フローズン・シャドウホールの狂気

バナナチップボーイ

文字の大きさ
37 / 48
六章

アリアと名付けられた少女とアリアと名付けられた女性 その1

しおりを挟む
深淵のような闇が支配する迷宮ダンジョンの通路。それは古代の巨人が徒党を組んで歩いても差し支えないほどの幅を持っていた。
だが、そこは陰鬱とした空気が絶えず漂っている。
そこでアリアは腹部を蹴られて転倒し、今も身を起こせずにいた。
セリアが近づいていた。
いや、彼女はセリアではないのかも知れない。
なにかと出会い、あの怯えたような表情をする彼女も愁いを帯びたような表情をする彼女も、もはや微塵も存在していないように感じた。
ただ杖を持ち、冷酷かつ軽薄そうな表情で近づいてきたセリアは、残忍な魂を持つ魔女のようですらあった。
アリアの胸ぐらを掴み、先ほどと同じように、にやりとした笑みを浮かべると、手にしていた杖を顎の辺りに突きつけてきた。
「…この杖はな《光撃の杖イルミナ・ウィスプ》という杖だ。先ほどは光を発しただけだ。しかし、使い方では貴様の頭を吹き飛ばすことも出来るという代物じゃ…」
まるで老婆のような口調でセリアは言う。
もう完全におかしい。おかしくなっている。
どうしてこんなことが起きているのかなとばもう分からなかった。
ただ自分は死の一歩手前にいるようだ。
そのことを悟ったが、アリアは混乱の成果、何かをすることは出来なかった。
「お前の頭を吹き飛ばして、その頭のなくなった胴体から血をすすってやろう…くくく…」
杖の先端が光を帯び始める。
アリアはぎゅっと目をつむった。
「おいおい! そこのお前、俺様のアリアを使って遊んでんじゃねーぞ…」
低い声で人を食った言葉。
闇の中から突如として聞こえた言葉にセリアは向き直る。
きっと表情を歪めてその果てしなく深い闇の方角へと視線を向けた。
輪郭があらわになる。
すでに抜き身の曲刀を手にしているキョウとエリックがゆっくりと闇の中から現れた。
セリアは一つ舌打ちをしてキョウに目がけて光の球を放つ。
アリアの頭を吹き飛ばせると豪語していた威力だ。
しかし、キョウはなんとそれを横に飛んで避けた。
光球は予定を変更し、キョウのはるか後ろで爆発した。
凄まじい音と光の広がりが辺りを昼よりもまだ明るくした。
確かにあんなものを食らったら頭が吹き飛ぶ。
いや、全身で受けてしまえば、全身がなくなるだろう。
その威力にアリアは軽い戦慄を覚えた。
「ふぅー…。通路の幅が狭かったら危なかったぜ」
「相変わらず減らず口を…!」
「…おれはそんな悪い使い方を教えた覚えはないぜ…!」
キョウはそんなことを言って、曲刀を地面に突き刺した。
もしかしたら二人は知り合いなのだろうか。
アリアは身を起こしながらそんなことを考える。
「大丈夫か?」
エリックが足早に駆け寄ってきてアリアの身を起こした。
「エリック…ランディが死んだわ…!」
「そのようだな…」
傍らの凄惨な中間の死骸をエリックは見た。
今までに見たことがないほどに真剣な顔つきだったように見える。
「気をつけて…!  あの娘は…キョウを助けないと!」
彼女と対峙しているキョウの姿を見据えて、アリアは四肢に力を入れて立とうとした。
しかし、身体に力が入らない。
立ちかけたところで力尽きたようにまたその場に崩れ落ちた。
「…任せるんだキョウに…」
エリックの言葉に「でも!」とアリアは反論しようとした。
「彼に任せよう。彼なら大丈夫…だって彼は…!」
エリックは一瞬だけ優しそうな笑みを見せた。
見ていると安心できる微笑みだった。
確かに彼のこの微笑みならば、多くの女性を虜に出来るのかも知れない。
アリアはそれ以上はなにも言わなかった。
ただ、今はこの二人に任せようと思うのだった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

〜仕事も恋愛もハードモード!?〜 ON/OFF♡オフィスワーカー

i.q
恋愛
切り替えギャップ鬼上司に翻弄されちゃうオフィスラブ☆ 最悪な失恋をした主人公とONとOFFの切り替えが激しい鬼上司のオフィスラブストーリー♡ バリバリのキャリアウーマン街道一直線の爽やか属性女子【川瀬 陸】。そんな陸は突然彼氏から呼び出される。出向いた先には……彼氏と見知らぬ女が!? 酷い失恋をした陸。しかし、同じ職場の鬼課長の【榊】は失恋なんてお構いなし。傷が乾かぬうちに仕事はスーパーハードモード。その上、この鬼課長は————。 数年前に執筆して他サイトに投稿してあったお話(別タイトル。本文軽い修正あり)

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

処理中です...