14 / 79
第3章 【運営案件】レトロゲータッグマッチ選手権!
第14話 古のヲタVTuber、炎上する(前編)
しおりを挟む
併走コラボから一夜が明けた。
いつものように昼過ぎに布団を出た私は寝ぼけ眼をさすりながらキッチンに立つ。
そして――冷蔵庫の中身が空なのに気づいてあわててスーパーに走った。
朝食は水一杯。
よくスーパーまで行けたと思う。
牛乳と生卵とソーセージ。
食パンにジャム。
レンジでチンして温めるごはん。
ツナ缶と鮭フレーク。袋入りちりめん。
インスタントのお味噌汁とポタージュスープ。
ついでに鰹節(小分けタイプ)も。
空腹のお腹が求めるまま食料品をあさってレジに向かう。
お会計を済ましてから生活力のなさが現れた籠の中身にちょっと引いた。
いいんだ。
お弁当を買わないだけ勝ち組だ。
エコバッグを揺らして家に戻ると時刻は13時過ぎ。
さっそく昼食の準備に取りかかる。
スクランブルエッグとボイルソーセージ。トースターでこんがり焼いた食パン。
食パンを包丁で半分に切るとそこに具材を挟み込む。たっぷりとケチャップとマヨネーズ、イエローマスタードでジャンクな味つけにする。
特製トーストサンドとコップ一杯の牛乳を持って、私はキッチン前から部屋の中央の座卓――「川崎ばにら」の配信設備の前に移動した。
「あぁ、そう言えば、昨日の配信のチェックを忘れてた」
行儀が悪いのを承知でパソコンを起動する。
スリープモードにしてあったおかげですぐにパソコンは立ち上がる。開きっぱなしのブラウザで、私はYouTubeの新着動画をあさった。
トーストを囓りながら、新着動画の内容・再生数・配信時間をチェックする。
全部を見ている暇はないので、気になるものは「切り抜き動画」で内容を確認。良い数字が出ている動画はスキップして流し見する。
地味だが配信業には大切な作業。
今「何が流行っているのか?」を知っているのは配信者にとって重要なのだ。
それが分からずに配信で「数字」を出すことはできない。
特に私のようなゲーム配信者にとっては死活問題。
早すぎず、遅すぎない、ちょうどいいタイミングで話題作をプレイする。
ゲーム配信者は優れた戦略眼を持たねばならないのだ――。
「PCはチラズアートさんの新作ホラゲの挙動がいいなぁ。据え置きゲーは『FALL GUYS』『Ring Fit Adventure』か。『Among us』も知名度を上げてきてるけど――あれは人数が必要だからなぁ」
ふと「ヒカキン」さんのマイクラ配信を私は再生する。
子供たちの人気者。
日本のYouTuberの代表と言っていい「ヒカキン」さん。
彼の配信は私も参考にしている。
特に彼のマイクラ配信には、私も憧れを抱いていた――。
「こういう配信を私もしたいなぁ」
ふと、ブラウザを最小化して私はデスクトップを眺める。
2列目、一番下に置かれている土ブロックのアイコン。
タイトルは「Minecraft」。
私のPCにはJava版のマイクラが既にインストールしてある。
多くのゲームと異なりマイクラは配信許可を申請する必要がない。収益の有無も関係なく、思い立ったらすぐプレイ動画を配信できる。
やろうと思えばできる。
だが――そこは企業所属のVTuber。
勝手にマイクラ配信ができない事務所の事情があった。
「そう言えば、ゆき先輩、謹慎中はなにしているんだろう?」
パサついた口の中を牛乳で潤しながら、私はおもむろにマイクラを起動した。
サーバーの中から「DStars Server」を選択すると、世界環境が構築されるのを待つ。
しばらくすると、正方形のブロックで構成された世界が目の前に広がった。
案の定、そこに先輩はいた。
ゲーム画面にその姿は確認できない。
しかし、ログインユーザーの一覧に「yuki」の名前があったのだ。
『vanira : konvani!』
配信の挨拶をマイクラのチャットにタイプする。
5秒と待たず返信がきた。
『yuki : unyuxu!』
ゆき先輩のお決まりの挨拶だ。
『yuki : gomen! ima doukutu dakara sugu ikenai!』
『vanira : daijoubu. mondai nai.』
『yuki : kyouha doushita?』
