Hotひと息

遠藤まめ

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1章 出会いと疲れ

【5話】似てるようで違う人

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 あの男との会話から数日経ち、拓也はその答えを求めていた。
別に聞かれたわけではない答えがあるのでもない。ただ自分の中にあるもやもやを解消したいがために考えていた。
そんな日の午後、お昼時から少し落ち着き客の数も減ってきたときのこと。裏口から誰かが入る音がした。いつもなら気になることではないが今日は別だった。なぜなら店長も寧々も美緒も皆いるのだ。
拓也は混乱というほどではないが若干の違和感を感じた。ゆっくり裏口を見るとそこには少女がいた。

 決して元気とは言えない気だるさをたまにつくため息から察した。ボブの髪型で黒い髪に紫髪が一部はいっていてザ・地雷系といった服装と雰囲気を持つその少女は数秒拓也を見るも何も言わずにため息とともに更衣室へと足を運んだ。
「あら、空ちゃん久しぶりぃ。また一段と可愛くなったねぇ」
店長のその一言で拓也は背後に人がいることに気づいた。慌てて仕事に戻るも「空ちゃん」と呼ばれていた彼女のことが気になっていた。

特に誰かと話をするわけでもなく淡々と完璧と言っても過言ではない仕事ぶりを見せた。
それこそ今までともに働いてきた寧々と美緒よりもはるか上の技術を持っているといわざるを得ないものだった。

 休憩時間中、拓也は休憩室でゆっくりしていたところドアが開けられ空が入ってきた。拓也は一瞬焦りつつもすぐに空のもとへ行き
「す、すいません、ちょっと前に新しく入りました佐藤拓也です。よろしくお願いします」
そう自己紹介をした。しかしその少女は携帯から目を離さず一度も拓也を見ることなく
「………新田空…」
そう一言言った。
「あ!そういえばさっき凄かったですね」
「……何が?」
「色々完璧にこなしてて自分じゃ絶対に気づかない所まで気にかけててかっこよかったっす!」
「……そりゃどうも」
空気の重さに耐えきれず拓也から話しかけるも一言で終わってしまい決して言葉のキャッチボールとは言えない会話もどきが続いた。
「……はぁ…」
大きなため息と同時に空は休憩室を出た。仕事に戻ったのだろう。

「やめときなさいよ。アイツとろくに会話できるのなんててんちょーくらいなんだから」
先程あったことを休憩しにきた美緒に話すとこういった。
「って言ってもあの空気に耐えられねぇって…」
拓也もそう言って小さくため息をついた。
拓也と年齢が近そうな美緒は仲は決して良くなかったがお互いに会話がしやすかった。
二人には自然と敬語も忘れ友達に近い感覚であった。

 業務が終わった帰り、拓也は空のことを考えていた
自分と似ていて常に気だるげな様子とテンションは低い。しかし明らかに自分とは違った雰囲気を持っている。
そっくりだけどそっくりじゃない感覚が拓也にあった。

あの先輩苦手だなぁ……。これからどうしよ…

拓也はそんなことを思いながら帰宅した。
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