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33.善悪はイケメンとブスで適用範囲が異なります。
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いやー悪ってのは何なのかね。
「ヤダッ!放してっ!ユウキッ!」
「ぐっ……フレデ、リカ…………」
「標様、どうなさるおつもりです?」
「コイツらに遊ばせよう」
「――――人間にですか?」
バイアの躊躇いは、魔族の歴史を考えれば当然か。
人間から受けた屈辱。それを同胞に再現するって、鬼畜だよな。マジキチ、卍、壱万円の福沢諭吉だよな。
でも、フレデリカを殺すことには賛成してたじゃん。
殺しは最大の悪じゃないってことか。
「そっ、人間に」
「畏まり、ました……」
尊厳を踏みにじるのが悪なのか。命を奪うよりも悪なのか。
いやー分からん。
「やめてよっ!『ファイアーボール』」
大人しく捕まってやる気はないぜ!
気合の入った火の玉が魔族を1人燃やした。魔法に耐性があると言っても、ある程度なのだ。可哀想に、大火傷だ。生きてるから、魔法で治療すれば治るんかね。
ああ、耐性があるのか。治療が大変そうだ。
うーん、これって悪だよな。人を叩いちゃいけないって習ったもん。
燃やすのはもっとだめでしょ?
「大人しくしろっ」
「嫌だ嫌だっ!ユウキッ!」
「ぐっああ゛、フレデリカ!」
立ち上がろうにも怪我が酷くて無理っぽい。力むたびにこうた君に刺された腹から血が溢れている。
人間には限界がある。奇跡が手元にない限り、奇跡が降ってこない限り、己では太刀打ちできない壁がある。だから妥協するわけだ。
大人の生き方、これは善?
「止めてくれ!言う事を聞くから、奴隷になるから、止めてくれ!」
いくら善人っぽく振る舞っても、奴隷は……悪だよな。奴隷自体が悪だよな。それを買うのも悪。奴隷になるのは?奴隷にするのは?お互いが合意の上なら悪にならんのだろうか。つまり善?
「いいからちゃんと見てろよ」
「頼む……」
「ユウキッ!嫌だ嫌だ!やめっ……」
バイアが連れてきたこの国の上層部連中は、軍隊の如く整列している。
しっかりと調教されてるようだな。
ポイッ――。
放り込まれるフレデリカ。
男たちは虚ろな目で、幼気な少女から身包みを剥ぎとった。
洗脳されてるコイツらは悪なんだろうか。被害者が一人なら悪じゃない、数十人なら悪。被害者が老人なら悪じゃない、子供なら悪。現代日本的な感覚ならコイツらは悪人だ。
「いや……ユウ……キ」
「フレデリカ!フレ……頼む、頼むから止めてくれ!」
青頭のリアクションは絶品だな。人が喜ぶポイントをしっかり抑えてる。懇願して絶望して悲嘆して、フレデリカが玩具として使えなくなれば、次は激オコになるんだろ。
強い想いが感情を波立たせる。いかにも人間的で、露悪的だ。お涙頂戴の三文芝居だ。
「悪い王様ー!これ、もう使えない」
オークが握りしめているのはゆりかちゃんの足首。コンパスみたいに開いてるのはもう片方の脚だろう。もうグロさを通り越して意味不明です。
血と地面の汚れとオークの精液が合わさって、色味は人というより南国の鳥だ。
股関節が外れて大開脚をしているかと思えば、豊満な胸がまな板になっている。モグモグしてるオークがいるから、そういうことだろう。
顎が外れ空気だけが漏れている、閉じられない口。喉もイカれてるのかも。美しい髪は皮膚ごとむしり取られ、涙のかわりに血が滴る。そしてコイツも、フレデリカで遊ぶ人間どものように虚ろな目だ。
「ちゃんと使え、ケツが綺麗だろ」
「ヒューーーッヒューーーーッ」
「ほら、欲しいってよ」
「分かったよ悪い王様」
こうた君はダメだ。心が壊れている。自分を守る為に心の機能を停止したんだろう。
めっちゃ悪人じゃん。
諦めた時点で、へこたれてる時点で、悪だけど、心を壊したら完全に悪人じゃん。
善行のチャンスを放棄して、一切行動しないんでしょ?行動できないように心を打ち砕いたんでしょ?
