Hotひと息

遠藤まめ

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1章 出会いと疲れ

【10話】疲れと悩み

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 空はゆっくりと話し始めた。
「単刀直入に言う。私はね、『人の悩みを吸収する』体質らしいの」
……は?拓也には理解できなかった。体質?人の悩みを吸収?漫画みたいなことを言い始める空に早くも拓也はついていけなくなった
空は混乱する拓也を無視し語り続けた
「体質って何?って話よね。まぁ生まれつきあった能力だと思ってくれて構わないよ。とにかく、その体質が生まれた頃からあった。幼い頃は周りのみんなは深く悩むことはなかったしやりづらいこともなかった。楽しく生きていけた。」
店長の言っていた小学生の頃は今とは違っていたという言葉の辻褄があった。たしかに幼いうちに深く悩む人は少ない。吸収する量も少ない。拓也は納得がいった。
「でも中学あたりからかな?思春期になってく子が増えての吸収量は増えていった。仲の良かったお隣さんも引っ越しちゃって…吸収した悩みは増えてく一方だった。」
お隣さんという言葉から空はお隣さんが店長であるということに気づいていない様子だったが拓也はそれを指摘することはなかった。
「吸収した悩みから生じる疲れっていうのは基本的に消せない。この能力の残念なところだよね…。人がいない静かなところで休めば疲れが取れるっぽいけどほんとに少量。でも不思議なことに店長が作る飲み物を飲むとそれがかなり減っていく気がした。」
「わかります。俺も店長のブラックを飲んだときに疲れがかなり取れた気がしたんです」
拓也も空の言っていることに心当たりがあった。
「うん。でももっと不思議なことに君が近くにいるとその疲れはものすごいスピードで取れていく。場合によっては店長の飲み物よりもすごい効力で」
「………ぇ…」
拓也はその時言葉が出なかった。俺が近くにいるだけで疲れが取れる…?
「私ね、近くにいる人の悩みを吸収するからその悩みの内容もうっすらとわかるの。でも君からはそれがなかった。それどころか悩みを吸収することすらなかった」
拓也は困惑しながらも空の話を聞いていた。
「じゃあ俺もなんかの体質が…ってことすか?」
拓也は興味本位で聞いた。が、空は横に首を振った。
「もし君にそんな体質があったとしたら私の悩みが見えてたはず。わざわざ私に聞きに来ることだってないでしょ?」
その通りだった。拓也は周りの人の近くにいて悩みを感じ取ったことは一度もなかった。
ではなぜ近くにいるだけで疲れが取れるのか。
「ではなぜ疲れを取れるのか。ここがわからない。でも君が体質持ちでないことを強く願うことしか言えない。私みたいに苦しい思いしてほしくないもん」
「いやそれは…」
「じゃ、帰るね…これ以上は詮索しないほうがいいよ。君のためにも」
そう言うと空は坂をおりていってしまった。
「……結局あんたの疲れの本質は取れずじまいじゃねぇか…」
拓也は悔しくも自分や空の体質のことばかりを考えた結果本当の目的を果たせていないことに気づき後悔と一人で抱えこもうとする空に苛立ちを隠せなかった。
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