異世界バトルキッチン:最強料理人への道~美少女たちを添えて~

雪見クレープ

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第1話 包丁が導く異世界

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 俺は、手に馴染んだ包丁をじっと見つめていた。

 時間をかけて丁寧に研いだ包丁。

 冷たい金属の感触が手のひらに伝わり、その重量感が不思議と安心感をもたらす。

 この包丁で、今までどれだけの料理を作ってきたのだろう。

 だが、その重みとは裏腹に、最近の俺の心はどこか空虚だった。

「何かが違う……」

 自然と口から出た言葉が、自分でも驚くほど寂しさを帯びていた。

 以前は、レストランの厨房で朝から晩まで料理に追われていた。

 まるで戦場のような日々。

 けど、今は……何かが足りない。

 自由に料理がしたいと今はレストランを辞め、料理教室の講師を務めたり、SNSや動画サイトで料理系のコンテンツを発信している。

 確かに自由に料理は出来ている。

 けど、そのたびに感じるこの満たされなさは何だ?

 そんなことを考えながら、俺はふと目の前に置かれた古びた包丁を手に取った。

 地元の中古品市場で偶然見つけたものだ。


 ――数日前、中古品市場にて――


 様々な中古品がある中で、調理器具が並んでいるコーナーを覗く。

 その中のある包丁に目が留まった。

 牛刀。

 少しサビがついているが、刃はまだ鋭さを保っている。

 手入れさえすれば、十分に使えそうだ……。

 しかし、それだけではなかった。

 その包丁には、言葉では説明し難い奇妙な魅力があった。

 引き寄せられるような、そんな感覚だ。

 包丁を手に取りカウンターへ向かう。

「これ、いくらだ?」

 カウンターに包丁をトンと置き値段を聞く。

 店の親父が俺を一瞥した。

「500円でいい。うまく使ってやってくれ……」

 妙に含みのある口調だったが、俺は気にせずそのまま金を払った。

 よくわからないが心の中にわき上がる期待とともに、その包丁を持ち帰った。

 ―――――――――――

 手入れをし、サビを落とした包丁。

 使い勝手はそれなりで、牛刀としての役目を十分果たしている。

 次はこの古びた包丁を研ぐ。

 しかし、包丁を握った瞬間、何かが変わった。

 視界がぐにゃりと歪み、空気が重くなる。

 なんだ、これ……?

 一瞬、頭が混乱した。

 包丁から眩い光が放たれ、俺を包み込む。

 まるで現実が溶けるような感覚が押し寄せ、周囲の景色が消え去っていった。

 俺はどこかへと飛ばされていくようだった……。

 ―――――――――――

 目が覚めると、見知らぬ場所に立っていた。

 俺の前に広がるのは、古びた石畳の街路。

 見たこともない建物が軒を連ね、道をいく人たちは日本人には見えない。

 異様な雰囲気が漂っている。

「ここは……どこだ?」

 手には古びた包丁を握っている。

 怪しまれないようすぐに隠した。

 しばらく街並みを見渡していた。

 空気そのものが、俺の知っているものとは違うように感じる。

「ようこそ、アストリアへ」

 清らかで、けれども凛とした声が背後から響いた。

 振り向くと、そこには一人の女性が立っていた。

 長い、青みがかった白髪が風に揺れ、彼女の気品ある姿が俺の目を引いた。

 彼女の眼差しは、まるで俺のすべてを見透かすかのように、じっとこちらを見つめている。

「あなたがアストリアを救ってくれる料理人なのね」

 俺は彼女の言葉にしばらく戸惑った。

「本当は、お城の儀式の間に呼び出されるはずだったの。けれど、時空のゆがみの影響でここに召喚されちゃったみたい、ごめんなさい」

 お城、儀式、召喚、時空のゆがみ……。

 混乱する頭で必死に考える。

 彼女の言っていることが冗談ではないなら、ここは本当に俺の知っている世界じゃない。

 そして、俺はこの奇妙な場所で、何かを救う(?)ために呼び出された。

「俺が召喚された……? 一体、どういうことだ?」

「詳しい説明は後でするわ。まずはここから離れましょう。こんなところで立ち話してると目立つわ」

 女性は俺に向かって軽く手招きをして、石畳の路地を歩き出した。

 俺は彼女に遅れないように、慌てて後を追う。

「待ってくれ! 一体どういうことなんだ? あなたは誰で、ここはどこなんだ?