そりゃ良くないよ。生きるってのは不条理なんだから。そこで人生を謳歌したいなら振り切らないと。やりたいことをやるなら、障害を取り払う力を持たなくちゃ。
俺以上のな。
「標様」
「なんじゃい族長」
悪魔も目を伏せそうな大広間。呆然とする魔族たちの前から、とぼとぼやってきた族長の表情は重い。
「フレデリカは早急に解放すべきでございます」
「殺さないの?」
「地上に縛り付けず、神の元へと解放すべきです」
「ふむ、なるほど。同じ魔族が人間にやられるのは辛い?」
「――――お願いします、標様」
ふーん。ツラタンなんだね?イブラヒモビッチなんだね?そっちはズラタンか。
復讐の邪魔だから神の元へ返そう!って身勝手な言い訳をするくせに、甚振るのは止めてあげてって、どうなのそれ。
どうせ死ぬんだし良くない?見てられないなら目を瞑っとけばいいじゃんよ。
転生者達はそうしてるぞ?
現実から目を背けて、気の抜けた炭酸みたいになってる。ただの肉人形になってる。
生きることを諦めたゴミになってる。
ああすればいいのに……。
「はあ、分かったよ」
魔族は嫌いじゃない。
俺の神が庇護する種族だし、俺の理解者でもある。
なんか白けたな。
弾ける歓声があってスポーツ観戦はショーになるんだ。今回は失敗したなと痛感している。だからしゃーない、聞き入れたようと思う。
顎をシャクってみせると、バイアは心得たとばかりに指を弾いた。
するとケダモノと化した意思のない人々は軍隊のように隙間を開けると、フレデリカの元まで花道を作ってくれた。
有り難いけど、パンツを上げてくれって。
花じゃなく茎に囲まれた道を闊歩した先には、汚れっちまったフレデリカ。
震えながら自らを掻き抱くのだから、まだ余裕はあるみたいだ。
チンコ共は、魔族たちが見やすいように気を使ってバイアの背後へと下がった。
淫乱集団の頭目、バイタ。いい二つ名だと思う。
にしてもフレデリカ、だいぶイカ臭い女になっちまったな。早漏が複数名いたみたいだ。
『ファイアーボ……』
「いいのかなー、ユウキ君殺すよ?」
「――――くたばれ」
「お前こそ『燃えてくた……』」
そういえば、魔法耐性があるんだった。能力を使おうにも、対主人公用の能力だからコイツには効かないんだよなー。
手ずから送り出すしかないか。
「団長!刀をくれ」
「はっ」
こうた君の側で寝転んでいた刀が団長の手によって飛んできた。俺を敬ってるなら走って持ってこいよ!
ミスったーって顔しても遅えよ!怖っどうやって取るの?いや、手を出したらスパンてイッちゃう。
そうやってどぎまぎしていると、刀は寂しげに地面で跳ねた。
団長はバツが悪そうにしているが、こっちは死ぬほど恥ずい。ここは一応決めるとこだろ。俺の想定ではパシッと刀を掴んで、かっこよさげなセリフを吐いて始末するつもりだった。
自分だけの妄想なら良かったが、気を逸らすように咳き込む魔族がいたり、目を伏せていたり、明らかにそれを期待していたであろう反応がちらほら。
恥っず。
そそくさと刀を拾って、フレデリカの喉に突き刺した。
「かっ」
鯉みたいに動く口から、溢れ出る血液。人間と同じ赤ってのが世の異常性を感じさせる。ここで刀を抜き差しして「気持ちいい?」なーんて言ってあげたかったけど、そんな場合じゃない。顔から火が出そうだから、早く逝ってくれ!
