15 / 48
三章
深きから忍び寄るものたち その9
しおりを挟む
ほの暗い迷宮の奥深くに、とある建物が存在する。石造りの壁が陰気な雰囲気を醸し出し、その中に《深きから忍び寄るものたち》の隠れ家が存在した。
意外なことにこの迷宮の中には建物があった。建物と言ってもそれは朽ちかけたものであり、言うなれば、倒壊した古代の神殿という形容が相応しかった。
石造りの壁は長い歳月によって風化し、荒廃していた。
建物の大部分が使えない状態であったが、そのわずかにある瓦礫の隙間から内部に入ることが出来た。中には部屋がいくつか存在し、それらの部屋が彼らの寝床であった。
そもそも、このフローズン・シャドウホールという迷宮には人工的な部分とそうでない部分がある。
いったい、どのような存在がどのような理由でこの迷宮を構築したのだろう。
そのキョウの隠れ家がある建物は人工的な通路を抜け、非人工的な大きな空間に建てられていたものだった。
アリアたち一行は、そこに連れてこられ、キョウと話をすることになった。
その部屋はそこそこの広さがあり、真ん中には大きな卓がある。その上では心地よい銅の燭台の明かりが、壁の影に微かな光を投げかけていた。
部屋の片隅には何かしらの荷物が雑に置かれている。
もしかしたら、冒険者から巻き上げた品物の数々かも知れなかった。
アリア、エリック、ランディはそれぞれ席に着いている。
《深きから忍び寄るものたち》側はキョウ一人だ。
ランディは先ほどキョウにひねられた肘が痛いのか、度々気にしている様子だった。
エリックは物珍しそうに辺りを見回している。
「見たところ、結構な数がいそうだけど、冒険者を襲うだけでたべていけるの?」
「二十人ほどだ。まあ、冒険者襲うだけでは食べてはいけないが、金品を街に行って食料に変える係がいたり、他にも襲われてしまった冒険者の死体から使えるものをいただいたり、まあ、色々と手広くやっている」
「早速だけど、この迷宮はおかしいということだけど、何がどうおかしいの? 街でも同じことを聞いたわ」
「あー…なんというか。そもそもがこの迷宮自体が変だ。どう変かと言われると難しいが。理屈に合わない事件が起きたりしている」
「キョウがさっぱりと要領を得ないことを口走る。
「さっき変な死体を見たわ。ここに相応しくない人の死体だったわ。もしかしてそういうこと?」
「そうだな。今のこの場所では珍しくないことだと思う」
あの狩人のことだ。あの狩人はとてもこの場の住人だとは思えない。たとえば、どこか他の地域に住んでいる者の格好をしていたりとかだった。
「ここ一ヶ月ほどで他から突如としてこのフローズン・シャドウホールにいきなり現れた人間はかなりいると思う。うちにもそういう連中は三人はいる。その内の一人は俺だ」
「えっ!?」
アリアは思わず、声を上げた。その後に困惑したような顔つきになった。
彼女の隣では真剣な表情でエリックがそれを聞いていた。街では見せなかった真剣な様子だった。
「じゃあ、ここにいきなりあなたは飛ばされてきたってことよね? 前はどこで何をしていたの?」
「…前は…まあ、旅をしていた。あんたらと同じような仕事をしていた。でもどこかの迷宮にはいなかったし、このフローズン・シャドウホールとはまったく離れた場所に俺はいたはずだ」
「飛ばされるときにどうだった? 何かその前兆というか原因みたいなものに心当たりはないかしら?」
「…それは」
言いかけたときだった。
「アニキーっ!?」
突如として部屋に飛び込んできた大柄な男がいた。
サンドルだった。
「お前はアニキと呼ぶなと言っただろう?」
そう言ったキョウはすでに傍らの曲刀を手にして立ち上がっていた。
「ダミアンのやろうが…!」
「なんか出たか? また漏らしたのか?」
「…食われちまった…!」
その大きな体格には似合わないような怯えた様子で彼はキョウに伝えていた。
意外なことにこの迷宮の中には建物があった。建物と言ってもそれは朽ちかけたものであり、言うなれば、倒壊した古代の神殿という形容が相応しかった。
石造りの壁は長い歳月によって風化し、荒廃していた。
建物の大部分が使えない状態であったが、そのわずかにある瓦礫の隙間から内部に入ることが出来た。中には部屋がいくつか存在し、それらの部屋が彼らの寝床であった。
そもそも、このフローズン・シャドウホールという迷宮には人工的な部分とそうでない部分がある。
いったい、どのような存在がどのような理由でこの迷宮を構築したのだろう。
そのキョウの隠れ家がある建物は人工的な通路を抜け、非人工的な大きな空間に建てられていたものだった。
