【完結】毒殺疑惑で断罪されるのはゴメンですが婚約破棄は即決でOKです

早奈恵

文字の大きさ
15 / 42
本編

15.計画の行方

しおりを挟む
 クラウン殿下が頭の中で忙しなく考え事をしているらしいのが見て取れる。



「少なくとも王宮の外に出る時点で二人以上は付きますよね? 侍女も合わせたら少なくとも四、五人は一緒に行動するでしょう」



 城の中とは言っても屋外は広いし狙われやすい。

 この国はまだ内乱や政敵の暗殺が横行する時代から完全に抜け出した訳では無いのだから。



「では……」



 クラウン殿下は自分の間違いに気が付き呆然とした。



「クラウン様……私、二重に騙されてたかも……」

「ルーザリア、キミは本当に嘘は言ってないんだね?」

「もちろんですぅ。だけどこれって、グレイシア様も被害者だったってことですよね?」

「そうか……そうだな。すまなかった。私はてっきりキミが嫉妬して、ルーザリアを陥れようとしたのかと勘違いしてしまったようだ」



 弱々しく微笑みゆるしを乞うように言われたからって、今日の事が無かったことにはならないのだけど、どうして分からないのかしら?

 こんなに悠長な事やってられるのは、広間の扉がクラウン殿下の命により閉ざされているからだ。

 国王陛下夫妻や、殿下に都合の悪い宰相たちが入ってこられない代わりに、この広間からも出ても行けないようになっている。

 不意に何か動く気配で思考が中断された。



 何?



 そう思った時には目の前はヴィクターの背でおおわれ、私は後ろ手にかくまわれた。

 意味が分からず気になって覗くと、フールがそっと動き出したのが見える。



「顔出すな」



 慌てて引っ込んだけど。



 これってフールが何がするかもってこと?



 ある意味密室状態だから、当然フールも逃げられなくて反撃して来ると思ったのだけど、どうやらそれは間違いだったようだ。

 私たちに気付かれたフールは駆け足に切り替えた。



「フールを捕らえよ!」



 何も指示しない殿下に変わりヴィクターが声を上げる。



「はっ!」



 護衛の騎士たちがフールを追うが、この茶番が始まってから周囲の人は端に寄っていて彼の周囲はガラ空き。

 取り押さえる者は群衆のさらに外側にいる為すぐには近寄れない。



 フールは逃げ放題だ。



 しかもここは一階。

 庭に出られる窓ならいくらでもあった。

 フールは迷わずその一つに走っていく。

 きっと窓を蹴破けやぶって逃げるつもりだろう。

 騒然とする会場を騎士たちが動く中、何かがシュッと飛んでいった。



「うっ!」



 フールの動きが一瞬鈍る。

 今度はシュッ、シュッとニ回音がして、フールの足がもつれてそのままバランスを崩す。

 何かが彼の足に刺さったらしい。

 その好機を見逃すほど騎士たちは甘くなく、フールはその場で拘束された。



「ヴィクター。あなたね?」

「何のこと?」



 隣を見れば、さも何も知らないとばかりに小首を傾げてきた。

 でも私は見逃さない。

 彼の胸ポケットにあった三本の生花が消えていて、フールのいた場所にはたくさんの花びらが落ちていた。

 どう見てもただの花ではないと思う。

 私はヴィクターを追求したかったが、会場内は騒然としていてそれどころではなくなってしまった。

 視界の端でガックリと肩を落としたクラウン殿下が見える。

 あぁ、やっと彼女が見た目通りの可憐な女性とはかけ離れた存在だと気付いたようだ。

 こんな衆人環視の中、あれだけの失態を見せたのだから、きっと彼は終わりだろう。

 第一王子のクラウン殿下だけど、彼が消えてもこの国にはあと二人もスペアが居るのだから。

 私は殿下から婚約破棄を言い渡されて、もう関係ないけど。

 そう思っていたのに……。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい

木崎優
恋愛
「君には大変申し訳なく思っている」 私の婚約者はそう言って、心苦しそうに顔を歪めた。「私が悪いの」と言いながら瞳を潤ませている、私の妹アニエスの肩を抱きながら。 アニエスはいつだって私の前に立ちはだかった。 これまで何ひとつとして、私の思い通りになったことはない。すべてアニエスが決めて、両親はアニエスが言うことならと頷いた。 だからきっと、この婚約者の入れ替えも両親は快諾するのだろう。アニエスが決めたのなら間違いないからと。 もういい加減、妹から離れたい。 そう思った私は、魔術師の弟子ノエルに結婚を前提としたお付き合いを申し込んだ。互いに利のある契約として。 だけど弟子だと思ってたその人は実は魔術師で、しかも私を好きだったらしい。