「くそっ動け!フレデリカ、待ってくれ!逝かないでくれ!」
青頭が泣き叫んでいるが、もう面白くない。こっちは恥ずかしくて死にそうだってのに。
さっさと刀を抜いて、さっきの失態を上書きするべく族長へ話を振った。
「族長!深雪ちゃん以外は一箇所にまとめてくれ」
「はっ。かかれ!」
「ディキ」
「ここに」
「王女様の居場所は分かるか?」
「はい。お連れしますか?」
「すぐに」
「畏まりました」
「豚共!ケツをガバガバにしたら殺せ」
「分かったー」
転生者もチートさえなければただの人間だ。オークみたいな体躯もないし、腕力もない。
豚足が地面を揺らし、スイカは弾けた。
うむ、なんか興醒めだ。とてもつまらん。ここいらで一波乱あっても良さそうなのに万事順調だ。
魔王退治だ!って息巻いてた割には歯ごたえのない連中だった。
村に来たときからそうだ。確実に仕留めてやるって意志も感じられなかったし、オークたちとチャンバラに興じてばかり。数匹数十匹殺した程度で満足げだった。未熟で未発達な殺意が目的をぼやけさせたんだろう。勘違いだけど、魔王だと思っていた俺だけに注力すれば良かったのに、手を伸ばさなかった。
策に嵌まった?無能だから?ちゃうわ。やる気が足りないんだよ。チート能力にかまけて、心がブクブク太ってた。魔族みたいな貪欲さが足りないんだよ。
だからつまらねえんだよ。
「標様、集めましたぞ」
「おう、殺せ」
族長が恭しく頭を下げると、それを見ていた団長が部下たちに頷いた。
膝立ちで震える少年少女。その中には呆然とするこうた君、泣き叫ぶ青頭もいる。巨匠に筆を持たせれば、なんだか胸にくる絵が描けそうだ。
「殺れ!」
下された命令に返事はない。行動でもって応えるプロ意識は是非とも見習ってほしいものだ。来世があるならね。
爪が首を飛ばしたり、尻尾が背中を貫いたり、大きな口で頭蓋骨を噛み砕いたり、魔族は暴力が上手だ。
『防護壁!簡単に殺せると思うなよ!でゅふ』
生き残ったでゅふふAが最後の足掻きを見せた。
いいね、そういうのがいいんだよ。
でも力が伴わないなら、見苦しいだけだ。
タコ殴りにしようとした魔族は、バリアに腕を弾かれた。
ギッと睨み猛撃を浴びせかけるが、ビクともしない。
転生者ってのは魔力が豊富だ。牢屋にいる間、そしてここに来ても魔法を使わなかったんだから、余力があるんだろう。
チッチッチッ。
ウチにだって凄えやつがいるんだよー。
不敵に笑うでゅふふAだったが、どんどん身長が縮んでいく。
もちろん魔法じゃない。
縮んでるように見えるだけだ。
黒ずんだ地面が教えてくれるのは、影がいかに凄いかだろう。白い霧で役に立てなかった暗部が、ここぞとばかりに出張ったようだ。
「な、なんだ……ぐっくそ!」
腰辺りまで地面に埋もれたでゅふふAは、体を捩り辺り魔法の使用者を探している。
光を嫌うから暗部なんですよ、地上になんかいませんよ。
こうなったら影の特性を活かすだけだ。
『照らせ』
ニョキッと現れたチェリー君が眩い光で照らした。スポットライトを浴びて、まさにスターといった様相のでゅふふAだが、腰から下は影もろとも消えてしまう。
「くっ……ん?なんだでゅふふ。攻撃かと思ったら…………あれ?」
怪我は、認識しないと痛みを感じ辛い、というのはよくある話だ。
なーんか違和感あるなーと思って確認したら、あらぬ方向へ足首が曲がっていて、猛烈な痛みが襲ってきた、みたいな。
でゅふふAもまさにそれで、じわりじわりと広がる血を見て、一気に顔が白んでいった。叫びは無く、浅い呼吸を繰り返し、腕で地面を漕ぐ。切断面が地面と擦れる度に、ヒッと小さな声を漏らしながら少しずつ死へと前進していった。
頃合いを見計らっていたのか、ディキが影から現れた。
「連れてまいりました」
鷲掴みにされた髪がボサボサになっている以外は、かなり高貴そうだこと。想像通りのお姫様といった風体で、不安げに辺りを見回している。
「殿下」
優しく声を掛けた。
不安を取り除こうだとか、相手を慮っての行動じゃない。やる気が失せたのだ。
ワクワクが消えて、今はただの消化試合。コイツも惰性で殺すだけだ。
「最期の言葉はありますか?」
コイツを見てるとネズ公を思い出す。
ビビリながらも熱意があった。生きてやるとか、仲間のためにだとか、そういう情熱を孕んだ目だ。
