1 / 8
第1章
プロローグ
しおりを挟む
朝、木々の隙間から差し込む木漏れ日が緩やかに流れる川面に反射されキラキラと輝く。鳥のさえずりと風に揺らされる木の葉の音だけが響き、一枚の絵に相応しい爽やかで緩やかな山の中を一人の少年が駆け下りる。その場所には明らかに似合わないグレーを基調とした高校の制服を着て細い小川を飛び越え、倒れかけた木の枝を鉄棒のようにして身を飛ばす。
「おはよう、カジさん!」
曇りない晴れやかな笑顔、黒髪にさっぱりとした短髪で中肉中背のまさに平凡といった少年、奏人が挨拶をする。何気ない日常的な風景。ただ一つおかしな点を上げるとすればその挨拶の対象は人間ではないということだろうか。
「……うるせぇなぁ…二日酔いの相手に出していい声量じゃねえだろうが……」
爽やかな挨拶を前に悪態をつく者は睨みを効かせながら頭の上に乗る皿に両手ですくった川の水を優しく注ぐ。緑色の肌、鋭い爪に指の隙間の水かき、アヒルのようなくちばし、その人間離れした姿は絵に書いたような河童であった。
「また呑み過ぎ?花見は来週じゃなかったっけ」
「花見じゃなくても酒は飲めるんだよ。それよりなんでまたそんなにご機嫌なんだ?いつも以上に鬱陶しい」
「冷たいなぁ。今日は高校の入学式だっていうのに」
「コーコー?ああ、あの人間の…お前もしっかり親父の血を引いてるよな。人間と半日過ごすなんて気が狂っちまいそうだ」
うげぇと舌を出しえずくふりをするカジ。奏人はその反応を無視し目を輝かせる。
「半分は人間なんだし、別に人間と触れ合うのだっておかしくないでしょ」
「はぁ…。もう半分は妖怪じゃねえか。あんな恐ろしい生き物と馴れ合うなんてイカれてるとしか思えねえよ。だいたいキクさんもなんで学校なんて許しちまったんだ…」
「だいたいそんな目の敵にしなくてもいいじゃん。母さんが許したってことは大丈夫って思ったってことでしょ」
「お前なぁ…。いいか、人間ってのはな──」
「あー!はいはいいつもの昔話はいいから!もう行かなきゃだし、じゃあね!」
「あ!おいこらカナト!!」
もの憂うような表情で話し始めるカジにいつもの昔話が始まると思った奏人は駆け出し小川をまた飛び越す。ガチャガチャと音を立てるリュックを揺らし道なき草木を駆け抜ける。
しばらく走っていくと木々の隙間から人工的なコンクリート製の道路が見えてくる。何気ない道ですら奏人には新鮮で学校というものへの感情が高ぶっていく。
もうすぐ俺もあの日見たような高校生に─
山の木々を抜け、開けた景色はまるで異国のように感じた。見たこともない外観の家が当たり前のように並び、一軒一軒に柵が使われ庭がある。数回人間の街に訪れたことはあるがいまだに慣れない。初の通学に鼻を膨らまし意気揚々と一歩を踏み出す。思い返せば高校生に憧れたきっかけはこの通学にあったのだと思う。
なんてことはない日、奏人がまだ10歳になったばかりほどのこと。母親のキクと人間の商店街へ行った際たまたま見かけた高校生が奏人の目にはかなり輝いて見えた。とくに目立ったことをするわけでもない。ただ友人と隣あって歩きゲラゲラと笑うその姿が一段と美しく見えたのだ。聞けば奏人でも行けるというのだから驚きだ。憧れた高校生に自分もなれると知りいろんな妖怪に自慢した。みな揃って反対したが奏人には全く持って効くことがなかった。母親も反対はしなかった。
目の前に広がる校舎。桜舞い散る春、たくさんの人間が笑顔で正門を通っていく。教師に挨拶する者、談笑しながら入っていく者、あの時と変わらない夢にまで見た高校生活が目の前に広がっていた。
「華の高校生活、まずは友達からだな…」
高鳴る鼓動と逸る気持ちを胸に正門を通っていくのだった。
「おはよう、カジさん!」
曇りない晴れやかな笑顔、黒髪にさっぱりとした短髪で中肉中背のまさに平凡といった少年、奏人が挨拶をする。何気ない日常的な風景。ただ一つおかしな点を上げるとすればその挨拶の対象は人間ではないということだろうか。