虐げられた令嬢は、姉の代わりに王子へ嫁ぐ――たとえお飾りの妃だとしても

千堂みくま
恋愛
「この卑しい娘め、おまえはただの身代わりだろうが!」 ケルホーン伯爵家に生まれたシーナは、ある理由から義理の家族に虐げられていた。シーナは姉のルターナと瓜二つの顔を持ち、背格好もよく似ている。姉は病弱なため、義父はシーナに「ルターナの代わりに、婚約者のレクオン王子と面会しろ」と強要してきた。二人はなんとか支えあって生きてきたが、とうとうある冬の日にルターナは帰らぬ人となってしまう。「このお金を持って、逃げて――」ルターナは最後の力で屋敷から妹を逃がし、シーナは名前を捨てて別人として暮らしはじめたが、レクオン王子が迎えにやってきて……。○第15回恋愛小説大賞に参加しています。もしよろしければ応援お願いいたします。

婚約破棄はこちらからお願いしたいのですが、創造スキルの何がいけないのでしょう?

ゆずこしょう
恋愛
「本日でメレナーデ・バイヤーとは婚約破棄し、オレリー・カシスとの婚約をこの場で発表する。」 カルーア国の建国祭最終日の夜会で大事な話があると集められた貴族たちを前にミル・カルーア王太子はメレアーデにむかって婚約破棄を言い渡した。

真面目くさった女はいらないと婚約破棄された伯爵令嬢ですが、王太子様に求婚されました。実はかわいい彼の溺愛っぷりに困っています

綾森れん
恋愛
「リラ・プリマヴェーラ、お前と交わした婚約を破棄させてもらう!」 公爵家主催の夜会にて、リラ・プリマヴェーラ伯爵令嬢はグイード・ブライデン公爵令息から言い渡された。 「お前のような真面目くさった女はいらない!」 ギャンブルに財産を賭ける婚約者の姿に公爵家の将来を憂いたリラは、彼をいさめたのだが逆恨みされて婚約破棄されてしまったのだ。 リラとグイードの婚約は政略結婚であり、そこに愛はなかった。リラは今でも7歳のころ茶会で出会ったアルベルト王子の優しさと可愛らしさを覚えていた。しかしアルベルト王子はそのすぐあとに、毒殺されてしまった。 夜会で恥をさらし、居場所を失った彼女を救ったのは、美しい青年歌手アルカンジェロだった。 心優しいアルカンジェロに惹かれていくリラだが、彼は高い声を保つため、少年時代に残酷な手術を受けた「カストラート(去勢歌手)」と呼ばれる存在。教会は、子孫を残せない彼らに結婚を禁じていた。 禁断の恋に悩むリラのもとへ、父親が新たな婚約話をもってくる。相手の男性は親子ほども歳の離れた下級貴族で子だくさん。数年前に妻を亡くし、後妻に入ってくれる女性を探しているという、悪い条件の相手だった。 望まぬ婚姻を強いられ未来に希望を持てなくなったリラは、アルカンジェロと二人、教会の勢力が及ばない国外へ逃げ出す計画を立てる。 仮面舞踏会の夜、二人の愛は通じ合い、結ばれる。だがアルカンジェロが自身の秘密を打ち明けた。彼の正体は歌手などではなく、十年前に毒殺されたはずのアルベルト王子その人だった。 しかし再び、王権転覆を狙う暗殺者が迫りくる。 これは、愛し合うリラとアルベルト王子が二人で幸せをつかむまでの物語である。

