政治家気取り

長沢朔太郎

文字の大きさ
上 下
2 / 2

委員会

しおりを挟む
 中学2年生。どうやら委員会というものに所属しなければいけないらしい。1年生のときは任意だったため面倒くさがり屋な小山内は所属しなかった。しかし、いざ所属するとなると多少の興奮を覚える。心の中で「委員会って内閣でいう○○省に似てるな。それとも国会にある○○委員会かな。」と言う思いが駆け巡っていた。おそらく小山内の顔は口角が上がり、不細工な面を曝け出していただろう。委員会の一員になることが彼の妄想を膨らます。みんなが委員会に属するためなにも特別ではなかった。しかし、組織に属すること自体に興奮を覚えた。小山内は小さい頃からニュースばかり見ていた。別にバラエティーが嫌いではないが、親がニュースしか見ないのだ。その影響か政治の話は彼のフィールド。各省の政務官まで覚えていた。政治が好きなのだ。同級生には伝わらない政党の話や、選挙区の話などで空気を変えてしまうこともしばしば。1つの委員会から男女1人ずつ選考されるらしい。小山内は別にどこの委員会だろうが関係ないくらいに思い、適当に黒板に名前を書く。小山内の希望は叶わなかったものの、委員会決めの議論は思いの外スムーズに進み、小山内は風紀委員会に属することになった。「小山内くんと一緒だ。よろしくね!」聞いたことのある声が小山内に語りかける。大橋だ。どうやら大橋も風紀委員会だそうだ。「わたし去年もやっているからわからないことがあったら聞いてね!」大橋はいつもの明るい声で言った。「ああ。」小山内は大橋と対照的な声で答えた。久しぶりに口を開き喋ったからか、どうも声が出にくかった。「金曜日に最初の委員会があるから忘れずに来てよ。」それだけ言うと大橋は自分の席に戻って行った。
 最初の委員会の日になった。午前中から強めの雨が降り、放課後になっても空には分厚い鼠色の雲が空を覆っていた。風紀委員会の教室は小山内があまり行かない3年生の教室だった。慣れない教室に行かなければいけない緊張感と、初めての委員会に出席する緊張感が入り混じり、彼の頭の中は真っ白になっていた。上級生の波をかき分けてやっと教室に辿り着いた。ドアを開けると教室の前(黒板側)には2つの席が並べられており、体格の良い坊主の男子生徒と、黒縁メガネの細々とした男子生徒が座っていた。体格のよい方は、堂々とした風貌で見ることも許されないような威圧感を感じた。小山内は自分の席を探していると大橋が手招きして教えてくれた。それから5分ほど経った。物音を立ててはいけないのではないかと思うほどの静寂した空間だった。たったの5分が小山内には倍近くに感じた。「起立!」。静寂した空間にはうるさすぎる声で号令がかかり、ついに委員会が始まった。どうやら体格のよい坊主の生徒は風紀委員長で、細い黒縁メガネは副委員長のようだ。自己紹介、今年の委員会目標、仕事内容、担当の先生のお話。初めての委員会は淡々と進み、あっという間に終わった。筆記用具をまとめて帰る準備をしていると大橋が話しかけてきた。「初めての委員会はどうだった?」「まあ、楽しいものではないね。」小山内はそう言いつつ教室から出て行った。彼は嘘をついた。内心、とても興奮していた。あのテレビに映っている政治家のようなことをしたという事実に対して興奮していたのだ。自分が学校の生徒会という『国会』に所属している生徒という名の『政治家』であることが嬉しくてたまらなかった。僅かな雲間から西日が差していた。黒い傘を地面にコツコツ言わせ、政治家になった自分を妄想しながら帰路についた。
 
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...