 俺の質問に、彼女は振り返らず、ただ淡々と答えた。

「私はイリス・フェルナンディス。このノルティア王国に仕える魔法使いよ。そして、あなたが今いるこの場所、ここはノルティアの王都、ラヴェリウムよ」

 ノルティア? ラヴェリウム?

 どれも聞いたことがない地名だ。

 しかも「魔法使い」なんて、まるでファンタジーの世界の話だろ。

「ちょっと待てよ! 俺はただ家で包丁の手入れをしていたら……こんな場所に飛ばされたんだぞ。まさか、これは夢か?」

 彼女は一瞬だけ振り返り言った。

「その前にあなたの名前を教えてくれるかしら?」

 混乱していて忘れていた。

「俺は天城 陸……。いやリク・アマギか。えっと、リクでいい」

「そう、よろしくね、リクさん」

「で、話を戻して、これは夢なんだろっ?」

「いいえ、信じられないかもしれないけれど、これは夢ではないわ。あなたは確かに、あなたの元いた世界とは別の世界――アストリアに召喚されたの」

 異世界? 俺が? 召喚された?

 またまた頭が混乱する。

 どこかの作家が書いたファンタジーの設定みたいな話だが、これは現実なのか?

「どうして俺なんだ? 俺はただの料理人だ。アストリアを救うとか言ってたが、そんな大それたことができるわけがない」

 歩きながら、イリスはちらりと俺を見た。

「そうね。普通なら、ただの料理人が世界を救うなんて考えられないわ。でも、あなたは特別。その包丁が証拠よ」

 彼女が指差すのは、俺が隠し持っている古びた包丁だ。

「包丁……? これがなんだって言うんだ?」

「その包丁は特別なものなの。アストリアの伝説に語られる、世界を救うための包丁“セレスティアル”……その包丁には古代の魔法が込められているのよ」

 言葉が出ない。

 包丁に魔法が込められている?

 料理人の俺が、魔法の包丁を手にして異世界に呼び出された?

 そんなことが本当に……?

「だからこそ、あなたが必要なのよ」

 イリスは、真剣な表情で俺に言葉をかけた。

「今大きな危機が迫っているの。この国を、いえ、世界を滅ぼすかもしれないほどの脅威が……。そして、その脅威を打ち破るためには、特別な料理……アストリアの運命を変える料理が必要なのよ」

 世界を滅ぼす……?

 世界を救うために料理を作る……?

 冗談みたいな話だ。

 けど、彼女の表情や言葉からは、真剣さが伝わってくる。

「だから、俺がここに呼ばれたってことなのか?」

「ええ。時空のゆがみのせいで、召喚する場所が少しずれてしまったけれど……あなたが無事に来てくれて本当に助かったわ」

 俺は、自分の持っている包丁を再び見つめた。

 あの日、何も知らずに手に取った古びた包丁が、こんな大きな運命を背負っていたなんて……。

「それで、俺はこれから何をするんだ?」

 イリスは歩みを止め、俺に向き直った。

 そして、まっすぐ俺の目を見つめてこう言った。

「まずは王城へ案内するわ。あなたが持っているその包丁を、正しく使うために説明することがいろいろあるの。そして、いずれは世界の運命を賭けた料理を作ってもらうことになるわ」

「世界の運命を賭けた料理……」

「そう。アストリアを救うための最高の料理よ。そしてそのためには、その包丁に選ばれたあなたの力と知識が必要不可欠なの」

 彼女の言葉に、俺はどこか腹の底が熱くなる感覚を覚えた。

 ずっと感じていた空虚感、満たされない感覚が、少しずつ解消されていくような気がした。

「わかったよ。……けど、正直まだ信じられない。料理で世界を救うなんて、馬鹿げた話だと思ってる……。……でも、結構面白そうじゃないか!」

 イリスは満足そうに微笑んだ。

「ありがとう、リクさん。あなたが来てくれて、本当に良かった」

 こうして、俺はまったく予想もしなかった出来事に、異世界アストリアで命を賭けた料理バトルに、巻き込まれることになっていくのだった。
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