ネズ公に会いたいなー。奴隷にしときゃ良かったなー。アイツの不徳が招いた事だが、俺も少しばかり急いてしまった。もうちょっと、優しくしておけば愉しめただろうになー。
「あ、貴方が魔王ですか?」
「ちゃいます。ただの転生者です」
「転生者?勇者の資質を持つ、あの転生者ですか?」
「へいそうです」
「敵、なのですね?」
「ご明察の通りです」
今さらどうこうできないのは誰だって理解できる。
オークと魔族が会した広場で、虚空を眺めて陰部を晒す権力中枢の男たち。ああこの国は終わりだな。ってな具合に諦観の表情を浮かべているから、死ぬことを拒否はしないだろう。
いいね、手っ取り早くて。
「民は、民だけはお助けください」
「民?ああ、まあいいですよ。何もしなてこないならね」
「ありがとうございます」
「もう他にないですか?」
「1つお願いがあります」
「なんです?」
「市井を一目見たいのです。私の国がどれほど美しいのかを」
「はあ……」
面倒いな。サクッと殺していいかなー。そんな思いを込めてちらりと族長を見ると、何やら悪い顔をしている。王女様で愉しむ方法があるらしい。
だったらくれてやるかな。
「族長、任せていい?」
「宜しいので?」
「ご自由に」
「では有り難く」
族長がダイキリ先輩に耳打ちをすると、イケメンの顔が愉悦に歪んだ。何がそんなに楽しいのか、随分と悪い顔する。
ダイキリは数名の部下を従えて王女と瞬間移動した。
さて、神が姿を表さないのも気になるが、今後はどうしようかな。
各地に点在する転生者の元へ向かうか、風俗に通いつつ転生者を誘き出す作戦でも考えるか。いや悩むね。近場に転生者がいてくれたらすぐに向かったけど、結構遠いんだよなー。
いんや、転生者を殺しに行こう。
風俗は道中見つけりゃいいさ。
神の加護を得て、惰性で生きてるような連中を野放しになんかできねえよ。
「ソイツらどうするつもり?」
チンコ丸出しのお偉方を示して聞いてみた。俺に統治を期待していたんだろうが、それはやらん。
「不要であれば始末しようかと」
シュンとしながらバイアが答えた。
「はあ、お前らで好きに使っていいよ。統治してみれば?飽きたら捨てればいいし」
「よ、宜しいのですか?」
「はいどうぞ」
「ありがとうございます!」
人間じゃ足りねえな。
転生者共は皆殺しにするとして、神も殺らねえと平等じゃねえよな。我が神だけいれば俺は困らないんだから、ターゲットにしてやらねえと悪いよな。
うん、悪いよ。
いいね、なんか目標が出来た。
「ヤダッ!放してっ!ユウキッ!」
「ぐっ……フレデ、リカ…………」
「標様、どうなさるおつもりです?」
「コイツらに遊ばせよう」
「――――人間にですか?」
バイアの躊躇いは、魔族の歴史を考えれば当然か。
人間から受けた屈辱。それを同胞に再現するって、鬼畜だよな。マジキチ、卍、壱万円の福沢諭吉だよな。
でも、フレデリカを殺すことには賛成してたじゃん。
殺しは最大の悪じゃないってことか。
「そっ、人間に」
「畏まり、ました……」
尊厳を踏みにじるのが悪なのか。命を奪うよりも悪なのか。
いやー分からん。
「やめてよっ!『ファイアーボール』」
大人しく捕まってやる気はないぜ!
気合の入った火の玉が魔族を1人燃やした。魔法に耐性があると言っても、ある程度なのだ。可哀想に、大火傷だ。生きてるから、魔法で治療すれば治るんかね。
ああ、耐性があるのか。治療が大変そうだ。
うーん、これって悪だよな。人を叩いちゃいけないって習ったもん。
燃やすのはもっとだめでしょ?
「大人しくしろっ」
「嫌だ嫌だっ!ユウキッ!」
「ぐっああ゛、フレデリカ!」
立ち上がろうにも怪我が酷くて無理っぽい。力むたびにこうた君に刺された腹から血が溢れている。
人間には限界がある。奇跡が手元にない限り、奇跡が降ってこない限り、己では太刀打ちできない壁がある。だから妥協するわけだ。
大人の生き方、これは善?
「止めてくれ!言う事を聞くから、奴隷になるから、止めてくれ!」
いくら善人っぽく振る舞っても、奴隷は……悪だよな。奴隷自体が悪だよな。それを買うのも悪。奴隷になるのは?奴隷にするのは?お互いが合意の上なら悪にならんのだろうか。つまり善?
