた…でけえな」
王都の門はこんなにデカかったのか。
王都で暮らしていた年月の方が圧倒的に長いというのに俺は王都のことを全く知らない。恐らくクミネの方がよく知っているだろう。
意識して王都の情報は求めなかったし別段必要性も感じなかった。
王都でちゃんと暮らしたと言えるのはひと月にも満たない期間だろう。
まるで牢獄のような高さの壁にずっと外を知らなかった俺はまるで家畜のようだなと自嘲する。
いやそれはいまもさして変わらないか。
交尾を求め養って貰い続ける家畜。なんの仕事もせずに。
「門番と話してくるから絶対顔出すなよユルハ」
「うんわかった」
クミネが覗いていた窓からひょこっと子爵が顔を出す。
王都の人はやっぱ俺のことを知っているのかと思うと憂鬱だ。
一応馬車の椅子の下の収納スペースに入る。普通の人なら入れない広さだし普通の馬車にはないらしい。子爵がわざわざ作ったそうだ。
クミネははしゃいで外を覗いているらしいがちゃんと実況もしてくれる。
「……でけぇ門だな。…あ、子爵と門番こっちくる。」
そのクミネの言葉通り数秒後に聞き覚えの無い声がした。
「……確かに2人か」
「何回も言っただろうが。遠縁の子とその従事させてる子だって。」
「だがその従者には貴族の血が入っているようだが。」
「そんなの俺に限ったことじゃないだろ?気になってね、半貴族では魔法が使えるのか純貴族とは何が違うのか。いいかそもそも貴族の血と言うものはな……」
「あーはいはいはいどうぞお通りください」
「え、まだ話し始め……」
本気で落ち込んだ子爵の声が聞こえてくる。つい笑ってしまいそうだ。
ただ少しでも物音を立てないように気をつける。
また何か数言喋っている声が聞こえてきて直ぐにどこかにいった。
「……念の為宿まで出るなよ」
「……わかった」
王都に特に思い出も楽しみなことも無いのでそこまで悲しくはない。
ひとつ残念なのはキャーキャー騒ぐクミネの様子を耳でしか感じられないことだろうか。
ゆっくりと馬車が走りはじめる。ここは揺れがダイレクトに来るので先程から全身を強打している。出来れば今後乗りたくないと思った。
身体をぶつける音に紛れて遠くの方でクミネのはしゃぐ声が聞こえる。
断片的すぎて何にはしゃいでいるのか分からないが楽しんでいるなら良かった。出来れば一緒に街並みを見たかったがこればかりは仕方ない。
しばらく全身を強打されたあとゆっくりと馬車が止まった。
「ユルハ様着きましたよ。すぐに出しますので!」
「ゆっくりでいいぞ~」
俺の声などガン無視で直後に俺の入っていた場所に光が指す。眩しさに目を細めるとヒルハが俺の手を引いて外へと導いてくれる。
「ありがとう」
「いえユルハ様をこんな所に入れるなんて…耐えられません……」
本気で辛そうな顔でヒルハが言うから俺も釣られて笑ってしまう。
クミネは既に外に行ってアレクシスと街並みを眺めてはしゃいでいる。
ただ家と宿が建ち並んでいるだけだが楽しいらしい。可愛らしい。
「……申し訳ありませんがこちらを被って頂かなければなりません」
悲痛な表情でヒルハはすっかり見慣れたフード付きコートを手渡してきた。
俺は特に気にはしないがヒルハはこれを着ることを良しとはしていないらしい。
「……これはまぁ、仕方ないしな。普通の貴族の子息もお忍びの時だって着るんだから俺なんて以ての外だろ。」
「……ですが…こんな……」
「ユルハーヒルハー早く降りてこいよ、厩にこいつら連れてけねぇ」
子爵の呑気な声につい2人で顔を見合わせて笑ってしまう。
「ごめんごめん」
「今おります」
フードを深く被って馬車から降りる。
数年ぶりの王都は足元しか見えなかった。
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