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第3章 魔王を倒した
第61話 立派な仕事
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俺たちの目の前には和服を着た長身の、貫禄ある姿の男性。
神原姉妹の父親、神原柳氏。
いきなり現れた父親に、神原姉妹は驚きを隠せない。しかし、姉の椿の表情はすぐに怒りと嫌悪感に変わっていった。紅葉ちゃんは怖気づいたのか、椿の後ろに隠れた。
「なんなの、父さん。もう事情聴取は終わったはずよ? 帰らないの?」
怒りを含めながらも、椿は冷静に言った。
しかし、柳氏は厳格な表情を崩さず、俺たちに向かう。
「椿、お前に話がある」
「何よ」
「事件は解決せず、依頼人は何者かに殺害される。最大級の失態だな」
呆れた顔で柳氏は言葉を吐き捨てた。
「……!」
椿はぐっと拳を握り締めた。
「約束は覚えているであろうな。事件を解決できなければ、探偵を辞めて由緒ある常盤神社のために生きよ、という約束を」
柳氏の言葉は冷酷そのものだった。言葉一つ一つは冷静だが、その声音は明らかに椿や紅葉ちゃんに対して向けられた攻撃であった。
俺も額から冷や汗が流れていた。
紅葉ちゃんは口を少し開け、わなわなと体を小刻みにふるわせていた。
場の緊張が一気に高まる。
椿は気を一度胸に手を当てて、気持ちを落ち着けているようだ。
「忘れたとは言わせんよ」
柳氏の発言に返すかのごとく、椿は口を開いた。
「ええ、そうね。確かにそんな約束したわね。だけど、責任は果たせていない」
「何を言い出すのか。依頼人が死んでしまっては、永久に仕事は達成できぬのではないか」
「私たちにとって、信用問題にかかわる事態になっているの。依頼人が殺害された以上、私たちは信用を回復しないといけない。その責任が果たせてないって言ってるの」
椿は冷静な口調をそのままに、語気を強めた。
俺の中で、椿が、依頼人が殺害された直後に言った言葉が反芻していた。
――お客さんあっての探偵業
信用を取り返すには、この事件を解決に導くしかないのだ。
しかし、柳氏は表情ひとつ変えなかった。
「ほう。そこまで言うのなら、梔子夫人を殺《あや》めた犯人がわかったのか?」
「それは、まだだけど……」
一瞬語気を弱めた椿に、柳氏は間髪入れずに攻撃した。
「全くわかっておらぬでないか。“馬鹿の考え休むに似たり“という言葉を知らんのか。その程度で責任を軽々しく語るなど、片腹痛いわ。女は黙って愛想良くしておればいいのに」
「はあ? 仕事に性別が関係あることなの?」
「実績無く責任を語るなと言っておるのだ。事件は警察に任せて、女は帰って家事でもしとれ!」
柳氏の口調が荒くなっていく。
しかし椿は冷静に切り返した。
「警察に協力するのも私たちの仕事なんですけど。あとね、まだ梔子さんを脅迫した犯人を捕まえることはできる。依頼人との約束が果たせなくなったなんて、言わせないわよ」
「ふん、女のくせに口だけは一丁前になりよって……」
すると偶然、柳氏の視線と俺の目が合ってしまった。
俺は必死で目をそらそうとするが、柳氏はそれを許さなかった。
「お主は椿の同級生であった金谷律也くんであったな。椿と一緒にいるということは、椿の探偵ごっこに付き合わされておるのだな」
「ち……違います。俺は椿に雇われて……」
言葉足らずに反論するが、柳氏は聞く耳を持たなかった。
「男が女の遊びに付き合わされるとか、頼りないのう。社会経験がたりておらん」
俺はむっとした。
椿によく注意されるしまだまだ仕事は未熟かもしれないが、一応お金をもらってやっているのだ。椿とともに可能な限り依頼人の期待に添えられるよう努力している。
遊びと勝手に称されるのは癪に障る。
「金谷君もこんな女に振り回されるのではなく、女や子供、自分の部下らを管理し、指導し、あるべき方向に導いていかねば一人前の男にはなれぬぞ。あまり他所の子に言いたくはないのだが、肝に銘じていただきたい」