「いいからちゃんと見てろよ」
「頼む……」
「ユウキッ!嫌だ嫌だ!やめっ……」
バイアが連れてきたこの国の上層部連中は、軍隊の如く整列している。
しっかりと調教されてるようだな。
ポイッ――。
放り込まれるフレデリカ。
男たちは虚ろな目で、幼気な少女から身包みを剥ぎとった。
洗脳されてるコイツらは悪なんだろうか。被害者が一人なら悪じゃない、数十人なら悪。被害者が老人なら悪じゃない、子供なら悪。現代日本的な感覚ならコイツらは悪人だ。
「いや……ユウ……キ」
「フレデリカ!フレ……頼む、頼むから止めてくれ!」
青頭のリアクションは絶品だな。人が喜ぶポイントをしっかり抑えてる。懇願して絶望して悲嘆して、フレデリカが玩具として使えなくなれば、次は激オコになるんだろ。
強い想いが感情を波立たせる。いかにも人間的で、露悪的だ。お涙頂戴の三文芝居だ。
「悪い王様ー!これ、もう使えない」
オークが握りしめているのはゆりかちゃんの足首。コンパスみたいに開いてるのはもう片方の脚だろう。もうグロさを通り越して意味不明です。
血と地面の汚れとオークの精液が合わさって、色味は人というより南国の鳥だ。
股関節が外れて大開脚をしているかと思えば、豊満な胸がまな板になっている。モグモグしてるオークがいるから、そういうことだろう。
顎が外れ空気だけが漏れている、閉じられない口。喉もイカれてるのかも。美しい髪は皮膚ごとむしり取られ、涙のかわりに血が滴る。そしてコイツも、フレデリカで遊ぶ人間どものように虚ろな目だ。
「ちゃんと使え、ケツが綺麗だろ」
「ヒューーーッヒューーーーッ」
「ほら、欲しいってよ」
「分かったよ悪い王様」
こうた君はダメだ。心が壊れている。自分を守る為に心の機能を停止したんだろう。
めっちゃ悪人じゃん。
諦めた時点で、へこたれてる時点で、悪だけど、心を壊したら完全に悪人じゃん。
善行のチャンスを放棄して、一切行動しないんでしょ?行動できないように心を打ち砕いたんでしょ?
そりゃ良くないよ。生きるってのは不条理なんだから。そこで人生を謳歌したいなら振り切らないと。やりたいことをやるなら、障害を取り払う力を持たなくちゃ。
俺以上のな。
「標様」
「なんじゃい族長」
悪魔も目を伏せそうな大広間。呆然とする魔族たちの前から、とぼとぼやってきた族長の表情は重い。
「フレデリカは早急に解放すべきでございます」
「殺さないの?」
「地上に縛り付けず、神の元へと解放すべきです」
「ふむ、なるほど。同じ魔族が人間にやられるのは辛い?」
「――――お願いします、標様」
ふーん。ツラタンなんだね?イブラヒモビッチなんだね?そっちはズラタンか。
復讐の邪魔だから神の元へ返そう!って身勝手な言い訳をするくせに、甚振るのは止めてあげてって、どうなのそれ。
どうせ死ぬんだし良くない?見てられないなら目を瞑っとけばいいじゃんよ。
転生者達はそうしてるぞ?
現実から目を背けて、気の抜けた炭酸みたいになってる。ただの肉人形になってる。
生きることを諦めたゴミになってる。
ああすればいいのに……。
「はあ、分かったよ」
魔族は嫌いじゃない。
俺の神が庇護する種族だし、俺の理解者でもある。
なんか白けたな。
弾ける歓声があってスポーツ観戦はショーになるんだ。今回は失敗したなと痛感している。だからしゃーない、聞き入れたようと思う。
顎をシャクってみせると、バイアは心得たとばかりに指を弾いた。
するとケダモノと化した意思のない人々は軍隊のように隙間を開けると、フレデリカの元まで花道を作ってくれた。
有り難いけど、パンツを上げてくれって。
花じゃなく茎に囲まれた道を闊歩した先には、汚れっちまったフレデリカ。
震えながら自らを掻き抱くのだから、まだ余裕はあるみたいだ。
チンコ共は、魔族たちが見やすいように気を使ってバイアの背後へと下がった。
淫乱集団の頭目、バイタ。いい二つ名だと思う。
にしてもフレデリカ、だいぶイカ臭い女になっちまったな。早漏が複数名いたみたいだ。
『ファイアーボ……』
「いいのかなー、ユウキ君殺すよ?」
「――――くたばれ」
「お前こそ『燃えてくた……』」
そういえば、魔法耐性があるんだった。能力を使おうにも、対主人公用の能力だからコイツには効かないんだよなー。
手ずから送り出すしかないか。
「団長!刀をくれ」
「はっ」
こうた君の側で寝転んでいた刀が団長の手によって飛んできた。俺を敬ってるなら走って持ってこいよ!
