蒼天の風 祈りの剣

月代零

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第一章 魔法使いの弟子

#2

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 気が付くと、男は布張りの簡素な長椅子に寝かされていた。傷は手当されている。剣や持っていた荷物も、傍らに置かれていた。
 痛む傷口を庇いながら身を起こすと、先程の少年と視線がかち合った。テーブルの向こうの椅子に腰かけて足を組み、目深に被ったフードの下からじっとこちらを見据えてくる。

「……君が助けてくれたのか。改めて礼を……」

 しかし、言いかけた男を少年は容赦なく遮る。

「起きたなら答えてもらおうか。これは何だ」

 少年は顎でテーブルの上を指す。
 それは、男が持ち込んだ、一振りの剣だった。鞘は銀細工で飾られ、高価なものであることが一目でわかる。柄には彼らの暮らすレーヴェ王国王家の紋章である、有翼の獅子が刻まれていた。
 そして、剣の下には様々な文字が書かれた円――おそらくは魔法陣――が描かれた紙が敷かれている。男が持っていた時には、剣からはなんとも言えない、触れていると気分が悪くなるような気配が漂っていたのだが、魔法陣のおかげか、緩和されているようだった。

「この剣にどんな術がかけられているのか、貴殿にはわかるのか?」
「聞いているのはこちらだ。答えろ」

 少年はひたとこちらを睨みつけてくる。その視線は刃のようで、口調は有無を言わさないものだった。
 男は思わず気圧され、姿勢を正すが、

「エディ。あまり人を脅かすな」

 奥の扉が開かれ、一人の女性が現れた。寝間着姿で、怪我でもしているのか、動きがぎこちない。しかし、その目には力があり、顔に刻まれた皺は年齢を感じさせるが、その振る舞いからは迫力が感じられた。

「師匠……。おとなしく寝ていてくださいよ」

 エディと呼ばれた少年は、呆れたような視線を女性に向ける。

「そんなものを持ち込まれて、おとなしくしていられると思うか」

 女性は身体を引きずるようにやってきて、少年の隣の椅子に、背中を庇いながら腰かけた。

「弟子の無礼は詫びよう。ともかく、話を聞かせてもらいたい。わたしは魔術師ベアトリクス。あれは弟子のエドワード。貴殿はもしや、わたしに用があって来たのではないか?」
「その通りです」

 男は居住まいを正す。

「わたしは第二王子ユリウス殿下の近衛騎士、アーネスト・エインズワースと申します。このような形で押し掛けた無礼を、どうかお許しください。ベアトリクス殿、あなたのお力を貸していただきたいのです」

 ふむ、とベアトリクスは顎に手を当てる。

「話が長くなりそうだな。エディ、茶でも淹れてもらおうか」

 尚もアーネストに厳しい視線を向けていた少年は、言われて渋々という風に席を立った。
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