腕を組んだ柳氏は上から目線で俺に説諭していた。
椿は見かねたのか、椿が俺と柳さんの間に入った。
「父さん、リツに変なこと吹き込まないで」
しかし柳氏はキッと椿を睨みつけた。
「黙っておれ、椿」
「黙りません。部下を守るのも上司の仕事よ」
自分の主張を一方的に押し付け、他人の話を聞く耳も持たない男。もし柳氏が俺の親だったらと思うと、俺は寒気がした。
確かに柳氏の言うことのほんの一部は一理あるかもしれない。だが、今の時代は令和である。性別がどうこう言っていられる時代ではなくなったのだ。
俺もはっきりと柳氏に主張しなければならない。
ここからの発言は、俺も驚くような言葉で放たれていた。
「椿のお父さん。あなたが仰っていることは時代にそぐわない考えだと思います。椿の仕事は決して遊びじゃない。真剣に依頼人の悩みと向き合い、解決を手助けする仕事なんです。椿は、人のためになる仕事をしたいと言ってました。もちろん」
そして俺は紅葉ちゃんに顔を向けた。紅葉ちゃんはそれに気づいたのか、口角を上げて俺に視線を合わせた。
「リツさん?」
「紅葉ちゃんをもとの姿に戻すため、必死で情報をかき集めてます。俺も、力になれてるかはわからないけど、椿のその手伝いをしています。それは、決して“探偵ごっこ”じゃない」
一呼吸置くと、俺はこう言った。
「立派な“探偵業”なんですよ」
そこまで言い切ると、俺は肩で息をしていた。
椿も、紅葉ちゃんも俺を見守っていた。柳氏もいきなりの部外者の発言に開いた口がふさがらなかった。
「リツ……あなた……」
椿が口を開いたが、沈黙はまだ続いていた。
長い沈黙を破ったのは柳氏だった。
「……やはり、金谷君。お主は男として甘いようであるな」
「……」
「立派な仕事なら、家業を継ぎ神社に尽くし、高尚な伝統を守り後世に伝えていくことのほうが大切であろう」
しかし俺は首を横に振った。
「何が大事かを決めるは椿の選択です。椿は人の役に立つことが大切だと思った。彼女の意思を無視しないでください」
そういうと俺は柳氏の顔を見ず、椿と紅葉ちゃんに向かい合った。
「行こう、椿、紅葉ちゃん」
神原姉妹の父親、神原柳氏。
いきなり現れた父親に、神原姉妹は驚きを隠せない。しかし、姉の椿の表情はすぐに怒りと嫌悪感に変わっていった。紅葉ちゃんは怖気づいたのか、椿の後ろに隠れた。
「なんなの、父さん。もう事情聴取は終わったはずよ? 帰らないの?」
怒りを含めながらも、椿は冷静に言った。
しかし、柳氏は厳格な表情を崩さず、俺たちに向かう。
「椿、お前に話がある」
「何よ」
「事件は解決せず、依頼人は何者かに殺害される。最大級の失態だな」
呆れた顔で柳氏は言葉を吐き捨てた。
「……!」
椿はぐっと拳を握り締めた。
「約束は覚えているであろうな。事件を解決できなければ、探偵を辞めて由緒ある常盤神社のために生きよ、という約束を」
柳氏の言葉は冷酷そのものだった。言葉一つ一つは冷静だが、その声音は明らかに椿や紅葉ちゃんに対して向けられた攻撃であった。
俺も額から冷や汗が流れていた。
紅葉ちゃんは口を少し開け、わなわなと体を小刻みにふるわせていた。
場の緊張が一気に高まる。
椿は気を一度胸に手を当てて、気持ちを落ち着けているようだ。
「忘れたとは言わせんよ」
柳氏の発言に返すかのごとく、椿は口を開いた。
「ええ、そうね。確かにそんな約束したわね。だけど、責任は果たせていない」
「何を言い出すのか。依頼人が死んでしまっては、永久に仕事は達成できぬのではないか」
「私たちにとって、信用問題にかかわる事態になっているの。依頼人が殺害された以上、私たちは信用を回復しないといけない。その責任が果たせてないって言ってるの」
椿は冷静な口調をそのままに、語気を強めた。
俺の中で、椿が、依頼人が殺害された直後に言った言葉が反芻していた。
――お客さんあっての探偵業
信用を取り返すには、この事件を解決に導くしかないのだ。
しかし、柳氏は表情ひとつ変えなかった。
「ほう。そこまで言うのなら、梔子夫人を殺《あや》めた犯人がわかったのか?」