ミスったーって顔しても遅えよ!怖っどうやって取るの?いや、手を出したらスパンてイッちゃう。
そうやってどぎまぎしていると、刀は寂しげに地面で跳ねた。
団長はバツが悪そうにしているが、こっちは死ぬほど恥ずい。ここは一応決めるとこだろ。俺の想定ではパシッと刀を掴んで、かっこよさげなセリフを吐いて始末するつもりだった。
自分だけの妄想なら良かったが、気を逸らすように咳き込む魔族がいたり、目を伏せていたり、明らかにそれを期待していたであろう反応がちらほら。
恥っず。
そそくさと刀を拾って、フレデリカの喉に突き刺した。
「かっ」
鯉みたいに動く口から、溢れ出る血液。人間と同じ赤ってのが世の異常性を感じさせる。ここで刀を抜き差しして「気持ちいい?」なーんて言ってあげたかったけど、そんな場合じゃない。顔から火が出そうだから、早く逝ってくれ!
「くそっ動け!フレデリカ、待ってくれ!逝かないでくれ!」
青頭が泣き叫んでいるが、もう面白くない。こっちは恥ずかしくて死にそうだってのに。
さっさと刀を抜いて、さっきの失態を上書きするべく族長へ話を振った。
「族長!深雪ちゃん以外は一箇所にまとめてくれ」
「はっ。かかれ!」
「ディキ」
「ここに」
「王女様の居場所は分かるか?」
「はい。お連れしますか?」
「すぐに」
「畏まりました」
「豚共!ケツをガバガバにしたら殺せ」
「分かったー」
転生者もチートさえなければただの人間だ。オークみたいな体躯もないし、腕力もない。
豚足が地面を揺らし、スイカは弾けた。
うむ、なんか興醒めだ。とてもつまらん。ここいらで一波乱あっても良さそうなのに万事順調だ。
魔王退治だ!って息巻いてた割には歯ごたえのない連中だった。
村に来たときからそうだ。確実に仕留めてやるって意志も感じられなかったし、オークたちとチャンバラに興じてばかり。数匹数十匹殺した程度で満足げだった。未熟で未発達な殺意が目的をぼやけさせたんだろう。勘違いだけど、魔王だと思っていた俺だけに注力すれば良かったのに、手を伸ばさなかった。
策に嵌まった?無能だから?ちゃうわ。やる気が足りないんだよ。チート能力にかまけて、心がブクブク太ってた。魔族みたいな貪欲さが足りないんだよ。
だからつまらねえんだよ。
「標様、集めましたぞ」
「おう、殺せ」
族長が恭しく頭を下げると、それを見ていた団長が部下たちに頷いた。
膝立ちで震える少年少女。その中には呆然とするこうた君、泣き叫ぶ青頭もいる。巨匠に筆を持たせれば、なんだか胸にくる絵が描けそうだ。
「殺れ!」
下された命令に返事はない。行動でもって応えるプロ意識は是非とも見習ってほしいものだ。来世があるならね。
爪が首を飛ばしたり、尻尾が背中を貫いたり、大きな口で頭蓋骨を噛み砕いたり、魔族は暴力が上手だ。
『防護壁!簡単に殺せると思うなよ!でゅふ』
生き残ったでゅふふAが最後の足掻きを見せた。
いいね、そういうのがいいんだよ。
でも力が伴わないなら、見苦しいだけだ。
タコ殴りにしようとした魔族は、バリアに腕を弾かれた。
ギッと睨み猛撃を浴びせかけるが、ビクともしない。
転生者ってのは魔力が豊富だ。牢屋にいる間、そしてここに来ても魔法を使わなかったんだから、余力があるんだろう。
チッチッチッ。
ウチにだって凄えやつがいるんだよー。
不敵に笑うでゅふふAだったが、どんどん身長が縮んでいく。
もちろん魔法じゃない。
縮んでるように見えるだけだ。
黒ずんだ地面が教えてくれるのは、影がいかに凄いかだろう。白い霧で役に立てなかった暗部が、ここぞとばかりに出張ったようだ。
「な、なんだ……ぐっくそ!」
腰辺りまで地面に埋もれたでゅふふAは、体を捩り辺り魔法の使用者を探している。
光を嫌うから暗部なんですよ、地上になんかいませんよ。
こうなったら影の特性を活かすだけだ。
『照らせ』
ニョキッと現れたチェリー君が眩い光で照らした。スポットライトを浴びて、まさにスターといった様相のでゅふふAだが、腰から下は影もろとも消えてしまう。
