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五章
冷たい影の穴の中で…。 その8
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細身剣というのは刺突に向き、迷宮の狭い通路のような場所でも効果を発揮するという特性がある。
しかしながら、地面や壁に打ち付けてしまえば、いとも簡単に曲がってしまったり、先端が折れたりしてしまうため、取り扱いには細心の注意を払う必要がある。
今回、アリアは相手の武器の破壊を意図した。
結果は彼女の思惑通りである。
ランディの手にしていた細身剣はウィップに横なぎにされて曲がった。
誰がどう見ても曲がっていた。
《闇魂憑依屍鬼》と化したランディは悔しそうな顔つきを見せることはなかった。
間髪入れず、もう一撃を入れる。
ウイップの一撃が今度は胴をえぐった。
ランディはその衝撃に思わず転倒しそうなくらいによろめいた。
しかし、ただそれだけである。
すぐに体勢を立て直すと、ひしゃげた細身剣を投げ付けてきた。
不意を突いたつもりなのだろう。まあ、そんなものに当たるつもりはなかった。
アリアはそれを避ける。
そして、もう一撃、今度は同じ場所にウィップを入れた。
しかし、先ほどとまったく同じ。
相手に効いている節がないのである。
一瞬、よろけはするが、相手の命を削れている気がしなかった。
「こいつは…!」
憎々しい声音を吐いた。
そうなのだ。
こいつらは《闇魂憑依屍鬼》である。
痛みなどは感じないのかも知れない。
相手の身体を損傷せしめるような攻撃でない限りはさして意味のない攻撃なのかも知れない。
そのことに気づいたアリアは己の武器の特性を嘆いた。
「何回も同じところに当てれば…!」
いずれはランディの身体を損傷させることが出来るかも知れない。
しかし、相手が鎖帷子を着込んでいたことも同時に思い出す。
相手の身体を損傷させて行動の自由を奪うのは非常に難しい気がしてしまう。
いったい、何回ウィップを振れば良いのだろう。
相手の自由を奪う前にアリアの体力が尽きる気がしてしまった。
それでも打つしかない。
アリアは苦いものを噛みつぶしたような表情で相手の胴を打ち、顔を打った。
何回目のことだろう。
ランディの顔の皮膚がめくれた。
「ひぃっ!」とセリアが甲高い悲鳴を上げていた。
それは激しくウィップで打ち続けたせいだ。
頬の辺りが裂け、歯がむき出しとなり、頭髪を伴った頭の皮膚が飛んでいた。
いたたまれない気持ちになる。
吐きたい衝動が胃の奥からこみ上げてくる。
それでもなお、アリアは攻撃の手を止めない。
しかし、ランディもまた歩みを止めなかった。
もう何回か打ち続けたときのことだ。
ランディが不意に差し出した腕にウィップが絡まった。
ランディは自身の腕に絡まったウィップを力任せに引いた。
またしてもその膂力にアリアは身体ごと引き寄せられた。
足下に転がっていた大きな石につまずき転倒するアリア。
ランディは自らの戒めを解くと、素早い動きで傍らの《闇魂憑依屍鬼》の死骸に近づいた。
「しまった!」
アリアが転倒したままの体勢で叫んだ。
ランディは自分の仲間が持っていた曲刀を拾い上げていた。
そして、アリアには目もくれずにセリアのほうへと向き直る。
「セリア逃げて!」
悲鳴にも似たような叫びを放っていた。
セリアは怯えた表情でアリアを一瞥し、それからランディを見た。
彼は緩慢な動作でセリアに近づくと、その手にした曲刀を振りかぶっていた。
ぴちょんとどこかでしずくが落ちる音がした。
アリアは思わず顔を背けてしまった。
自らに振り下ろされた刃に対して、セリアは目をぎゅっと閉じていた。
次の瞬間には訪れるであろう自身の運命をただ待ち受けることしか出来ないでいた。
しかしながら、地面や壁に打ち付けてしまえば、いとも簡単に曲がってしまったり、先端が折れたりしてしまうため、取り扱いには細心の注意を払う必要がある。
今回、アリアは相手の武器の破壊を意図した。
結果は彼女の思惑通りである。
ランディの手にしていた細身剣はウィップに横なぎにされて曲がった。
誰がどう見ても曲がっていた。
《闇魂憑依屍鬼》と化したランディは悔しそうな顔つきを見せることはなかった。
間髪入れず、もう一撃を入れる。
ウイップの一撃が今度は胴をえぐった。
ランディはその衝撃に思わず転倒しそうなくらいによろめいた。
しかし、ただそれだけである。
すぐに体勢を立て直すと、ひしゃげた細身剣を投げ付けてきた。
不意を突いたつもりなのだろう。まあ、そんなものに当たるつもりはなかった。
アリアはそれを避ける。
そして、もう一撃、今度は同じ場所にウィップを入れた。
しかし、先ほどとまったく同じ。
相手に効いている節がないのである。
一瞬、よろけはするが、相手の命を削れている気がしなかった。
「こいつは…!」
憎々しい声音を吐いた。
そうなのだ。
こいつらは《闇魂憑依屍鬼》である。
痛みなどは感じないのかも知れない。
相手の身体を損傷せしめるような攻撃でない限りはさして意味のない攻撃なのかも知れない。
そのことに気づいたアリアは己の武器の特性を嘆いた。
「何回も同じところに当てれば…!」
いずれはランディの身体を損傷させることが出来るかも知れない。
しかし、相手が鎖帷子を着込んでいたことも同時に思い出す。
相手の身体を損傷させて行動の自由を奪うのは非常に難しい気がしてしまう。
いったい、何回ウィップを振れば良いのだろう。
相手の自由を奪う前にアリアの体力が尽きる気がしてしまった。
それでも打つしかない。
アリアは苦いものを噛みつぶしたような表情で相手の胴を打ち、顔を打った。
何回目のことだろう。
ランディの顔の皮膚がめくれた。
「ひぃっ!」とセリアが甲高い悲鳴を上げていた。
それは激しくウィップで打ち続けたせいだ。
頬の辺りが裂け、歯がむき出しとなり、頭髪を伴った頭の皮膚が飛んでいた。
いたたまれない気持ちになる。
吐きたい衝動が胃の奥からこみ上げてくる。
それでもなお、アリアは攻撃の手を止めない。
しかし、ランディもまた歩みを止めなかった。
もう何回か打ち続けたときのことだ。
ランディが不意に差し出した腕にウィップが絡まった。
ランディは自身の腕に絡まったウィップを力任せに引いた。
またしてもその膂力にアリアは身体ごと引き寄せられた。
足下に転がっていた大きな石につまずき転倒するアリア。
ランディは自らの戒めを解くと、素早い動きで傍らの《闇魂憑依屍鬼》の死骸に近づいた。
「しまった!」
アリアが転倒したままの体勢で叫んだ。
ランディは自分の仲間が持っていた曲刀を拾い上げていた。
そして、アリアには目もくれずにセリアのほうへと向き直る。
「セリア逃げて!」
悲鳴にも似たような叫びを放っていた。
セリアは怯えた表情でアリアを一瞥し、それからランディを見た。
彼は緩慢な動作でセリアに近づくと、その手にした曲刀を振りかぶっていた。
ぴちょんとどこかでしずくが落ちる音がした。
アリアは思わず顔を背けてしまった。
自らに振り下ろされた刃に対して、セリアは目をぎゅっと閉じていた。
次の瞬間には訪れるであろう自身の運命をただ待ち受けることしか出来ないでいた。
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