『vanira : yuki senpai irukana tte.』
ゆき先輩からの返事を待たず私は続きをタイプする。
『vanira : ima discord daijoubu desu?』
しばらくすると最小化していたDiscordに着信が入る。
PC筐体の上に置いたヘッドセットを頭につけて私は通話に出た。
「うにゅ! ゆきだよ!」
「こんにちは。ゆき先輩」
「どしたばにら。開発中のマイクラサーバーに入ってきて」
「いや、ゆき先輩がいるかなと思って」
「あはははは。ゆきを探してこんな所まで来たのか。相変わらず、ゆき離れができん奴だなぁ。そんなんだから金盾配信で恥をかくんだぞ?」
「その節は、ご迷惑をおかけしました、バニ」
「まぁ、なんとかなってよかったよかった」
ゆき先輩がDiscordで写真を送ってくる。
いつか訪れた、フィギュアまみれのポスターまみれ、ギャルゲ&エロゲまで混ざったオタ部屋で、彼女は元気そうにダブルピースをしていた。
DStars零期生。
年齢不詳。年齢を公表しているぽめら先輩よりもおそらく年上。
古兵にして筋金入りの女オタク先輩は、炎上を少しも気にしていない様子だ。
それが危なっかしくもあり頼もしくもある。
「というか、なんで謹慎中なのに遊んでるんですか!」
「遊んでるんじゃない! これはデバッグ! 今度やろうとしてる、DStarsのマイクラ配信サーバの動作チェック!」
「いや、鉱石集めてただけでしょ」
「そうとも言う。って、ちょっと待ってクリーパーが!」
「ちょっ、大丈夫ですか、ゆき先輩!」
「くんな! くんなお! ちょっ、やばっ――マグマブロック!」
「ゆき先輩ぁい!!!!」
「あっちゅ! あっちゅあっちゅ! わわっ、クリーパーお前! マグマブロックに飛び込んでくんな! あっ、あっ、やぁーーーーーーっ!」
耳に響くゆき先輩の断末魔。
マイクラに表示される「yukiはクリーパーに爆破された」の文字。
阿鼻叫喚。容赦のない台パンの音。
それから、少し遅れてゆき先輩が鼻水を啜った――。
「うぅっ、ゆきのダイヤ装備がぁ……! また全ロスしたぁ……!」
「どんまいバニ」
「くそがよぉ……!」
いつものように昼過ぎに布団を出た私は寝ぼけ眼をさすりながらキッチンに立つ。
そして――冷蔵庫の中身が空なのに気づいてあわててスーパーに走った。
朝食は水一杯。
よくスーパーまで行けたと思う。
牛乳と生卵とソーセージ。
食パンにジャム。
レンジでチンして温めるごはん。
ツナ缶と鮭フレーク。袋入りちりめん。
インスタントのお味噌汁とポタージュスープ。
ついでに鰹節(小分けタイプ)も。
空腹のお腹が求めるまま食料品をあさってレジに向かう。
お会計を済ましてから生活力のなさが現れた籠の中身にちょっと引いた。
いいんだ。
お弁当を買わないだけ勝ち組だ。
エコバッグを揺らして家に戻ると時刻は13時過ぎ。
さっそく昼食の準備に取りかかる。
スクランブルエッグとボイルソーセージ。トースターでこんがり焼いた食パン。
食パンを包丁で半分に切るとそこに具材を挟み込む。たっぷりとケチャップとマヨネーズ、イエローマスタードでジャンクな味つけにする。
特製トーストサンドとコップ一杯の牛乳を持って、私はキッチン前から部屋の中央の座卓――「川崎ばにら」の配信設備の前に移動した。
「あぁ、そう言えば、昨日の配信のチェックを忘れてた」
行儀が悪いのを承知でパソコンを起動する。
スリープモードにしてあったおかげですぐにパソコンは立ち上がる。開きっぱなしのブラウザで、私はYouTubeの新着動画をあさった。
トーストを囓りながら、新着動画の内容・再生数・配信時間をチェックする。
全部を見ている暇はないので、気になるものは「切り抜き動画」で内容を確認。良い数字が出ている動画はスキップして流し見する。
地味だが配信業には大切な作業。
今「何が流行っているのか?」を知っているのは配信者にとって重要なのだ。
それが分からずに配信で「数字」を出すことはできない。
特に私のようなゲーム配信者にとっては死活問題。
早すぎず、遅すぎない、ちょうどいいタイミングで話題作をプレイする。
ゲーム配信者は優れた戦略眼を持たねばならないのだ――。
