Hotひと息

遠藤まめ

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2章 学校と疲れ

【9話】前日祭

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 拓也のクラスも、寧々のクラスも準備が終わりあとは文化祭を待つだけの日、学校は少しにぎやかだった。その理由は
「前日祭どうすんだ!?」
前日祭と言われるものがあるからだ。
拓也の学校では「前日祭」と呼ばれる文化祭の前日にちょっとした出し物をする日である。教師で組まれたチームのバンドや大規模なマジックショーやミニ演劇など様々な出し物がある。
「どうするも何もなんか適当にすごすわ」
拓也は太志にそう返答した。
「拓ちゃん!」
そう言い教室へ入ってきたのは紛れもない寧々である。
「先輩、どうしました?仕掛けが足りないとか?」
「んーん、そうじゃなくて!拓ちゃんが良ければウチの友達が出てるマジックショーを一緒に見に行かないかなーって」
「えぇ!?」
寧々の言葉聞いたとたん反応したのは太志だった。
「いいですよ。何時からですか?」
拓也は太志の頭を叩き寧々の誘いを受けた。
「ほんと!11時半からだよ」
「あと1時間くらいか…適当に時間を潰して会場まで行きますね」
「一緒に待ってようよー」
ふくれっ面をしながら寧々は言った。
「あ!じゃあ俺の部活仲間がやってる出し物のゲームセンターとか行ってこいよ!」
太志が何を思ったのか拓也にウィンクしてそう提案した。
「おお!それだぁ!拓ちゃん一緒にそこ行こ!」
寧々もそれを聞き目を輝かせて言った。
「は、はぁ…」
拓也もそれに圧倒され行くことにした。

「拓ちゃん!今度はこれやろ!」
もぐら叩きを指差し寧々は拓也に提案した。
「ええ…それもう5回目じゃないすか…」
かれこれ一時間様々なゲームを楽しんでいた。寧々を中心として。憶測に過ぎないがカップルや仲のいい友達とくる人が多くてそれを恨む嫉妬の念や準備などの疲れを吸収しているのだろう。
「何回やっても楽しいよ!これ!」
「まぁいいですけどこれ終わったら会場に行きましょうか」
拓也がそう提案すると寧々は笑顔で「うん!」と言った。

 マジックショーが開演し、トランプのマジックから始まりかなり本格的で種がわからないものまで完璧にこなしていた。拓也は驚きながら言ったそれを見ていると。
「拓ちゃん、本当にありがとね。拓ちゃんのおかげで今めっちゃ楽しめてる」
「いえいえ、別にちょっと手伝っただけですよ。ほとんどは寧々先輩の頑張りです」
「へへ…」
寧々は手伝ってくれたことに感謝するが拓也に逆に称賛されてしまい照れていた。
「ウチね、今まで手伝ったことしかなくて手伝ってもらったことなんてほんとに稀。だから嬉しかったんだ。どこか疲れてたウチを助けてくれて、拓ちゃん…」
「わあぁぁぁ!!」
大技を披露したのか観客の驚く声が寧々の言葉をかき消した。
寧々は満面の笑みでこちらを見ていて拓也は聞き返すことをせずマジックショーを楽しんだ。

「何やってんだよ!」
教室に戻るとクラスの男子の怒鳴り超えが聞こえた。
「なんだ!?」
拓也が慌てて入ると冷凍庫に集まる人たちでいっぱいだった。
太志は拓也を見つけるなり駆け寄り説明した。
「いやな、どうやら酒井さんが冷凍庫のコンセントに足を引っ掛けたらしいんだけどそのまま行っちゃったらしく冷凍庫の中のアイスが溶けちゃったらしい」
「マジか…」
メガネをかけた背の低い少女、酒井香菜は皆へペコペコと頭を下げていた。
「おいどうするんだよ!せっかくデザートができるってなったのに!」
スイーツを入れたいという人が多く、何とかできたということもあってそれが台無しになっているとなると皆の怒りも当たり前と言わざるを得なかった。
「ま、まぁまぁ!俺が明日買ってくるから!それで許してあげようぜ!別に酒井さんもわざとじゃないんだし」
「ま、まぁ佐藤がそう言うなら…」
このデザートメニューの発案者というのもあって拓也が許すとなれば周りの人も許す雰囲気になっていった。
「あ、ありがとうございます…」
「次からは気をつけて、あと冷凍庫の後ろは通らないようにね」
「は、はい…」
香菜は元気なく言った。

少々のトラブルはあったが前日祭は大事もなく終了した。
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