醜い私は妹の恋人に騙され恥をかかされたので、好きな人と旅立つことにしました

つばめ
恋愛
幼い頃に妹により火傷をおわされた私はとても醜い。だから両親は妹ばかりをかわいがってきた。伯爵家の長女だけれど、こんな私に婿は来てくれないと思い、領地運営を手伝っている。 けれど婚約者を見つけるデェビュタントに参加できるのは今年が最後。どうしようか迷っていると、公爵家の次男の男性と出会い、火傷痕なんて気にしないで参加しようと誘われる。思い切って参加すると、その男性はなんと妹をエスコートしてきて……どうやら妹の恋人だったらしく、周りからお前ごときが略奪できると思ったのかと責められる。 会場から逃げ出し失意のどん底の私は、当てもなく王都をさ迷った。ぼろぼろになり路地裏にうずくまっていると、小さい頃に虐げられていたのをかばってくれた、商家の男性が現れて……

婚約破棄された令嬢、教皇を拾う

朝露ココア
恋愛
「シャンフレック、お前との婚約を破棄する!」 婚約者の王子は唐突に告げた。 王太子妃になるために我慢し続けた日々。 しかし理不尽な理由で婚約破棄され、今までの努力は水の泡に。 シャンフレックは婚約者を忘れることにした。 自分が好きなように仕事をし、趣味に没頭し、日々を生きることを決めた。 だが、彼女は一人の青年と出会う。 記憶喪失の青年アルージエは誠実で、まっすぐな性格をしていて。 そんな彼の正体は──世界最大勢力の教皇だった。 アルージエはシャンフレックにいきなり婚約を申し込む。 これは婚約破棄された令嬢が、本当の愛を見つける物語。

【完結】幼い頃からの婚約を破棄されて退学の危機に瀕している。

桧山 紗綺
恋愛
子爵家の長男として生まれた主人公は幼い頃から家を出て、いずれ婿入りする男爵家で育てられた。婚約者とも穏やかで良好な関係を築いている。 それが綻んだのは学園へ入学して二年目のこと。  「婚約を破棄するわ」 ある日突然婚約者から婚約の解消を告げられる。婚約者の隣には別の男子生徒。 しかもすでに双方の親の間で話は済み婚約は解消されていると。 理解が追いつく前に婚約者は立ち去っていった。 一つ年下の婚約者とは学園に入学してから手紙のやり取りのみで、それでも休暇には帰って一緒に過ごした。 婚約者も入学してきた今年は去年の反省から友人付き合いを抑え自分を優先してほしいと言った婚約者と二人で過ごす時間を多く取るようにしていたのに。 それが段々減ってきたかと思えばそういうことかと乾いた笑いが落ちる。 恋のような熱烈な想いはなくとも、将来共に歩む相手、長い時間共に暮らした家族として大切に思っていたのに……。 そう思っていたのは自分だけで、『いらない』の一言で切り捨てられる存在だったのだ。  いずれ男爵家を継ぐからと男爵が学費を出して通わせてもらっていた学園。 来期からはそうでないと気づき青褪める。 婚約解消に伴う慰謝料で残り一年通えないか、両親に援助を得られないかと相談するが幼い頃から離れて育った主人公に家族は冷淡で――。 絶望する主人公を救ったのは学園で得た友人だった。   ◇◇ 幼い頃からの婚約者やその家から捨てられ、さらに実家の家族からも疎まれていたことを知り絶望する主人公が、友人やその家族に助けられて前に進んだり、贋金事件を追ったり可愛らしいヒロインとの切ない恋に身を焦がしたりするお話です。 基本は男性主人公の視点でお話が進みます。 ◇◇ 第16回恋愛小説大賞にエントリーしてました。 呼んでくださる方、応援してくださる方、感想なども皆様ありがとうございます。とても励まされます! 本編完結しました! 皆様のおかげです、ありがとうございます! ようやく番外編の更新をはじめました。お待たせしました! ◆番外編も更新終わりました、見てくださった皆様ありがとうございます!!

婚約者を妹に奪われた私は、呪われた忌子王子様の元へ

秋月乃衣
恋愛
幼くして母を亡くしたティアリーゼの元に、父公爵が新しい家族を連れて来た。 自分とは二つしか歳の変わらない異母妹、マリータの存在を知り父には別の家庭があったのだと悟る。 忙しい公爵の代わりに屋敷を任された継母ミランダに疎まれ、ティアリーゼは日々疎外感を感じるようになっていった。 ある日ティアリーゼの婚約者である王子と、マリータが思い合っているのではと言った噂が広まってしまう。そして国から王子の婚約者を妹に変更すると告げられ……。 ※他サイト様でも掲載しております。

処理中です...