「くっ……ん?なんだでゅふふ。攻撃かと思ったら…………あれ?」
怪我は、認識しないと痛みを感じ辛い、というのはよくある話だ。
なーんか違和感あるなーと思って確認したら、あらぬ方向へ足首が曲がっていて、猛烈な痛みが襲ってきた、みたいな。
でゅふふAもまさにそれで、じわりじわりと広がる血を見て、一気に顔が白んでいった。叫びは無く、浅い呼吸を繰り返し、腕で地面を漕ぐ。切断面が地面と擦れる度に、ヒッと小さな声を漏らしながら少しずつ死へと前進していった。
頃合いを見計らっていたのか、ディキが影から現れた。
「連れてまいりました」
鷲掴みにされた髪がボサボサになっている以外は、かなり高貴そうだこと。想像通りのお姫様といった風体で、不安げに辺りを見回している。
「殿下」
優しく声を掛けた。
不安を取り除こうだとか、相手を慮っての行動じゃない。やる気が失せたのだ。
ワクワクが消えて、今はただの消化試合。コイツも惰性で殺すだけだ。
「最期の言葉はありますか?」
コイツを見てるとネズ公を思い出す。
ビビリながらも熱意があった。生きてやるとか、仲間のためにだとか、そういう情熱を孕んだ目だ。
ネズ公に会いたいなー。奴隷にしときゃ良かったなー。アイツの不徳が招いた事だが、俺も少しばかり急いてしまった。もうちょっと、優しくしておけば愉しめただろうになー。
「あ、貴方が魔王ですか?」
「ちゃいます。ただの転生者です」
「転生者?勇者の資質を持つ、あの転生者ですか?」
「へいそうです」
「敵、なのですね?」
「ご明察の通りです」
今さらどうこうできないのは誰だって理解できる。
オークと魔族が会した広場で、虚空を眺めて陰部を晒す権力中枢の男たち。ああこの国は終わりだな。ってな具合に諦観の表情を浮かべているから、死ぬことを拒否はしないだろう。
いいね、手っ取り早くて。
「民は、民だけはお助けください」
「民?ああ、まあいいですよ。何もしなてこないならね」
「ありがとうございます」
「もう他にないですか?」
「1つお願いがあります」
「なんです?」
「市井を一目見たいのです。私の国がどれほど美しいのかを」
「はあ……」
面倒いな。サクッと殺していいかなー。そんな思いを込めてちらりと族長を見ると、何やら悪い顔をしている。王女様で愉しむ方法があるらしい。
だったらくれてやるかな。
「族長、任せていい?」
「宜しいので?」
「ご自由に」
「では有り難く」
族長がダイキリ先輩に耳打ちをすると、イケメンの顔が愉悦に歪んだ。何がそんなに楽しいのか、随分と悪い顔する。
ダイキリは数名の部下を従えて王女と瞬間移動した。
さて、神が姿を表さないのも気になるが、今後はどうしようかな。
各地に点在する転生者の元へ向かうか、風俗に通いつつ転生者を誘き出す作戦でも考えるか。いや悩むね。近場に転生者がいてくれたらすぐに向かったけど、結構遠いんだよなー。
いんや、転生者を殺しに行こう。
風俗は道中見つけりゃいいさ。
神の加護を得て、惰性で生きてるような連中を野放しになんかできねえよ。
「ソイツらどうするつもり?」
チンコ丸出しのお偉方を示して聞いてみた。俺に統治を期待していたんだろうが、それはやらん。
「不要であれば始末しようかと」
シュンとしながらバイアが答えた。
「はあ、お前らで好きに使っていいよ。統治してみれば?飽きたら捨てればいいし」
「よ、宜しいのですか?」
「はいどうぞ」
「ありがとうございます!」
人間じゃ足りねえな。
転生者共は皆殺しにするとして、神も殺らねえと平等じゃねえよな。我が神だけいれば俺は困らないんだから、ターゲットにしてやらねえと悪いよな。
うん、悪いよ。
いいね、なんか目標が出来た。
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これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
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