「それは、まだだけど……」
一瞬語気を弱めた椿に、柳氏は間髪入れずに攻撃した。
「全くわかっておらぬでないか。“馬鹿の考え休むに似たり“という言葉を知らんのか。その程度で責任を軽々しく語るなど、片腹痛いわ。女は黙って愛想良くしておればいいのに」
「はあ? 仕事に性別が関係あることなの?」
「実績無く責任を語るなと言っておるのだ。事件は警察に任せて、女は帰って家事でもしとれ!」
柳氏の口調が荒くなっていく。
しかし椿は冷静に切り返した。
「警察に協力するのも私たちの仕事なんですけど。あとね、まだ梔子さんを脅迫した犯人を捕まえることはできる。依頼人との約束が果たせなくなったなんて、言わせないわよ」
「ふん、女のくせに口だけは一丁前になりよって……」
すると偶然、柳氏の視線と俺の目が合ってしまった。
俺は必死で目をそらそうとするが、柳氏はそれを許さなかった。
「お主は椿の同級生であった金谷律也くんであったな。椿と一緒にいるということは、椿の探偵ごっこに付き合わされておるのだな」
「ち……違います。俺は椿に雇われて……」
言葉足らずに反論するが、柳氏は聞く耳を持たなかった。
「男が女の遊びに付き合わされるとか、頼りないのう。社会経験がたりておらん」
俺はむっとした。
椿によく注意されるしまだまだ仕事は未熟かもしれないが、一応お金をもらってやっているのだ。椿とともに可能な限り依頼人の期待に添えられるよう努力している。
遊びと勝手に称されるのは癪に障る。
「金谷君もこんな女に振り回されるのではなく、女や子供、自分の部下らを管理し、指導し、あるべき方向に導いていかねば一人前の男にはなれぬぞ。あまり他所の子に言いたくはないのだが、肝に銘じていただきたい」
腕を組んだ柳氏は上から目線で俺に説諭していた。
椿は見かねたのか、椿が俺と柳さんの間に入った。
「父さん、リツに変なこと吹き込まないで」
しかし柳氏はキッと椿を睨みつけた。
「黙っておれ、椿」
「黙りません。部下を守るのも上司の仕事よ」
自分の主張を一方的に押し付け、他人の話を聞く耳も持たない男。もし柳氏が俺の親だったらと思うと、俺は寒気がした。
確かに柳氏の言うことのほんの一部は一理あるかもしれない。だが、今の時代は令和である。性別がどうこう言っていられる時代ではなくなったのだ。
俺もはっきりと柳氏に主張しなければならない。
ここからの発言は、俺も驚くような言葉で放たれていた。
「椿のお父さん。あなたが仰っていることは時代にそぐわない考えだと思います。椿の仕事は決して遊びじゃない。真剣に依頼人の悩みと向き合い、解決を手助けする仕事なんです。椿は、人のためになる仕事をしたいと言ってました。もちろん」
そして俺は紅葉ちゃんに顔を向けた。紅葉ちゃんはそれに気づいたのか、口角を上げて俺に視線を合わせた。
「リツさん?」
「紅葉ちゃんをもとの姿に戻すため、必死で情報をかき集めてます。俺も、力になれてるかはわからないけど、椿のその手伝いをしています。それは、決して“探偵ごっこ”じゃない」
一呼吸置くと、俺はこう言った。
「立派な“探偵業”なんですよ」
そこまで言い切ると、俺は肩で息をしていた。
椿も、紅葉ちゃんも俺を見守っていた。柳氏もいきなりの部外者の発言に開いた口がふさがらなかった。
「リツ……あなた……」
椿が口を開いたが、沈黙はまだ続いていた。
長い沈黙を破ったのは柳氏だった。
「……やはり、金谷君。お主は男として甘いようであるな」
「……」
「立派な仕事なら、家業を継ぎ神社に尽くし、高尚な伝統を守り後世に伝えていくことのほうが大切であろう」
しかし俺は首を横に振った。
「何が大事かを決めるは椿の選択です。椿は人の役に立つことが大切だと思った。彼女の意思を無視しないでください」
そういうと俺は柳氏の顔を見ず、椿と紅葉ちゃんに向かい合った。
「行こう、椿、紅葉ちゃん」
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