ネコチャンは激怒した

月代零

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猫の朝は早い

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 猫は激怒した。必ず、かの惰眠を貪るかいぬしを起こさねばならぬと決意した。
 猫にはヒトのスケジュールがわからぬ。猫は猫である。気まぐれにヒトと戯れ、お気に入りの場所で寝て暮らしてきた。けれども空腹に対しては、人一倍に敏感であった。
 猫の食事より、自分の睡眠を優先するとは許せぬ。猫の下僕たる資格なし。
 まだ日が昇るか昇らないかの未明、猫は自分の寝床を出て、かいぬしの布団に向かう。
 かいぬしは気配を感じて目を覚ましたようだが、起き出そうとはしない。

「……まだご飯の時間じゃないよ……」

 もごもごと言って寝返りを打つ。
 しかし、猫には知ったことではない。腹が減った。それが全てだ。この欲求は、可及的速やかに満たされなければならない。

 起きるのだ!

 必殺の肉球パンチを、かいぬしの頭に浴びせる。

「ちょっ、痛いって……」

 布団を被ってパンチを防ごうとするかいぬし。しかし、猫はそんなことでは諦めない。びしばしと、連続でパンチをお見舞いする。だが、かいぬしもしぶとく抵抗する。
 猫は攻撃方法を変え、布団に、そしてはみ出ているかいぬしの指に噛みつく。布に歯を立てると、ブチブチバリバリと小気味よい音がした。

「おいおい、やめてってば……」

 前脚を動かした拍子に、枕の布地に爪が引っかかる。この丸みといい、爪研ぎにちょうどいいかもしれない。爪を立て、バリゴリと両の腕を前後に動かす。

「あああ、そこで爪研ぎしないで……」

 頭を振りながら、かいぬしはついに起き上がる。枕カバーに穴が……などとぼやいているが、猫には何のことだかよくわからない。
 かいぬしは時計を確認し、仕方ないなあと呟いた。

「ほら、ご飯にしよう」

 ごはん。猫にはヒトの言葉の全ては理解できないが、共に暮らすうちにそれが何を指すのかはわかるようになった。

 ごはん。おやつ。

 それは空腹を満たす、甘美な響き。
 嬉しい言葉も覚えたが、同時に「くすり」や「びょういん」など、嫌なことが起こる前触れとなる言葉も理解した。それが聞こえた時は全力で威嚇するが、かいぬしはものともせずに猫を網目状の袋に詰めて、あんなことやこんなことを……。思い出すのもおぞましい。
 まあ、今はそれはどうでもいい。とにかく、ごはんだ。

「はい、おまたせ」

 カラカラと、猫のご飯カリカリを皿に出す音が響き、食欲を刺激する良い匂いが漂う。ほどなくして、猫の前に皿に盛られたご飯が差し出される。猫は待ってましたと、それにかぶりついた。

「おいしい?」

 かいぬしは猫が食べる様子を満足そうに眺めている。そして、もうひと眠りしよう、と呟くと、布団に戻っていった。
 猫も目の前の皿が空になると、顔を洗い、手を舐めて、体中の毛繕いをする。そうして満足すると、いそいそとお気に入りの寝床に移動し、丸くなるのだった。


――了
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