「PCはチラズアートさんの新作ホラゲの挙動がいいなぁ。据え置きゲーは『FALL GUYS』『Ring Fit Adventure』か。『Among us』も知名度を上げてきてるけど――あれは人数が必要だからなぁ」
ふと「ヒカキン」さんのマイクラ配信を私は再生する。
子供たちの人気者。
日本のYouTuberの代表と言っていい「ヒカキン」さん。
彼の配信は私も参考にしている。
特に彼のマイクラ配信には、私も憧れを抱いていた――。
「こういう配信を私もしたいなぁ」
ふと、ブラウザを最小化して私はデスクトップを眺める。
2列目、一番下に置かれている土ブロックのアイコン。
タイトルは「Minecraft」。
私のPCにはJava版のマイクラが既にインストールしてある。
多くのゲームと異なりマイクラは配信許可を申請する必要がない。収益の有無も関係なく、思い立ったらすぐプレイ動画を配信できる。
やろうと思えばできる。
だが――そこは企業所属のVTuber。
勝手にマイクラ配信ができない事務所の事情があった。
「そう言えば、ゆき先輩、謹慎中はなにしているんだろう?」
パサついた口の中を牛乳で潤しながら、私はおもむろにマイクラを起動した。
サーバーの中から「DStars Server」を選択すると、世界環境が構築されるのを待つ。
しばらくすると、正方形のブロックで構成された世界が目の前に広がった。
案の定、そこに先輩はいた。
ゲーム画面にその姿は確認できない。
しかし、ログインユーザーの一覧に「yuki」の名前があったのだ。
『vanira : konvani!』
配信の挨拶をマイクラのチャットにタイプする。
5秒と待たず返信がきた。
『yuki : unyuxu!』
ゆき先輩のお決まりの挨拶だ。
『yuki : gomen! ima doukutu dakara sugu ikenai!』
『vanira : daijoubu. mondai nai.』
『yuki : kyouha doushita?』
『vanira : yuki senpai irukana tte.』
ゆき先輩からの返事を待たず私は続きをタイプする。
『vanira : ima discord daijoubu desu?』
しばらくすると最小化していたDiscordに着信が入る。
PC筐体の上に置いたヘッドセットを頭につけて私は通話に出た。
「うにゅ! ゆきだよ!」
「こんにちは。ゆき先輩」
「どしたばにら。開発中のマイクラサーバーに入ってきて」
「いや、ゆき先輩がいるかなと思って」
「あはははは。ゆきを探してこんな所まで来たのか。相変わらず、ゆき離れができん奴だなぁ。そんなんだから金盾配信で恥をかくんだぞ?」
「その節は、ご迷惑をおかけしました、バニ」
「まぁ、なんとかなってよかったよかった」
ゆき先輩がDiscordで写真を送ってくる。
いつか訪れた、フィギュアまみれのポスターまみれ、ギャルゲ&エロゲまで混ざったオタ部屋で、彼女は元気そうにダブルピースをしていた。
DStars零期生。
年齢不詳。年齢を公表しているぽめら先輩よりもおそらく年上。
古兵にして筋金入りの女オタク先輩は、炎上を少しも気にしていない様子だ。
それが危なっかしくもあり頼もしくもある。
「というか、なんで謹慎中なのに遊んでるんですか!」
「遊んでるんじゃない! これはデバッグ! 今度やろうとしてる、DStarsのマイクラ配信サーバの動作チェック!」
「いや、鉱石集めてただけでしょ」
「そうとも言う。って、ちょっと待ってクリーパーが!」
「ちょっ、大丈夫ですか、ゆき先輩!」
「くんな! くんなお! ちょっ、やばっ――マグマブロック!」
「ゆき先輩ぁい!!!!」
「あっちゅ! あっちゅあっちゅ! わわっ、クリーパーお前! マグマブロックに飛び込んでくんな! あっ、あっ、やぁーーーーーーっ!」
耳に響くゆき先輩の断末魔。
マイクラに表示される「yukiはクリーパーに爆破された」の文字。
阿鼻叫喚。容赦のない台パンの音。
それから、少し遅れてゆき先輩が鼻水を啜った――。
「うぅっ、ゆきのダイヤ装備がぁ……! また全ロスしたぁ……!」
「どんまいバニ」
「くそがよぉ……!」
1
あなたにおすすめの小説
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる