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黒猫少女との出会い
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わらわには瑠衣という名前があるが、誰が付けたわけでもない。
どこかの看板で見たその文字が気に入って、自分でそう名乗っておるだけである。
そのわらわは住処もない、食べ物もない。
仲間もおらぬ。
たまに出会う猫はわらわに敵意を剥き出しにし威嚇してくる。
わらわは怖くて逃げ出す。
雨が降れば冷たく、慌てて屋根のある所を探し、風が吹けば土管の中に身を隠して、寒さに震えながら風が止むのを祈る日々。
腹が減った……。
公園で水道の蛇口を人間が使用した後、運良く閉め忘れや閉めが甘かった時に流れる水を啜る日々。
偶然地面に落ちていた食べかけの弁当を食べてから、もうかれこれ七日くらいは何も食べておらぬ。
空腹でふらふらしながらおこぼれを恵んでもらおうと一度鮮魚店の老店主に擦り寄ったら、
「黒猫は縁起が悪い! シッシッ!」
と手の甲を突っぱねられて追い払われてしまった。
あれからしばらく歩いていたが、道行く者は誰もわらわに情けをかけてくれぬ。
この辺りの人間は『黒猫は縁起が悪い』と思っておると学習をする。
もしもわらわが人間だったら、どうにかして飯にありつけるかもしれない。
いや、それもどうやるのかなんてわからない。
それにわらわは猫である。
猫であるが黒猫であるがために何故か追い払われる。
なんということじゃ、八方塞がりではないか。
肋骨が浮き出て痩せ細っていく体、日に日に力が入らなくなっていく四肢、命が尽きるのも時間の問題。
わらわは死にたくない……。
力の入らぬ足でふらふらと道を四足歩行で歩いておると、前から学生服を着た男子生徒が歩いてくる。
どうせ情けはかけてくれぬじゃろうが、このままではわらわは行き倒れで死んでしまう。
一か八か、足元に擦り寄ってみる。
これで追い払われても、もうわらわは逃げる体力も残っておらぬ。
「にゃあー……」
もう声もかすれかけておる。
男子生徒は立ち止まってわらわを視認すると、しゃがみ込んでわらわの頭を撫でてくる。
撫で方はとても優しく、思わず目を細めてしまうような絶妙な力加減である。
「どうしたの? めちゃくちゃ声が枯れてるじゃないか」
と大切なものを扱うような手つきでわらわの体を触り、
「痩せてる……、ちょっと待ってね」
とカバンの中を探り始め、透明な紙に包まれたものを取り出した。
それを広げると、中から白い握り飯が姿を現した。
それを男子生徒はわらわに差し出してくる。
わらわは男子生徒の手から夢中になって握り飯を食らう。
空っぽだった胃袋にほんのり塩の効いた米が染み渡る。
美味い。
今まで食べたどんな食事よりも美味いぞ!
あっという間に平らげてしまう。
まだ足りぬような気もするが、さっきまで力の入らなかった四肢に若干力が戻ってくる。
とりあえずこれで命拾いをした。
どこかの看板で見たその文字が気に入って、自分でそう名乗っておるだけである。
そのわらわは住処もない、食べ物もない。
仲間もおらぬ。
たまに出会う猫はわらわに敵意を剥き出しにし威嚇してくる。
わらわは怖くて逃げ出す。
雨が降れば冷たく、慌てて屋根のある所を探し、風が吹けば土管の中に身を隠して、寒さに震えながら風が止むのを祈る日々。
腹が減った……。
公園で水道の蛇口を人間が使用した後、運良く閉め忘れや閉めが甘かった時に流れる水を啜る日々。
偶然地面に落ちていた食べかけの弁当を食べてから、もうかれこれ七日くらいは何も食べておらぬ。
空腹でふらふらしながらおこぼれを恵んでもらおうと一度鮮魚店の老店主に擦り寄ったら、
「黒猫は縁起が悪い! シッシッ!」
と手の甲を突っぱねられて追い払われてしまった。
あれからしばらく歩いていたが、道行く者は誰もわらわに情けをかけてくれぬ。
この辺りの人間は『黒猫は縁起が悪い』と思っておると学習をする。
もしもわらわが人間だったら、どうにかして飯にありつけるかもしれない。
いや、それもどうやるのかなんてわからない。
それにわらわは猫である。
猫であるが黒猫であるがために何故か追い払われる。
なんということじゃ、八方塞がりではないか。
肋骨が浮き出て痩せ細っていく体、日に日に力が入らなくなっていく四肢、命が尽きるのも時間の問題。
わらわは死にたくない……。
力の入らぬ足でふらふらと道を四足歩行で歩いておると、前から学生服を着た男子生徒が歩いてくる。
どうせ情けはかけてくれぬじゃろうが、このままではわらわは行き倒れで死んでしまう。
一か八か、足元に擦り寄ってみる。
これで追い払われても、もうわらわは逃げる体力も残っておらぬ。
「にゃあー……」
もう声もかすれかけておる。
男子生徒は立ち止まってわらわを視認すると、しゃがみ込んでわらわの頭を撫でてくる。
撫で方はとても優しく、思わず目を細めてしまうような絶妙な力加減である。
「どうしたの? めちゃくちゃ声が枯れてるじゃないか」
と大切なものを扱うような手つきでわらわの体を触り、
「痩せてる……、ちょっと待ってね」
とカバンの中を探り始め、透明な紙に包まれたものを取り出した。
それを広げると、中から白い握り飯が姿を現した。
それを男子生徒はわらわに差し出してくる。
わらわは男子生徒の手から夢中になって握り飯を食らう。
空っぽだった胃袋にほんのり塩の効いた米が染み渡る。
美味い。
今まで食べたどんな食事よりも美味いぞ!
あっという間に平らげてしまう。
まだ足りぬような気もするが、さっきまで力の入らなかった四肢に若干力が戻ってくる。
とりあえずこれで命拾いをした。
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