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六章

恋する娘と男の子 その8

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桜もいよいよ散り際の時期に差し掛かろうとしていた。
プリンたちとのいざこざも、なんだか、うやむやな内にどうでも良くなった。
結局、丸尾まるおはあの変態クラブに入ることとなり、どうしてなのか、部員は順調に増えている。
だが、部長の俊美としみにしてみれば、まだ部員は足りないらしく、事あるごとに宗一そういちを勧誘しては断られるを繰り返していた。
プリンはといえば、相変わらずである。
あの事件後、ちょっとは反省するかと思いきや、まったく変わらない。
反省などという概念は、彼女には難しいのかも知れない。
授業がない時間はいつもいつも宗一そういちの教室に押しかけて、一方的にまくし立てるように会話して、始業のチャイムが鳴ると帰って行くのだった。
「そーそー君!」という呼びかけと共に、今日もやはりいつものように教室に飛び込んでくる。
もう、何を言っても無駄そうなのでなのも言わないようにしていた。
一種の諦めなのだが、この頃はこんな生活にも慣れっこになっている辺り、人間の環境適応力は凄いと我ながらに思う宗一そういちであった。
首に腕を回してくる。
「プリン、今日は話があるんだー」
首にぶら下がりながら、楽しそうな笑顔でプリン。
いったい、話とは何だろうか。
いつもとは様子が違うようにも感じられてしまう。
とりあえず、話を聞いてみようと宗一そういちも思うのだった。
この頃はこういったスキンシップが激しい。
ただ、ここは二年生の教室である。
曲がりなりにも有名な美少女であるプリンがこういった行動に出てくれば噂の的になるし、それでなくても、女の子が男の子に飛びつくのは、他者の注目を集めてしまう。
さすがに恥ずかしさを覚える。
さすがに他人の噂話には敏感になる。
ということで、プリンを首にぶら下げるようにしたまま、「ちょっと来いよ」と教室から移動した。
階段の踊り場へとやってくる。
ここは人通りが少ない。
放課後や朝などは、むろん、人の往来が激しいが、昼休みはそうでもなかった。
話をするにはもってこいの場所であろう。
宗一そういちはその場にやってくると、プリンを半ば強引に自分から引き離し、話を聞くことにした。
「で、話ってなんだよ?」
「うん、実は為吉ためきちさんから伝言をあずかってきちゃった!」
為吉ためきち…? ああ、為吉ためきちって、もしかしてあの番長の為吉ためきちか?」
「うん! 正解!」
明るく楽しく健全な面持ちでプリン。
果たして、その口から出た名前は意外に感じられた。
いったい、為吉ためきちは自分に何の用事があるんだろう。
いったい、何を言伝されてきたのかは非常に気になるところだ。
「で、何を言ってくるように言われたんだ?」
「うん。難しいことじゃないよ! なんかー、今日の放課後に校舎裏に来てくれってさー」
「校舎裏…?」
そのプリンの言伝の内容に訝しげな表情の宗一そういちであった。
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