「……うるせぇなぁ…二日酔いの相手に出していい声量じゃねえだろうが……」
爽やかな挨拶を前に悪態をつく者は睨みを効かせながら頭の上に乗る皿に両手ですくった川の水を優しく注ぐ。緑色の肌、鋭い爪に指の隙間の水かき、アヒルのようなくちばし、その人間離れした姿は絵に書いたような河童であった。
「また呑み過ぎ?花見は来週じゃなかったっけ」
「花見じゃなくても酒は飲めるんだよ。それよりなんでまたそんなにご機嫌なんだ?いつも以上に鬱陶しい」
「冷たいなぁ。今日は高校の入学式だっていうのに」
「コーコー?ああ、あの人間の…お前もしっかり親父の血を引いてるよな。人間と半日過ごすなんて気が狂っちまいそうだ」
うげぇと舌を出しえずくふりをするカジ。奏人はその反応を無視し目を輝かせる。
「半分は人間なんだし、別に人間と触れ合うのだっておかしくないでしょ」
「はぁ…。もう半分は妖怪じゃねえか。あんな恐ろしい生き物と馴れ合うなんてイカれてるとしか思えねえよ。だいたいキクさんもなんで学校なんて許しちまったんだ…」
「だいたいそんな目の敵にしなくてもいいじゃん。母さんが許したってことは大丈夫って思ったってことでしょ」
「お前なぁ…。いいか、人間ってのはな──」
「あー!はいはいいつもの昔話はいいから!もう行かなきゃだし、じゃあね!」
「あ!おいこらカナト!!」
もの憂うような表情で話し始めるカジにいつもの昔話が始まると思った奏人は駆け出し小川をまた飛び越す。ガチャガチャと音を立てるリュックを揺らし道なき草木を駆け抜ける。
しばらく走っていくと木々の隙間から人工的なコンクリート製の道路が見えてくる。何気ない道ですら奏人には新鮮で学校というものへの感情が高ぶっていく。
もうすぐ俺もあの日見たような高校生に─
山の木々を抜け、開けた景色はまるで異国のように感じた。見たこともない外観の家が当たり前のように並び、一軒一軒に柵が使われ庭がある。数回人間の街に訪れたことはあるがいまだに慣れない。初の通学に鼻を膨らまし意気揚々と一歩を踏み出す。思い返せば高校生に憧れたきっかけはこの通学にあったのだと思う。
なんてことはない日、奏人がまだ10歳になったばかりほどのこと。母親のキクと人間の商店街へ行った際たまたま見かけた高校生が奏人の目にはかなり輝いて見えた。とくに目立ったことをするわけでもない。ただ友人と隣あって歩きゲラゲラと笑うその姿が一段と美しく見えたのだ。聞けば奏人でも行けるというのだから驚きだ。憧れた高校生に自分もなれると知りいろんな妖怪に自慢した。みな揃って反対したが奏人には全く持って効くことがなかった。母親も反対はしなかった。
目の前に広がる校舎。桜舞い散る春、たくさんの人間が笑顔で正門を通っていく。教師に挨拶する者、談笑しながら入っていく者、あの時と変わらない夢にまで見た高校生活が目の前に広がっていた。
「華の高校生活、まずは友達からだな…」
高鳴る鼓動と逸る気持ちを胸に正門を通っていくのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)
MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。
かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。
44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。
小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。
一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。
ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる