魔法の呪文

四出 無衣葉

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彼らは

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彼らは果たして幸せだったのでしょうか

そもそも幸せとはなんなのでしょうか

生で始まり、死で終わる

目では見ることのできない感情というものに

囚われていることを思うと

その中に意味を見出だそうとしたのかもしれません

ただ生き、ただ死ぬ

それは恐ろしく、悲しいとさえ思えて

痛みや苦しみを感じることがない

「死」に逃げないためのシステムに思えます

幸せって何でしょう

少年にとっての幸せは愛を感じること

温かな生を送ること

誰かと共にいること

少女にとっての幸せは変わらない景色

誰かが加わらずとも

常に同じ景色が

心地よい景色が

自分と共にあること


少女は確かに少年との間に子を授かりました

契りを結びました

でも、少女は少年を愛していなかったかもしれない

少女にとっての幸せは変わらない景色だったから

そこに少年がいる必要はなかった

少年は変わらない幸せを得るための道具だった

それでも少年は愛を求めた

愛は無いと知っていた

温かさだけは、それを分けてくれることは理解した

それだけで十分だった


いつの間にか、少女にとって少年も景色の一部になっていた

少年のお陰で力を取り戻した龍は少女の幸せを守った

新たな愛を求める少年と子を育んだ

少年は新しい愛を知った

逃れられない愛を

逃れたくない愛を

狂おしく求めてはいない

狂おしく求めていたのかもしれない

少女との違いに悩んでいた

少女には力はなく、純粋な欲だけがあった

少年には力があり、純粋な無だけがあった

狼は種族の違いを憂いていた

龍は老いて失う力を嘆いていた

少年は彼らの求めるものに合致しただけ

果たして少年は幸せだったのでしょうか

それとも後で育まれた愛もあった?

それ故に幸せを感じていたのでしょうか

それ程に愛を求めていたのでしょうか

彼の母は力を持った少年を忌避しました

それまでは何百の宝石よりも輝く愛を送りました

少年はそれを覚えています

だからこそ求めていました

だからこそ飢えていました

だからこそ苦しんでいました

だからこそ嘆いていました

本当に欲しかったのは誰かの愛だったのでしょうか

その誰かは誰でもよかったのでしょうか

いいえ

彼は最後まで求めていたのだと思います

母の愛を

ただ、それだけを




もしかしたら、もう、忘れてしまったかもしれませんが、



母の愛を、あの時の母を、確かに

最後まで愛して欲しかったと

悔やんでいるかもしれません

もう叶わなくさせた龍を恨んでいるかもしれません


それでも彼は愛を求めます


母の愛を


誰かからの愛を


望みを断つように


温かさを取り戻すために
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