牢獄の王族

夜瑠

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会遇編

10.

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ガヤガヤと賑わう街道。

活気に溢れたテント張りの店の前では客と店員との値切り戦争が行われている。

知り合いであろう婦人たちが買物籠片手に立ち止まって話しその周りを子供がぐるぐると追いかけっこしている。


見覚えのない世界だった。


「ほら、言っただろ?皆値切るんだって」

「……でも値切られるなら値段をつけてる意味が無いじゃないか」

「はぁ、ユルハは分かってねぇなぁ…あれは客と店側とのコミュニケーションなの!!」

「はぁ……?」

「あれで互いの力量を見てるんだよ」


難しい。買い物なんてしたことがないし子爵領では屋台の店は寄らなかったので値切りという存在を今日初めて知った。
初めて見た時はなんて卑劣な行為をする客だ、と思ったが店員も他の客も楽しそうな雰囲気だったことに首を傾げた。


「じゃあ俺も甘味処で値切りした方が良かったのか?」

「それは別。こういうテントのお店だけだよ値切りしていいのは。」

「していい店と駄目な店があるのか……難しいな」

「他のやつに任せれば大丈夫だよ。ユルハが一人で動くことないだろ?」

「まぁそれもそうだな」

そもそも金の価値すら分かってないからな。甘味処ではヒルハが出してくれてたし城では当然見ないし見世でも俺本人に渡されるわけでもない。家ではヒルハが管理するし…。

俺本当に何もしてねぇな。強いて言うなら先日人間金庫になったくらいか?あれも光の御子の加護なのか知らないが全く違和感なかったし。


そろそろフーレ子爵にバチ当たってもいいと思う。



「ユルハも値切りしてみるか?」

「えぇ…できる気しないから見るだけにする…」

「珍しく弱気だな。俺なんか仲間内で一番上手かったぜ?」

「わかる。お前上手そう。店員泣かせてそう」

「どういう意味だよ!」

そんな馬鹿げたことを言いながら歩くも前後左右護衛に囲まれどこの要人だよと言いたい。
お忍び貴族にすらなりきれてないと思うのだが。

俺はフード付きのローブ、クミネは貴族ほどではないがそれでも上質だとわかる服装に髪を帽子に全てまとめている。

あからさまに高い身分の奴らである。

おかげで先程から店の人や道端のご婦人達と目が合わない。

クミネが値切りしてみるか、と言った途端近くの店からの無言の圧が怖かった。できる気がしなかったのも本当だが店主たちの目が痛かったのも本当である。



「芝居まで時間もねぇし値切りはまた今度だな」

「そんなに上手いなら今度ヒルハにやらせてみろよ。多分上手いぞ。」

「あー……ニッコリ笑って値切りそう…こわっ…」

イイ笑顔で「もう一声!」と言っている様子が容易に想像できる。そして泣き出しそうな店主たちの顔も。

やらせてみたいが店主たちのために止めさせておこうかな。


そんなことを話しているとあっという間に観劇場に辿り着いた。

先にチケットを持っていたため直ぐに席に着くことが出来た。貴族用の席に通され上演開始を待つ。

「うわぁ…!すげぇ…!貴族用だぜ?俺今貴族令息にみえてんのかなぁ……!」

「落ち着け。貴族令息はそんなにはしゃがないぞ」

「うっ…わかってるって。でもほんとにすげぇ…」


直ぐに芝居は始まった。内容は数年前の革命についてだった。

ロイやアル、リアだと思わしき人達が出てきて大立ち回りをする。名前を変えていたけどそれが彼らを参考にしていることは一目瞭然だった。

そして愚かな王族たち。

暗愚の国王、色に溺れた王妃、金遣いの荒い姫。

そしてなんと俺の立場第一王子の奴もいた。
けれどそいつは俺とは似ても似つかない存在だった。

腐敗した王家を嘆き一人でなんとか両親と妹の更生に励み使用人から慕われた唯一の王族。

革命軍を支援し、革命軍の幹部として働き最後は自らの手で父王に引導を渡す。

何がなんなのか知りもせず喋ることすら出来なかった俺とは似ても似つかない存在。

隣のクミネは物語としてとても楽しみ、魅入ってるようだった。

俺は物語が進むにつれ見たくなくなった。
物語の第一王子は国の為を考えそのために親兄弟を殺すという苦渋の選択を悩みに悩み抜いて決断していた。

眩しかった。


俺は光の御子であったから生きているだけで実際はあの日家族と共に死ぬはずだったのだから。

悩むことなんてなかった。悩み方なんて知らなかった。なんて情けない第一王子。もし俺がこの劇の第一王子のように国のことを考えられればまだ家族は生きていたのだろうか。



劇が進むに連れ盛り上がる大衆と交差するように俺の気持ちは沈んでいった。






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