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新しい出逢い

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 それは、いつもサボテンがたくさん飾られているカフェには珍しい生花の花束だった。

「サボテン以外の花って珍しいね、あずささん、あんまりサボテン以外に興味ないと思ってた」
「あれは、お客さんにもらったのよ、お菓子と一緒に」
「あずささんってもてるのね」

 ありがちな理由で、50歳を前にして半年前一人暮らしに戻ったわたしがなんとなく引っ越したのはカフェの上の階のアパートだった。
 この街は、前の夫とその愛人だった女に鉢合わせにならない、新しい職場に近い、社会人の娘の住んでいる街とほどほどに近い、で決めたようなものだったけれど、こうやって入り浸る心地のよいカフェがあったのだから人生なにがどう作用するかわからないもので……。

「あら、違うわよ~、のりこさんは今日、そこの神社で裸祭りがあるのは知っているかしら?」
「一応は」

 全国的にすごく有名ではないけれど、数ある裸祭りのなかではそれなりの規模の裸祭りがあることは引っ越してきた時に調べたから知っている。

「規模が大きくなった数年前から、中堅の人が神社から近いお店には何か持ってきてくれるのよ、うちはカフェだからそれがお菓子と花束だけど、コーヒーの詰め合わせだったり、缶ビール詰め合わせだったりするみたいね、迷惑かけるからって、フンドシ姿で」
「フンドシ姿で……」
「笑っちゃうでしょ、中堅っていっても50過ぎのフンドシと羽織の男の人が花束抱えて挨拶にくるのよ」
「見てみたかったな」
「祭りがはじまるちょっと前に紹介してあげるわよ、また挨拶にくるから、それにね、その中堅の人もバツイチなの、おせっかいだったら悪いんだけど」
「おせっかいじゃなわよ、わたしだって、新しくそういう出逢い欲しくないわけじゃないの、ただ前の奥さんと別れた理由は気になるけど」
「……ただしさん、あの、その人ただしさんって名前なんだけど、ただしさんにいい人いたら紹介する前に言ってもいいって言われているから言うけど、前の奥さんパート先の店長と不倫して駆け落ちしちゃったんだって、お子さんも置いて、あっ、息子さん、今は立派に独立してるわよ」
「わたしと似てるわね……」

 にこにこと笑うこのカフェの女主人は人によっては少し距離が近いと感じるのだろうけど、基本的に優しくて善意の塊のような老婦人だ。

 いいタイミングチェーンで、カラカラとカフェのドアが空き、フンドシ姿の、男性が入ってくる。

「この姿でも外は暑い、暑い、あずささん、アイスコーヒー一つ」
「噂をすれば、ね」
「あずささん、オレの噂をしていたんですか?なにを吹き込んですかこの方に」
「やだ~、人聞き悪い言い方しないで、ただしさんがフンドシ姿で花束抱えてくるとこ見てみたかったって話よ」
「そうなんですか?」
「……ええ、まぁ」

 ただしさんはそこそこスマートで鍛えているらしくフンドシ姿でもなかなかきまっていた。

「こちらは、のりこさん、上の階のアパートに越してきて半年なんだけどよくうちの店を贔屓にしてくれるのよ、ちなみに独身」
「あずささんってば、バツイチなのスルーしないで……もうすぐ、お祭りはじまるんですね」
「ええ、酒が入る男ばかりの祭りなのでちょっとうるさいかもしれませんが、迷惑おかけします」
「いえいえ、神事ですもんね」
「そう言ってもらえると助かります」
「でも、本当はちょっと、ただしさんがその姿で花束抱えてくるとこ見てみたかったです」

 若い頃には照れて言えなかったような物言いもできるのは歳を重ねた女の利点かもしれない。

「なんか、照れますね」

 ちなみに、フンドシ姿で花束を持ってくるただしさんを見ることが次の年の祭りの日叶うのだけど、カフェ用の花束とは別の花束を一緒に抱えた、ただしさんにカフェでプロポーズされたのは別の話だ。
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