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番外編
リア
しおりを挟むあの子が連れ去られて、数年越しに再開して、今度は自分の意思で逃げられて。
その間、いや今も尚私の網膜にはあの、この世の闇を集結させたかのような昏い瞳で無表情に私を見つめるあの子の顔が焼き付いて離れない。
必死になって探し回るカイルと化け物だと言い張り話に触れようともしないアル。
両極端な意見に挟まれた私はなんとなく中立の立場をとった。
探しはするけれどカイルほど積極的ではない。好きではあるけど愛している訳では無い。
アルではないけれどシルヴィアに流れる血が憎いアイツらのものだと思うと素直に好意を抱けなかったし何よりあの瞳が恐ろしかった。
拙い言葉でなんとか私たちと会話しようと頑張る姿は庇護欲をそそった。それまではただの人形のような子だと思っていた。
けれど初めて光の御子の治癒能力をみたときキモチワルイと感じた。
切れていた皮膚がじわじわと再生していく様は異様でこの世の理を超えたものだった。それがただただ気持ち悪かった。
あんなの人間じゃない。光の御子ってなんなの…?
「化け物」
アルの言いたいことはとてもよく分かったしそれしか当てはまらないとも思った。ただそれを口にするには私は高潔なイメージをつけすぎた。
アルに同調して化け物だと言えば私は所詮ただの凡人になってしまう。それはダメだ。私は革命軍を、この国を導く戦乙女にならなければ。
私は立場、少しの打算、ほんのちょっとの本心を全てを含めて中立にたった。
顔を真っ赤にして拙い言葉でアルにプロポーズされたとき私は直ぐに頷いた。その方が収まりが良いと思ったから。
初めはカイルでもいいと思っていたけどシルヴィアに執着する姿を見て、私を好きにはならないだろうとすぐに悟った。
それならばカイルの側近として、幼なじみとして育ってきたアルとの結婚が何より都合がいい。
皆は私を評するとき大抵慈愛に満ちている、優しいだなんて言うけれど実際心優しい要素なんて私には皆無だ。
あの日、目の前で両親や村の皆が陵辱される様を見てから私は狂ってしまった。
物事を合理的か、その結果どうなるかでしか判断できない。
大抵皆そうだとは思うが私はそれが顕著だと思う。
革命軍にいた方が後々間違っても搾取される側にはならない。
女の子とつるむよりカイルやアルといた方が革命軍のリーダー格として扱われやすい。
明るく優しい何にでも一生懸命な性格だと見せた方が慕われやすい。
私の人生は打算で出来ている。
可哀想な子がいたら保護してあげる。
私はもう可哀想な子ではなく保護する側に回ったのだと実感したいから。
なのにあの子は。
助けてあげた私に何の関心も示さない。もっと感謝するものでしょう。尊敬するものでしょう。
なのに何故空虚な瞳で私を見つめるの。
やめて。そんな目で私を見ないで。
私の人生を否定しないで。
いやだ。私の薄汚い本心を暴かないで。
私は、私の打算的行動は正しかったと証明したい。
私の半生を認めたい。
心を押し殺して効率だけを考えることが正しかったと叫びたい。
だからあの瞳から逃げた。
全てを見透かすような瞳が私を責め立てているように見えたから。それでいいのかと聞かれている気がしたから。
けれどもう私はこれ以外の生き方なんて出来ないから。
せめてこの子には、我が子には心のままに生きてもらいたい。
どうか、この子が効率でしか考えられなくなる未来が来ませんように。
打算ではなく本心から願います。母として、人生に悩んでいる大人として、ただ願う。
貴方はどうか自由に生きて。私の見られなかった景色を見てきて。
我が愛しきユルハ。
貴方はどうか何者にも縛られずに生きてほしい。
そして心から愛する人と結ばれて欲しい。
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