アリアたち一行は、そこに連れてこられ、キョウと話をすることになった。
その部屋はそこそこの広さがあり、真ん中には大きな卓がある。その上では心地よい銅の燭台の明かりが、壁の影に微かな光を投げかけていた。
部屋の片隅には何かしらの荷物が雑に置かれている。
もしかしたら、冒険者から巻き上げた品物の数々かも知れなかった。
アリア、エリック、ランディはそれぞれ席に着いている。
《深きから忍び寄るものたち》側はキョウ一人だ。
ランディは先ほどキョウにひねられた肘が痛いのか、度々気にしている様子だった。
エリックは物珍しそうに辺りを見回している。
「見たところ、結構な数がいそうだけど、冒険者を襲うだけでたべていけるの?」
「二十人ほどだ。まあ、冒険者襲うだけでは食べてはいけないが、金品を街に行って食料に変える係がいたり、他にも襲われてしまった冒険者の死体から使えるものをいただいたり、まあ、色々と手広くやっている」
「早速だけど、この迷宮はおかしいということだけど、何がどうおかしいの? 街でも同じことを聞いたわ」
「あー…なんというか。そもそもがこの迷宮自体が変だ。どう変かと言われると難しいが。理屈に合わない事件が起きたりしている」
「キョウがさっぱりと要領を得ないことを口走る。
「さっき変な死体を見たわ。ここに相応しくない人の死体だったわ。もしかしてそういうこと?」
「そうだな。今のこの場所では珍しくないことだと思う」
あの狩人のことだ。あの狩人はとてもこの場の住人だとは思えない。たとえば、どこか他の地域に住んでいる者の格好をしていたりとかだった。
「ここ一ヶ月ほどで他から突如としてこのフローズン・シャドウホールにいきなり現れた人間はかなりいると思う。うちにもそういう連中は三人はいる。その内の一人は俺だ」
「えっ!?」
アリアは思わず、声を上げた。その後に困惑したような顔つきになった。
彼女の隣では真剣な表情でエリックがそれを聞いていた。街では見せなかった真剣な様子だった。
「じゃあ、ここにいきなりあなたは飛ばされてきたってことよね? 前はどこで何をしていたの?」
「…前は…まあ、旅をしていた。あんたらと同じような仕事をしていた。でもどこかの迷宮にはいなかったし、このフローズン・シャドウホールとはまったく離れた場所に俺はいたはずだ」
「飛ばされるときにどうだった? 何かその前兆というか原因みたいなものに心当たりはないかしら?」
「…それは」
言いかけたときだった。
「アニキーっ!?」
突如として部屋に飛び込んできた大柄な男がいた。
サンドルだった。
「お前はアニキと呼ぶなと言っただろう?」
そう言ったキョウはすでに傍らの曲刀を手にして立ち上がっていた。
「ダミアンのやろうが…!」
「なんか出たか? また漏らしたのか?」
「…食われちまった…!」
その大きな体格には似合わないような怯えた様子で彼はキョウに伝えていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
〜仕事も恋愛もハードモード!?〜 ON/OFF♡オフィスワーカー
i.q
恋愛
切り替えギャップ鬼上司に翻弄されちゃうオフィスラブ☆
最悪な失恋をした主人公とONとOFFの切り替えが激しい鬼上司のオフィスラブストーリー♡
バリバリのキャリアウーマン街道一直線の爽やか属性女子【川瀬 陸】。そんな陸は突然彼氏から呼び出される。出向いた先には……彼氏と見知らぬ女が!? 酷い失恋をした陸。しかし、同じ職場の鬼課長の【榊】は失恋なんてお構いなし。傷が乾かぬうちに仕事はスーパーハードモード。その上、この鬼課長は————。
数年前に執筆して他サイトに投稿してあったお話(別タイトル。本文軽い修正あり)
女神に頼まれましたけど
実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。
その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。
「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」
ドンガラガッシャーン!
「ひぃぃっ!?」
情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。
※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった……
※ざまぁ要素は後日談にする予定……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる