短編集「空色のマフラー」

降羽 優

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空色のマフラー

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 どうしてあんなことを、わたしはしてしまったんだろう……今は後悔しかない。
 親友であった知美ともみに、あの時、ちゃんと話していれば、今でも変わらず親友でいられたのだと思うと、わたしはあの時にとった、自分の行動を今でも後悔している。

 夏休みが終わり、まだ夏の余韻がぬけきらない九月のなかば、帰り道の途中にあるガラス張りの本屋の中に、用事があると言って先に帰ったはずの知美の姿を、わたしは見つけた。真剣に棚の上の方を探しているその顔を見て、驚かそうと思い、わたしはそっと知美のいる本屋へと入っていったんだ。
 本屋には独特の匂いがある。嫌いではないその匂いの中、日当たりの良い雑誌棚の奥に彼女は背伸びをするように佇んでいた。本を探す指先が何冊かの本のあたりで泳ぐ、本棚の奥ばったそこには、手芸コーナーと可愛らしいPOPが付けられていた。
 そっと近付いたわたしに気がつきもせず知美は本に集中している。驚かすのも悪いと思い、しばらく後ろからその様子を見ていた。
「毛糸の編み方、基本のき」
「初めての手編み」
 どうやら手編みにチャレンジするようだ。覗き見も悪いと思い。横に並び声を掛ける。
 わたしの顔を見た知美の反応が面白くて、わたしは思ったより騒いでしまい、危なく本屋から追い出されそうになったのだった。
「ゴメン、驚かしちゃったよね」
「いいよ、悪気があったわけじゃないでしょ」
 居ずらくなった本屋を出て、公園のベンチに席を探す。子供たちの声の響く公園にはちょうど良い木陰のベンチがあった。自販機でカフェオレを探し、知美に渡す。ばつが悪そうに彼女はわたしに話し始めた。
「手編みのマフラープレゼントしたいんだ……」
 恥ずかし気に話す知美の顔と、ベンチに届く九月の日差しは不安げに揺れていた。
 
 クラスの仲の良い男の子の誕生日にプレゼントとしてあげたい。
 分かるよ、その気持ち。
 彼の誕生日までに今から準備しているんだよね。
 偉い、褒めてあげたいぐらい。
 でも、わたしは知ってしまっていたんだ。

 彼がもうすぐ居なくなることを……。
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