牢獄の王族

夜瑠

文字の大きさ
84 / 136
会遇編

4.

しおりを挟む




約一週間の旅は漸く終わりを迎えた。

二日目で早くも限界を訴えていた尻は何度も治療魔法をかけてもらってなんとかなった。

それよりも子爵とセックスしたときの腰が辛かったが。

当初はなんとか我慢する予定だったが一週間も経たないうちにストレスもあったのだろうがイライラしてミルネスだった頃のように癇癪を起こし始めたので急遽子爵と閨に入った。

クミネはそんな俺の様子を心配そうに見ていたがヒルハから事情を聞いたのか俺には何も聞いてこなかった。


「……うおぉ…!!でけぇ!門がうちの領地の何倍もある!!」

「あんまり身を乗り出すと危ないですよ」

「わかった!!…すげぇ…ユルハ見えるか!?すげぇぞ!!」

「見えた見えた…でけえな」


王都の門はこんなにデカかったのか。

王都で暮らしていた年月の方が圧倒的に長いというのに俺は王都のことを全く知らない。恐らくクミネの方がよく知っているだろう。

意識して王都の情報は求めなかったし別段必要性も感じなかった。

王都でちゃんと暮らしたと言えるのはひと月にも満たない期間だろう。
まるで牢獄のような高さの壁にずっと外を知らなかった俺はまるで家畜のようだなと自嘲する。

いやそれはいまもさして変わらないか。

交尾を求め養って貰い続ける家畜。なんの仕事もせずに。


「門番と話してくるから絶対顔出すなよユルハ」

「うんわかった」

クミネが覗いていた窓からひょこっと子爵が顔を出す。
王都の人はやっぱ俺のことを知っているのかと思うと憂鬱だ。


一応馬車の椅子の下の収納スペースに入る。普通の人なら入れない広さだし普通の馬車にはないらしい。子爵がわざわざ作ったそうだ。


クミネははしゃいで外を覗いているらしいがちゃんと実況もしてくれる。

「……でけぇ門だな。…あ、子爵と門番こっちくる。」

そのクミネの言葉通り数秒後に聞き覚えの無い声がした。

「……確かに2人か」

「何回も言っただろうが。遠縁の子とその従事させてる子だって。」

「だがその従者には貴族の血が入っているようだが。」

「そんなの俺に限ったことじゃないだろ?気になってね、半貴族では魔法が使えるのか純貴族とは何が違うのか。いいかそもそも貴族の血と言うものはな……」

「あーはいはいはいどうぞお通りください」

「え、まだ話し始め……」

本気で落ち込んだ子爵の声が聞こえてくる。つい笑ってしまいそうだ。

ただ少しでも物音を立てないように気をつける。

また何か数言喋っている声が聞こえてきて直ぐにどこかにいった。
 

「……念の為宿まで出るなよ」

「……わかった」


王都に特に思い出も楽しみなことも無いのでそこまで悲しくはない。

ひとつ残念なのはキャーキャー騒ぐクミネの様子を耳でしか感じられないことだろうか。


ゆっくりと馬車が走りはじめる。ここは揺れがダイレクトに来るので先程から全身を強打している。出来れば今後乗りたくないと思った。

身体をぶつける音に紛れて遠くの方でクミネのはしゃぐ声が聞こえる。

断片的すぎて何にはしゃいでいるのか分からないが楽しんでいるなら良かった。出来れば一緒に街並みを見たかったがこればかりは仕方ない。


しばらく全身を強打されたあとゆっくりと馬車が止まった。

「ユルハ様着きましたよ。すぐに出しますので!」

「ゆっくりでいいぞ~」

俺の声などガン無視で直後に俺の入っていた場所に光が指す。眩しさに目を細めるとヒルハが俺の手を引いて外へと導いてくれる。

「ありがとう」

「いえユルハ様をこんな所に入れるなんて…耐えられません……」

本気で辛そうな顔でヒルハが言うから俺も釣られて笑ってしまう。

クミネは既に外に行ってアレクシスと街並みを眺めてはしゃいでいる。

ただ家と宿が建ち並んでいるだけだが楽しいらしい。可愛らしい。


「……申し訳ありませんがこちらを被って頂かなければなりません」


悲痛な表情でヒルハはすっかり見慣れたフード付きコートを手渡してきた。
俺は特に気にはしないがヒルハはこれを着ることを良しとはしていないらしい。


「……これはまぁ、仕方ないしな。普通の貴族の子息もお忍びの時だって着るんだから俺なんて以ての外だろ。」

「……ですが…こんな……」

「ユルハーヒルハー早く降りてこいよ、厩にこいつら連れてけねぇ」

子爵の呑気な声につい2人で顔を見合わせて笑ってしまう。

「ごめんごめん」

「今おります」

フードを深く被って馬車から降りる。

数年ぶりの王都は足元しか見えなかった。





しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

優秀な婚約者が去った後の世界

月樹《つき》
BL
公爵令嬢パトリシアは婚約者である王太子ラファエル様に会った瞬間、前世の記憶を思い出した。そして、ここが前世の自分が読んでいた小説『光溢れる国であなたと…』の世界で、自分は光の聖女と王太子ラファエルの恋を邪魔する悪役令嬢パトリシアだと…。 パトリシアは前世の知識もフル活用し、幼い頃からいつでも逃げ出せるよう腕を磨き、そして準備が整ったところでこちらから婚約破棄を告げ、母国を捨てた…。 このお話は捨てられた後の王太子ラファエルのお話です。

嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する

SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する ☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

もう殺されるのはゴメンなので婚約破棄します!

めがねあざらし
BL
婚約者に見向きもされないまま誘拐され、殺されたΩ・イライアス。 目覚めた彼は、侯爵家と婚約する“あの”直前に戻っていた。 二度と同じ運命はたどりたくない。 家族のために婚約は受け入れるが、なんとか相手に嫌われて破談を狙うことに決める。 だが目の前に現れた侯爵・アルバートは、前世とはまるで別人のように優しく、異様に距離が近くて――。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

処理中です...